ミツカンが2022年9月1日から、「味ぽん」や「バターしょうゆ」風味のたれをつけた納豆を発売。同社は他にも「焼肉」「たまご醤油」「うな重」など、異色のたれの納豆を多数展開してきた。一見、邪道にも思える“変わり種フレーバー”は売れているのか。開発の背景を聞いた。

ミツカンが2022年9月に発売した、「美味ぽん納豆」(左)と「金のつぶ バターしょうゆたれ」(右)
ミツカンが2022年9月に発売した、「美味ぽん納豆」(左)と「金のつぶ バターしょうゆたれ」(右)

 「2022年7~8月には期間限定で、たれがうな重風味の納豆を発売。まるでうな重を食べているような気分を楽しんでいただき、話題にしていただけたらという思いで、土用のうしの日あたりに発売。狙いとしてはかなり成功した」(ミツカン マーケティング本部 食品企画部 食品企画1課 梶原洋平氏)

 市販で販売されている納豆には、だし醤油(しょうゆ)のたれとからしが同封されているもの――。そんな固定概念を覆すように、ミツカンは変わり種の納豆を続々と展開している。上記の梶原氏の発言にもある通り、22年夏には期間限定で、うな重風味のたれをつけた納豆を発売。同年9月1日からは通年商品として、味ぽん風味の「美味ぽん」や「バターしょうゆ」風味のたれを同封した納豆を発売している。

 実際にスーパーを訪れてみると、店頭には多種多様なフレーバーの納豆が並ぶ。ご飯に合うと書かれた「焼肉風味のタレ」や、たまごかけご飯のような食感とうたわれた「たまご醤油たれ」、納豆の上にバターがのったイラストが目を引く「バターしょうゆ」など、思わず目を留めてしまうラインアップだ。

「金のつぶ ご飯に合う 濃厚焼肉タレで食べる旨~い極小粒納豆」(左)と「金のつぶ うな重納豆」(右)
「金のつぶ ご飯に合う 濃厚焼肉タレで食べる旨~い極小粒納豆」(左)と「金のつぶ うな重納豆」(右)

 これらは通年で販売している商品だが、前述のうな重をはじめ、期間限定の商品も定期的にリリースしている。すき焼、四川麻婆(マーボー)、トマト風味、ネギ風味のみそだれなど……。これまで市場に送り込んだフレーバーは20種類以上に及ぶ。

 なぜミツカンは、一見、邪道にも思える変わり種を連続して市場に投入するのか。

年間4億食を超える納豆商品も

 ミツカンが「フレーバー系納豆」を発売し始めたのは05年。金のつぶシリーズから発売した「金のつぶ 梅風味黒酢たれ」納豆が始まりだ。

 梶原氏は、「調味料メーカーとしての強みを生かし、複数のフレーバーを展開することで、他社との差別化を図りつつ、顧客との接点や購入頻度を増やすことを狙っている。消費者には楽しみながら納豆を選んでほしい」と語る。

ミツカン マーケティング本部 食品企画部 食品企画1課 梶原洋平氏
ミツカン マーケティング本部 食品企画部 食品企画1課 梶原洋平氏

 確かにバラエティーに富んだ納豆は目を引く。ただ、気になるのは「これらのフレーバー系納豆は売れているのか」ということだ。筆者もこれらの変わり種のうち、焼肉やたまご醤油味のものをたまに購入しているが、「結局スタンダードなだし醤油のたれが一番……」という気持ちも否めない。

 ただ梶原氏によれば、近年のミツカンのトレンドでは、フレーバー系納豆の売り上げは増加しているという。ミツカンでは20年春から、フレーバー系納豆を定期的に市場に投入しているが、味の選択肢が増えるほど、納豆カテゴリーの購入者も右肩上がりのようだ。

 梶原氏は、好調の理由を「納豆は毎日のように食べる人も多く、全体的に購入頻度が高いので、同じものをずっと買い続ける人は少ない。多くは『いつもは定番のだし醤油を買うけど、たまには焼肉にしよう』など、何種類か買い回る傾向がある。フレーバー系納豆を展開することで、必然的に手に取ってもらえる機会も多く、『ミツカンの納豆には新しさや楽しさがある』というイメージも蓄積された」と分析する。

ミツカンが展開する納豆の商品群。フレーバー系納豆以外にも、においを抑えたものや、カルシウムの吸収を促進するビタミンK2が多く入ったものなども展開している
ミツカンが展開する納豆の商品群。フレーバー系納豆以外にも、においを抑えたものや、カルシウムの吸収を促進するビタミンK2が多く入ったものなども展開している

 納豆好きからしたら、購入機会が多いゆえに、ワンパターンの味だとマンネリを感じることは多い。そんな消費者に気分転換となる味の選択肢を提案することは、自社商品の購入機会を増やすだけでなく、ブランドから離れないようにする効果もある。

 また、フレーバー系納豆の強みは、納豆が苦手な人に受け入れられているところだ。例えば、焼肉やバターしょうゆではたれを濃く甘めに、黒梅酢では酸味でさっぱりさせている。納豆特有の発酵したにおいが抑えられることで、納豆に抵抗感のある消費者を取り込めるのだ。

 実際にフレーバー系納豆は、スタンダードなものに比べて、20~30代の若年層や、エントリー層の購入率が高い。ミツカンの納豆全体における年代別の購入割合を見ると、20代が5.8%、30代が12.4%という結果に対して、フレーバー系納豆は20代が8.5%、30代が15.6%という結果となった(インテージSCIによる、21年9月~22年8月の調査による)。

 商品開発の段階から、子供がいるヤングファミリー層など、比較的納豆に抵抗感を持つ消費者に向けて味の設計を行っている。20年には、たまご醤油たれの納豆の販売数が年間4億食を突破し、ミツカンの全商品の中で最も売り上げが高くなったというから驚きだ。

 「たまご醤油たれは、06年の発売当初から過去2回リニューアルを実施。卵かけご飯のようにかき込める感覚を再現するため、たれを通常の倍近い10グラムにするなど改良を重ねた。納豆のネバネバ感が苦手な人にも『サラサラ食べられる』と間口が広がり、納豆好きからも卵らしいまろやかなコクが好評だ。今となっては、ミツカンの数ある納豆商品の中で、売り上げ1位を獲得している(インテージSRIによる、21年3月~22年2月の調査による)」(梶原氏)

歴代の「たまご醤油たれ」納豆。左が06年の発売時のもので、改良を重ね、現在は右の形に。ミツカンの全商品の中で一番売れている商品というから驚きだ
歴代の「たまご醤油たれ」納豆。左が06年の発売時のもので、改良を重ね、現在は右の形に。ミツカンの全商品の中で一番売れている商品というから驚きだ

マイナーチェンジが新規層の獲得に

 ミツカンがこうした変わり種のフレーバーを定期的に展開できるのは、大きく3つの理由がある。

 1つ目は、調味料メーカーとしての知見だ。ミツカンといえば、味ぽんやごまだれ、追いがつおつゆなど、数多くの調味料でヒット商品を世に出してきた。こうした自社の商品と納豆を掛け合わせることで、常に新しいものを追求している。

 2つ目は、部署を異動するサイクルが速いことだ。ミツカンでは、例えば去年まで鍋つゆを開発していた担当者が、今年に入って納豆の企画担当に異動するなど、様々な商品カテゴリーを経験する社員も少なくない。ミツカンの持つ商材が、納豆に生かされやすい組織体制になっているのだ。

 3つ目は、攻めた企画も受け入れられやすいことだ。「ミツカンは創業以来、変革と挑戦を繰り返しており、ユーザーに受け入れられる見込みがあれば、ユニークな企画でも商品化されやすい。常に新しいフレーバー系納豆のアイデアはたくさん出ている」と梶原氏。商品化には至らなかったものの、過去にはデミグラスソース風、お好み焼き風、バーベキュー味など、攻めた商品ながら市場調査の段階まで企画を進めていたものも多い。

 こうした要因によって、手を替え品を替え、常に新しい需要を喚起し続けるミツカン。風変わりな商品を出すことで、量販店でも消費者の気を引きやすいというメリットもある。

 「納豆は量販店で売り場が決まっていて、他社の商品と並ぶケースが多い。そうした状況で、まず手に取ってもらうためには、味やパッケージの部分で目立つことがとても重要になる。納豆売り場は販促ポップをつける場所も限られ、全商品にコマーシャルを打てるわけでもない。新規層を獲得するためにも、店頭でいかに気になって買ってもらえるかを毎回工夫している」

 ちなみにミツカンは、味だけでなく、パッケージにも力を入れている。「とろっ豆」ブランドでは、これまで発売したパッケージの種類は250を超えるという。パッケージには子供の遊び心をくすぐるような迷路や間違い探しを入れたり、期間限定でハロウィーン仕様にしたりと、細かい仕掛けが施されている。こうしたマイナーチェンジも、新規層の獲得につながっているわけだ。

「とろっ豆」の歴代のパッケージの一部。22年9月からは、期間限定で22年度版のハロウィーン仕様のパッケージで販売している
「とろっ豆」の歴代のパッケージの一部。22年9月からは、期間限定で22年度版のハロウィーン仕様のパッケージで販売している

 「『ミツカンの納豆はワクワクする』というブランドイメージを定着させ、消費者に期待感を持ってもらえるよう、とにかく新しい仕掛けを考えている。ユニークなフレーバーやパッケージを通して、親近感を持ってもらえるようなコミュニケーションを意識している」と梶原氏。納豆という日常品だからこそ、常に変化していくことが重要というわけだ。

(画像提供/ミツカン)

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