3年ぶりに千葉・幕張メッセでのリアル開催となった「東京ゲームショウ2022」(TGS2022)。一般公開日の来場者数の制限、小学生以下の入場禁止、コスプレ撮影会の禁止などの制限はあったもの、2019年に近い規模となった。その成果と課題を、ゲーム業界を長く取材する3人のライターが分析する。3回目は、ゲーム、eスポーツの動向を精力的に取材するライターの岡安学氏。
2022年も東京ゲームショウ(TGS)が無事終わり、毎年恒例となっている日経クロストレンドのTGS振り返り記事を書かせていただくことになりました。
TGS2022は、3年ぶりのリアル開催となり、ようやく戻ってきたなというのが率直な印象です。展示会場は1~8ホールのみで、19年以前に使用していた9~11ホールは使っておらず、規模としては縮小しました。しかし、もともと9~11ホールは、コスプレエリア、eスポーツ用のイベントステージ、物販、VR(仮想現実)、ファミリーコーナー、インディーゲームコーナーなどが中心。今回はコスプレエリアとeスポーツ用のイベントステージ、ファミリーコーナーがなくなったので、展示エリアが小さくなった印象はそれほどありませんでした。TGS2019が40の国と地域から655の企業と団体が参加していたのに対し、TGS2022は37の国と地域から605の企業と団体が参加していたことを考えると、出展者数もさほど減っていないと言えるでしょう。
リアル会場と配信を連携させるメーカーも登場
さて、TGS2022を取材しての第一印象は、「久々の割にはしっかりと東京ゲームショウだったな」というものです。日本各地の祭りも、3年開催していないとノウハウが継承されなくなりがちといわれていますが、TGSに関してはそんなことはなかったようです。
ただ、3年の間に展示のトレンドが変化したことは感じました。その1つに、試遊がメインになったことが挙げられます。以前から最新ゲームタイトルの試遊台を用意しているブースは多々ありましたが、22年はできるだけ試遊台を増やし、少しでも触ってもらおうという姿勢が見えました。シアター系の展示コーナーはほぼなくなり、ステージを用意しているブースもまれでした。
これは新型コロナウイルス禍におけるリアルイベントとして、わざわざ現地に赴いた人に、会場ならではの体験を提供することを重視した結果ではないでしょうか。ステージイベントやトレーラー(予告映像)は、配信で対応しているメーカーも多くありました。TGSがオンライン開催を開始して2年、オンラインとオフラインそれぞれの良いところをしっかり出せていたように思います。
例えば、カプコンの『ストリートファイター6』の場合、リアル会場のブースでは、8人のキャラクターが操作できる試遊台を多く展示していましたが、それ以上の情報は基本的に得られませんでした。一方、カプコン公式配信では、タイトルリリース時から使える初期参戦キャラクター18人を発表し、そのうちいくつかのキャラクターについては動いているところを見せていました。このほか、テーマソングやクローズドベータテストの情報なども配信のみで確認できました。TGS2022の初日にあたる9月15日の配信で「ケン」の参入を発表し、16日以降のリアル会場試遊台でケンが使えるようにしていたのも、うまく連携を取れていたと言えます。
会場に訪れる人は、配信を見なくていいのではなく、配信も合わせて見ることでより多くの情報が得られるようになったわけです。もちろん、全メーカーがこういった対応をできていたわけではありませんが、今後はハイブリッド開催の意味をより持たせた展開をしてくるメーカーは増えていくのではないでしょうか。
ステージがなくても人気のeスポーツ
ここ数年のTGSでは、筆者はeスポーツ全般をカバーすることが多く、22年もeスポーツ関連を中心に取材しました。TGS2022では、近年定番化していたeスポーツ専用ステージ「e-Sports X(イースポーツクロス)」がなく、大きなイベント、大会もありませんでした。ですが、展示エリアには「eスポーツコーナー」が設けられるなど、eスポーツ関連の出展自体は増えています。
サードウエーブのゲーミングPCブランド「GALLERIA(ガレリア)」や、周辺機器メーカーのスティールシリーズジャパン、エレコム、東プレなどがeスポーツを前面に押し出して出展。ゲーミングチェアブランドの代表格であるDXRacer(ディーエックスレーサー)のほか、イトーキやニトリといった家具メーカーもゲーミングチェアを展示したブースを出していました。変わり種としてはゲーミングマンションやゲーミンググミといったものもあり、ゲーミングと名が付けば何でもOKとすら感じるほどです。
これらのメーカーの多くはプロゲーマーやプロチーム、ストリーマー(配信者)のスポンサーになっていることも多く、ブース内イベントのゲストとして、プロゲーマーやストリーマーなどが多数出演していました。TGSのブースイベントのゲストと言えば、芸能人や声優が一般的でしたが、3年経過する間に、プロゲーマーやストリーマーの集客力、影響力が拡大し、イベントゲストの主流となりつつあると感じました。
例えば、スティールシリーズジャパンブースにはプロeスポーツチームのREJECTが、GALLERIAブースには同じくプロeスポーツチームのDETONATORとストリーマーのSHAKA氏が、カンロの物販ブースには忍ism Gamingが、エレコムブースにはFAV gamingが登場。いずれも登場時には黒山の人だかりができ、ブースのスタッフが対応に大わらわになっていました。
特にSHAKA氏は、ファンミーティングとして握手会や撮影会を実施しましたが、その集客数は相当のものでした。1人あたりの対応時間は短く、回転は良かったのですが、それでもブースから人が途絶える気配がありませんでした。これだけの人気と注目度があるのであれば、TGS2023のアンバサダーを人気ストリーマーが務める可能性は十分にあると思います。
こうした事象は、eスポーツ人気の定着を感じさせるには十分でした。今後、TGSで「e-Sports X」が復活するかは分かりませんが、実施するとしても前回までの会場規模ではもはや入りきらないのではないかと思います。別会場を設ける、あるいはeスポーツを東京ゲームショウと切り離し、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)主催のイベントを新たに開催するといった手が必要になるかもしれません。
VR会場は「期間限定公開がもったいない」
最後に、TGSリアル会場と併設されているVR会場「TOKYO GAMESHOW VR 2022」(TGSVR2022)にも触れておきたいと思います。VR会場はTGS2021から導入されましたが、会期中はリアル会場の取材をしていたため、遊びに行くことができませんでした。
そこで、VRに詳しい動画ライターのわっき氏に話を聞いたところ、かなりのボリュームで楽しめる内容になっていたとのことでした。TGS2021では、VR空間のブースで動画やオブジェを見て回り、会場の雰囲気を楽しむ程度でしたが、TGSVR2022ではVR会場を隅まで楽しめる仕掛けが多く用意されていました。
例えば、VR会場内に用意されたミッションをクリアするには、各ブースを訪れて課題をクリアする必要があり、自然とさまざまなブースを散策することになります。TGS2021ではほぼ動かなかったオブジェやキャラクターも動いており、ブースの説明などをしていました。仲間同士で一緒に回りたい場合は、ボイスチャットのサーバーを立て、サーバー内の人たちだけで会話をしながら見て回ることもできたようです。
ボイスチャットの音声品質が低いなど課題はあったものの、わっき氏によると「見るものが多くて1日では回れなかった。2日間ずっとTGSVR2022の会場で遊んでいた。期間限定で公開するだけではもったいない」とのこと。今回のリアル開催によって、いよいよ本格的なTGSハイブリッド時代に突入するといえるのかもしれません。
TGSはゲームの見本市からゲームの複合イベントへ昇華したのち、その枠をリアル会場からオンライン配信、VRへと広げてきました。ダウンロード販売やオンラインゲームの本格化、コロナ禍でのリアル開催の難しさから、世界中のゲームショウやゲームイベントは今、存在意義を問われていいます。そんな中、TGSが新たなゲームイベントのあり方を示してくれたのではないかと思います。
(編集/平野亜矢)