カゴメが2022年10月3日から、プラントベースの「SOVE(ソブ)シリアル」を販売している。300グラム1728円(税込み)と、シリアルにしては高価格ながら、「店舗で販売しない」「テレビCMや新聞広告は打たない」「カゴメブランドであることを主張しない」と、あえて挑戦的な展開を行う。その理由とは?
近年、動物性原料を一切使用せずに製造されたプラントベースフードが注目を集めている。大豆を原料とした疑似肉や、ナッツや穀物を使用したミルクなどは、コンビニやチェーンストアでも販売されており、見たことがある人も多いはずだ。
プラントベースフードは、家畜を育てる際に排出される二酸化炭素(CO2)や水の量を削減でき、将来的な人口増加による動物性たんぱく質不足解消にも貢献するため、サステナブルな観点から期待される。また消費者目線からすれば、低脂質、高たんぱく、食物繊維が豊富で、ヘルシーな魅力がある。プラントベースフードの市場規模は、2020年の265億円から、30年には2000億円の規模になると予測されている(カゴメの公式ホームページに掲載されている、調査会社のTPCマーケティングリサーチが21年4〜5月に行ったデータによる)。
20~40代の女性に訴求
創業1899年のカゴメも、こうした多方面にメリットをもたらすプラントベースフードの浸透に注力している。2019年から大豆ミートを使用したレトルトカレーやパスタソースを展開し、22年4月にはフードテックベンチャー「TWO(トゥー、東京・渋谷)」と協業で、プラントベースのオムライスを共同開発した。
そして22年秋、カゴメは新しいプラントベースのブランド「SOVE」をローンチした。ブランド名は、大豆の「SOY」と、野菜の「VEGETABLE」を組み合わせたもの。22年10月3日からは、ブランド第1弾の商品として、食品素材を手がける不二製油と共同開発を行った「SOVEシリアル」を発売した。
SOVEシリアルは、大豆を原料としたフレーク2種に、トマトやカボチャなどフリーズドライした4食の野菜キューブをミックス。甘くて食べやすいグラノーラと、ヘルシーなオートミールの中間をイメージして味を設計した。1食分と想定する30グラムのうち、たんぱく質が約15.1グラム、食物繊維が6.7グラムを占め、一方で糖質は4.1グラム、カロリーは99キロカロリーにまで抑えた。砂糖、香料、保存料などは使用しておらず、健康的な食生活を求める20~40代の女性に訴求していく。
気になるのは、SOVEシリアルの訴求方法だ。プラントベースフードは成長市場ではあるものの、まだ市民権を得るほどの認知度はなく、そのうえ製造コストもかさむ。SOVEシリアルの内容量300グラムで1728円(税込み)という公式オンラインショップでの価格も、他社の一般的なシリアルやオートミールより高価格の位置付けだ。
しかもSOVEシリアルの販路は、現時点ではSOVEの公式オンラインショップのみ。今後もスーパーなどに展開する予定はないという。テレビCMや新聞広告も打たず、パッケージや公式オンラインショップを見ても、カゴメブランドの商品であることを前面に打ち出していない。マスに向けての広告や量販店での販売はせず、カゴメブランドの知名度も利用せずに、新興ブランドを浸透させようと画策しているわけだ。
SOVEブランドを立ち上げたカゴメSOVE事業部課長の恵良正和氏は、「SOVEブランドは、既存のプラントベースフードとかなり異なる展開をしていく。当社としてもかなり冒険ではある」と語る。
スーパーだと客層が固定化されやすい
なぜカゴメは、あえて同社のブランド力やマス広告に頼ることなく、公式オンラインショップのみで販促するのか。チャレンジングな販促方法には、20~40代の女性層を獲得したいという狙いがあった。
「今までスーパーなど店頭でリーチしきれていなかった、20代~40代の女性をターゲットとして取り込むため、SOVEシリアルの販売チャネルはECに絞った。スーパーで食品を展開すると、購買層が20代~40代の女性というよりは、どちらかというとファミリー層や40~50代の主婦に寄る。また、カゴメブランドであることをあえて主張しないことで、比較的若いユーザーにも先入観なく手に取ってもらえると考えた」と恵良氏。
カゴメといえば、ケチャップをはじめとした調味料やパスタソースなどを、量販店で手軽に購入できる庶民的なイメージが強い。一方でSOVEシリアルは、健康的な食生活を求める意識の高い女性層に訴求していくため、カゴメのブランドイメージと若干の乖離(かいり)が生じる。新規の色がついていないブランドだからこそ、あえてカゴメの屋号を引き継がず、商品コンセプトに沿った販路で展開する。
テレビCMや新聞広告など大衆に向けた広告を打たないのも、こうしたブランドイメージやコンセプトを保つためだ。
「意識の高い20~40代の女性には、手の届かないようなタレントよりも、身近で自分ごと化しやすいインフルエンサーのほうが刺さりやすい。SOVEシリアルのアレンジレシピなどを、アンバサダーや一般のファンに発信してもらうことで、お客様と一緒にブランドを育てていけたら」と展望を語る。
そもそもSOVEブランドは、今回のお披露目までに、2年ほどの準備期間を費やしている。商品の構想を進めていくうえで、参考にしたのがアンバサダーの声だ。食感や栄養素、価格帯、どのようなアレンジがふさわしいかといった商品開発から、ECサイトのデザインやカゴメのブランド感を出したほうが良いかどうかといったブランディングまで、第三者の意見を結晶させて生まれたのがSOVEシリアルなのだ。
消費者目線を徹底したSOVEシリアルだからこそ、商品の世界観をユーザーに共有することが重要となる。販売チャネルを公式オンラインショップにしたのも、アレンジレシピの投稿や、原料や製法のこだわりなどを詳細に載せられるからだ。多少値が張る価格だからこそ、店頭でマスに向けて売るのではなく、ブランドに共感してくれるファンを獲得していくやり方が適切だと考えた。
「SOVEブランドを立ち上げることで、新しいユーザー層や需要を喚起できるだろうという当社の見通しがあった。ただ実際に、新規層を獲得していくためどうすればいいかを考えたところ、おいしく体に良い食事を気軽に提供することが重要になると考えた。SOVEブランドを通じて、プラントベースフードを習慣化させていきたい」と恵良氏。従来のカゴメブランドとは趣が異なる、全く新しいともいえるSOVEブランドで、新たな鉱脈を掘り出せるか。
(写真提供/カゴメ)