3年ぶりに千葉・幕張メッセでのリアル開催となった「東京ゲームショウ2022」。一般公開日の来場者数の制限、小学生以下の入場禁止、コスプレ撮影会の禁止などの制限はあったもの、2019年に近い規模となった。その成果と課題を、ゲーム業界を長く取材する3人のライターが分析する。2回目は、長きにわたってゲーム業界を取材してきた稲垣宗彦氏が感じたTGS2022の傾向3つを振り返る。

東京ゲームショウ2022は1~8ホールを使用。写真はキャットウォークから撮影した4~6ホールの様子(写真/木村輝)
東京ゲームショウ2022は1~8ホールを使用。写真はキャットウォークから撮影した4~6ホールの様子(写真/木村輝)
▼TGS2022の成果と課題を分析 第1回:東京ゲームショウ復活も「3日目のサプライズ」が戻らぬ寂しさ【TGS2022】

帰って来た“東京ゲームショウ”

 まずは「東京ゲームショウ(TGS)が“やっと帰ってきた”」との思いが強い。

 2021年のTGSもリアルとオンラインとの併催ではあった。しかし、リアルの会場に一般客は入場できず、招待客、それも事前に登録を済ませたインフルエンサーと報道関係者のみが入れるという非常に限定的で中途半端なものだった。

 会場規模も小さく、使っていたのは幕張メッセ7、8ホールのみ。しかもオンライン配信用のスタジオや関係者控室、プレスルームなどもこのスペース内にパーティションで区切って設営されていた。そのため、実際にブースが展開されていたのは、両ホール合わせたスペースのうち、20%程度といったところではなかったか。1~8ホールを使った今回と比べると10分の1程度の規模。同じTGSではあっても、受ける印象は町内会が主催する夏祭りと、浅草の三社祭ほど異なる。

2021年の東京ゲームショウでは、リアル会場は幕張メッセ7ホール、8ホールのみ。奥にはパーティションで区切られたオンライン配信用のスタジオや関係者控室、プレスルームが設営されていた(写真/志田彩香)
2021年の東京ゲームショウでは、リアル会場は幕張メッセ7、8ホールのみ。奥にはパーティションで区切られたオンライン配信用のスタジオや関係者控室、プレスルームが設営されていた(写真/志田彩香)

 帰ってきたといったところで、今回のTGS2022でさえ、新型コロナウイルス禍前の19年には及ばない。19年は1~11ホールのすべてに展示ブースや巨大なeスポーツ用アリーナが作られ、中央エントランス脇の幕張イベントホールをフードコートとして利用するなど、まさに幕張メッセ全体を使い切っていた感があった。それに比べると縮小しているのは確かだし、小学生以下の入場を禁止するなどの制限が設けられたのも残念ではある。

▼関連記事 作り手と受け手が向き合う価値 東京ゲームショウ2021で再発見【TGS2021】

 だが、それでも、「TGSが“やっと帰ってきた”」と思わずにはいられなかった。

 会場では、メーカー、来場者の区別なく、リアルな場に多くの人が集う国内最大のゲームのお祭りを誰もが精いっぱい楽しんでいる感じが伝わってきた。日ごろから取材でお世話になっているゲームメーカーの担当者やeスポーツ関係者にもお会いしたが、皆一様に幾ばくかの高揚を感じているようで、笑顔が絶えなかったのが印象的だ。自分が古い人間のせいもあるだろうが、人が集うことで生まれる熱量の大事さを改めて実感した。

 もっとも、同時に「そうそう、人混みをかき分けるように移動するって、こんなにも疲れるものだったよね」という実感もまた、3年分の加齢もあってより強く身に迫ってきていたことも付け加えたい。

 3年、本当に長かったよね――そんな雑感と感慨に浸ったところで、ここからはTGS2022で筆者が感じた傾向を3つ振り返りたい。

VRとメタバースへの期待は満たされず

 1つめが「VR(仮想現実)を使ったメタバースへの期待」だろう。メーカーも来場者も、何か新しいムーブメントが起ころうとしていることに期待を抱いていたのではないかと思う。

 それを象徴していると感じたのが、幕張メッセの会場周辺に掲示された広告だ。海浜幕張駅から幕張メッセに至るエスカレーターの降り口には、来場者を迎えるように「Meta Quest 2」の横断幕が下げられ、国際会議場の脇、中央エントランスに至るまでは「PICO Neo3 Link」のポスターが林立。VRヘッドセットが会場までの広告を独占していたのである。

メッセへ続く歩道橋は「Meta Quest 2」が下がり(上)、国際会議場の脇には「PICO Neo3 Link」の広告が林立(下)。TGS2022を象徴する光景だったと思う
メッセへ続く歩道橋は「Meta Quest 2」が下がり(上)、国際会議場の脇には「PICO Neo3 Link」の広告が林立(下)。TGS2022を象徴する光景だったと思う

 実際に会期が始まってみると、それら2つ以外にも「PlayStation VR2」を使ったタイトルを用意するメーカーがあるなど、VR関連の展示はいくつか見られた。それらの試遊は非常に人気が高く、長い待機列ができていた。

 こうした状況を見て思い出したのは、「PlayStation VR」が発表になった16年のTGSだ。当時と大きく違うのは、前述のPICO Neo3 LinkやMeta Quest2など、スタンドアロンで動作する製品が登場し、それが主流となりつつあること。これらの最新VRヘッドセットの存在感は大きく、性能の向上も強く感じた。

 だが半面、メーカーや来場者が抱いていた「VRを使ったメタバースへの期待」が満たされたのか、進化が6年の歳月に納得させられるだけのものであったのか、あの年に感じたような熱狂が再びあったのかというと、そこには若干の疑問が残る。「“ゲームショウ”なんだから当然」という声もあるかもしれないが、コンテンツとしてもあくまでも「VRを使ったゲーム」ばかりで、昨今話題のメタバースの萌芽(ほうが)、ましてやその覇権を握るといった覇気を感じさせるようなものはなかった。いや、そもそもそんなものを出せる段階にない、というほうがより正確なのかもしれない。

 仮に「ちまたで騒がれているメタバースとはいったい何なのか?」という疑問を抱いてTGSの会場に足を運んだ人がいたならば、その答えが得られたかどうか。

 ちなみにTGS2022でも21年に続き、VR会場が用意された。21年以上に趣向を凝らしたものになっていたようだが、会期が終わると見られなくなってしまうのがなんとも残念。リアル会場に足を運んだ人、特に筆者のように4日間リアル会場で取材を続けていた人やブースを運営していたゲーム関係者がこれを体験するのは難しい。オンラインの魅力をアピールし、未来につなげるつもりがあるなら、バーチャルの会期をより長く取ってもいいのではと思うのだが……。

 スタンドアロンで動作するVRヘッドセットが主流となり、16年に比べて確実にVR体験の手軽さは増している。ただ、これが例えば家庭用ゲーム機の本体並みに広く家庭に普及するものであるかといえば、当面は難しそうだというのが実感だ。ソフトとハードの両輪がうまくかみ合ってこそ、新たなムーブメントは拡大と定着を見るが、どちらもまだまだ、という感じ。VRにしても、メタバースにしても、そうした課題が解消され、本格的な具体化と普及に至るにはまだ時間がかかりそうだ。

大手メーカーのブースからステージが消えた

 2つめに感じたのが、大手メーカーが出展する巨大ブースの構造変化だ。

 19年まで、大手メーカーが構える巨大ブースには必ずステージがしつらえられ、ゲームクリエイターや出演する声優、お笑い芸人たちがイベントを行うのが1つの「お約束」だった。ところがTGS2022では、セガ/アトラスやバンダイナムコエンターテインメントなど、ブース内にステージを作っていないメーカーが目立った。

TGS2022では、ステージを設けない大手ブースが多かった。その代わり広く取られていたのが試遊ブース。コロナ禍ということもあるだろう(写真/木村輝)
TGS2022では、ステージを設けない大手ブースが多かった。その代わり広く取られていたのが試遊ブース。コロナ禍ということもあるだろう(写真/木村輝)

 こうした決断を下した理由は容易に想像がつく。簡潔に表現するなら、イベント運営コストの削減だろう。大手メーカーが行うステージイベントともなれば多くの来場者が集まるのは必至。集客率の高さはメーカーにとって大きな喜びであるはずだが、同時に人員整理に多くのスタッフを割き、隣接する他社や、会場内を通行する来場者に対する迷惑を避ける気づかいも必要となる。

 一方で、コロナ禍を経たTGSはオンライン併催が定着。各メーカーは、YouTubeなどに独自の配信チャンネルも持つようになった。バンダイナムコエンターテインメントのように、自社内に大規模な配信スタジオを持つところまである。多大なコストをかけてリアル会場内のブースにイベントステージを設ける意味は薄まったと言える。

 それならば、ステージを廃止して試遊スペースを拡大したほうがいい。TGSがオンラインに対応し、VR会場を併設したところで、今のところそれらで十分な体験を提供できないのが「最新のゲームやハードの試遊」だ。リアルの会場は現地に来たからこそ得られる体験の濃度をより高める方向にシフトするのは当然の話と言えよう。実際、大手メーカーのブースレイアウトの自由度はかなり増していたように思う。

 それに対し、中小規模のブースでは、逆にステージイベントでうまく注目を集めていたところも見受けられた。例えば、スティールシリーズジャパンがその1つ。協賛しているプロeスポーツチーム「REJECT」のメンバーを招いてイベントを開催し、ブースからあふれるほどの集客を果たしていた。

限られたスペースをうまく活用したひな壇状のステージにREJECTのメンバーが登壇し、イベントを開催。ブースいっぱいの来場者を集めていたスティールシリーズジャパン(写真/稲垣宗彦)
限られたスペースをうまく活用したひな壇状のステージにREJECTのメンバーが登壇し、イベントを開催。ブースいっぱいの来場者を集めていたスティールシリーズジャパン(写真/稲垣宗彦)

 これは、周辺機器メーカーならではの施策と言ってもいいかもしれない。ソフトウエアであるゲームは、オンラインの来場者に対して体験版を配信するという方法がとれるが、周辺機器となるとそうはいかないからだ。ふらりと立ち寄った人が実際の製品を手に取り、その良さを体感できるTGSのようなイベントは、ブランドの認知とイメージを向上させるのに最適の場である。こうした二極化は今後も進んでいくかもしれない。

小さいブース、増えてない?

 3つめが、小ぶりなブースが増えたことだ。

 TGS2022の出展社数は605社、出展小間数は1881小間だったという。ちなみに過去最大規模であった19年は、出展者数655社、出展小間数は2417小間だった。それぞれの数は減っているが、9~11の3ホール分を縮小してこの数字。会場を埋めるブースと来場者の熱気は想像以上だった。

 ただ、会場を回って感じたのが、小さいブースが増えたということだった。上記の数字から単純に算出するならば、19年は1社平均で約3.7小間、22年は約3.1小間だから、その印象はあながち間違っていないように思う。

 これは家庭用ゲーム機もPCも、ゲームをダウンロード販売できるようになったことと関係があるのではないだろうか。メーカーは、ゲームを完成させることさえできれば、物理的なパッケージを製造・流通させるだけの資本力がなくとも、ユーザーに作品を届けることができる。インディーゲームが増えたのもこれが理由だ。

小さなブースがずらりと並ぶ「インディーゲームコーナー」は大盛況だった(撮影/木村輝)
小さなブースがずらりと並ぶ「インディーゲームコーナー」は大盛況だった(撮影/木村輝)

 これには実はデメリットもある。電子書籍に例えると分かりやすいが、ダウンロード販売の難点は不意の出合いが生まれにくいのだ。書店をぶらぶら歩いていたところ、表紙に目を奪われて、全く知らなかった1冊を手に取ってみる――そんな出合いが起こりにくい。販売サイトも利用者の注文履歴からリコメンドを表示するなどの工夫をしているが、あくまでも「好きそうなもの」を薦めてくれるだけで、購買者の直感に頼った“飛躍”はないのだ。

 その点、TGSのようなイベントは不意の出合いを創出し、ユーザーにダイレクトに自社商品を印象づけられる。今後、コロナ禍が収束し、TGSの規模が19年に近づく、あるいは追い越したとしても、1社辺りのスペースが拡大する方向へは進まないのではないかと筆者は見る。

 こうした見立ては、次のTGSがやってこないと正しいかどうか分からない。いずれにしろ、23年のTGSは、どんな変異種が来ようとも、20~21年のような状態には戻らないことを切に願う。

(編集/平野亜矢)

3
この記事をいいね!する