地方公共団体による地方創生事業に企業が寄付すると、法人関係税から税額が控除される「企業版ふるさと納税」。それを使ってeスポーツ事業に取り組もうというのが大阪府泉佐野市だ。泉佐野市や南海沿線の来訪者を増やし、同市をeスポーツファンの交流拠点にすることを目指す。

2022年8月25日に大阪府泉佐野市にあるりんくうタウンで実施した「eスポーツ先進都市・泉佐野市」記者会見の様子
2022年8月25日に大阪府泉佐野市にあるりんくうタウンで実施した「eスポーツ先進都市・泉佐野市」記者会見の様子
[画像のクリックで拡大表示]

eスポーツ施設を常設、合宿プランも提供

 今回の取り組みは、泉佐野市が実施する「eスポーツMICEコンテンツ実証事業」に採択された南海電気鉄道(南海電鉄、大阪市)、同社が出資するeスタジアム(大阪市)、南海国際旅行(大阪市)、ウェルプレイド・ライゼスト(東京・新宿)の4社による、企業版ふるさと納税を財源とする実証事業だ。「eスポーツ先進都市・泉佐野市」の確立を掲げ、泉佐野市や南海沿線の来訪者を増加させると共に、泉佐野市を国内外のeスポーツに関心のある人が訪れる、交流拠点にすることを目指している。

記者会見に登壇した泉佐野市の千代松大耕市長
記者会見に登壇した泉佐野市の千代松大耕市長
[画像のクリックで拡大表示]

 具体的な取り組みとして、3つの施策を用意する。1つめは、eスポーツ専用施設「eスタジアム泉佐野」の開業だ。関西国際空港に隣接しているりんくうタウン内に、同スタジアムを設ける。ゲーミングパソコンを使用した本格的なeスポーツ体験を提供するほか、セミナーやオンライン対戦会など、施設内でのさまざまな企画を開催する予定。小学生を対象とした体験エリアも用意し、マウスやキーボードの操作などのレクチャーも行う。eスポーツグッズの販売エリアを用意し、来場者にeスポーツへの親しみを持ってもらうことも計画している。開業は2022年11月28日を予定。利用料は基本無料としている。

取り組みの説明をする泉佐野市成長戦略室おもてなし課の井尻学氏
取り組みの説明をする泉佐野市成長戦略室おもてなし課の井尻学氏
[画像のクリックで拡大表示]

 2つめは、eスポーツ合宿プラン「eスポーツキャンプ」の展開だ。初回は高校生を対象に、りんくうタウン内の施設で22年8月22日から3泊4日の合宿を実施。高校生にも人気が高い、タクティカルシューティングゲーム『VALORANT』を採用し、プロeスポーツチーム「REJECT」に所属する人気ストリーマーのMOTHER3氏と、元プロゲーマーのJasper氏をコーチとして招へいした。

 最終日には合宿の成果を問う大会を開催。プロリーグでも実況を務めるOooDa氏やプロeスポーツチーム「ZETA DIVISION」からVorz選手、hiroronn選手、yatsuka選手を解説に招いた。eスポーツキャンプは23年度以降、年3回の開催を企画しており、対象年齢や使用タイトルを変えながら、多くの人が参加できるようする予定だ。

eスポーツ先進都市・泉佐野市の具体的な取り組み3つ
eスポーツ先進都市・泉佐野市の具体的な取り組み3つ
[画像のクリックで拡大表示]

 3つめは、「eスポーツキャンプPlus+」の実施。2つめのeスポーツキャンプの上位互換であり、eスポーツのプロ選手を目指す全国の高校生プレーヤーを対象にしたイベントだ。

 eスポーツはプロリーグやプロチーム、公式大会などが増えたことにより、プロゲーマーが職業として目指せる選択肢になってきている。一方でプロになる道筋が確立していないのも事実だ。そこで、eスポーツキャンプPlus+がプロへの登竜門となり、プロチームが有望なプレーヤーを獲得できる場にしていきたい考えだ。既存のプロチームにも同キャンプへの参画と、選手を育成するアカデミーチームの結成を促す。

南海電鉄は新事業発掘と位置付け

 南海電鉄が参画する背景には、少子高齢化による沿線人口の減少と交通業・不動産業に続く第3の柱となる新事業を発掘する狙いがある。既に南海電鉄ではeスポーツ事業部を立ち上げ、事業化に取り組んでいる。

 同社がeスポーツに着目した理由はいくつかある。まずはZ世代を含む若い世代に人気があること。その若い世代を中心に、国籍、性別、年齢、障がいの有無にかかわらず参加できるボーダーレスなコンテンツであり、SDGsの時代にふさわしいと考えていること。さらに、25年に開催予定の「2025年日本国際博覧会」(略称「大阪・関西万博」)にも適していることだ。

 また、同社によると、eスポーツ普及の一端を担うことは、同社の企業文化にも合致しているという。南海電鉄といえば、かつてはプロ野球の球団「南海ホークス」を所有。同球団のホームグラウンドである大阪球場周辺には、アイススケートリンクやボウリング場、卓球場、プールといったスポーツ施設も展開していた。それらは戦後の青少年の健全な育成を目指したものだったという。eスポーツにおいても同様に、青少年の健全育成への貢献や、教育現場や保護者がeスポーツに対する理解を深める橋渡し役としての役割を意識しているようだ。

南海電気鉄道 執行役員イノベーション創造室 副室長 eスポーツ事業部の和田真治氏
南海電気鉄道 執行役員イノベーション創造室 副室長 eスポーツ事業部の和田真治氏
[画像のクリックで拡大表示]

 今回の実証事業の財源は、企業版ふるさと納税だ。泉佐野市と言えば「見直しに応じない自治体」として名前を公表され、総務省よりふるさと納税制度から一度除外された自治体だ。その後の裁判をへてふるさと納税制度は復活、現在も同制度を活用している。今回の実証事業においても企業版ふるさと納税をフル活用しており、筆者は同事業に期待を感じた。

 一方で、企業版ふるさと納税を財源にすることの懸念材料もある。同実証事業では、向こう3年の事業計画を立てているが、企業版ふるさと納税は泉佐野市議会での承認を経て、単年ごとに予算編成されるため、来年以降の予算が確約されていないことだ。泉佐野市の地方創生事業であるので、1年や2年で覆されることは考えにくいが、当初の計画である3年を過ぎてからの財源は不透明といえるだろう。それでも事業を継続できるようにするには、参加各社が早々にこの事業を収益化し、企業版ふるさと納税をあてにしないエコシステムを構築することが必要だ。このあたりは、南海電鉄が持つこの地域の知見と、ウェルプレイド・ライゼストが持つeスポーツの知見にかかっている。

ウェルプレイド・ライゼスト プロデューサーの武藤一輝氏
ウェルプレイド・ライゼスト プロデューサーの武藤一輝氏
[画像のクリックで拡大表示]

 今回、筆者はeスポーツキャンプ最終日の大会の様子も取材することができた。参加者は全部で44人。その多くは今大会に参加したことに多いに満足していた。中には、親からの支援を受けず、貯金やバイト代などを工面して参加したという高校生も複数いた。今回のキャンプの参加費は約6万円。高校生の小遣いやバイト代で、簡単に支払える金額でなく、思いの強さを感じさせる。

大会の会場となったオチアリーナ。円形のアリーナは外周360度がモニターとなっており、中央には4面モニターを完備。ライブやダンスイベントなどさまざまな用途で使用されるが、eスポーツにも最適
大会の会場となったオチアリーナ。円形のアリーナは外周360度がモニターとなっており、中央には4面モニターを完備。ライブやダンスイベントなどさまざまな用途で使用されるが、eスポーツにも最適
[画像のクリックで拡大表示]

 また、44人のうち、女子は2人。老若男女問わず楽しめるeスポーツとはいえ、女子はまだ少数派だ。彼女らも、親からの支援ではなく、小遣いやバイト代での参加だった。そのほか、学校にあまり行けず、普段は引き籠もり気味の参加者もいると聞いた。外に出るのがつらいにもかかわらずキャンプに参加できたことは、当人にとって何よりの成果となりそうだ。そうしたさまざまな障害を乗り越えて高校生が集まるということ自体が、このキャンプの魅力や可能性の表れと言っていい。

eスポーツキャンプに参加していた女子生徒の4an選手(写真左)とJenii選手(写真右)。男子が大半の中、参加するのは相応の覚悟が必要だっただろう
eスポーツキャンプに参加していた女子生徒の4an選手(写真左)とJenii選手(写真右)。男子が大半の中、参加するのは相応の覚悟が必要だっただろう
[画像のクリックで拡大表示]
優勝した「チームこぶし銀」
優勝した「チームこぶし銀」
[画像のクリックで拡大表示]

 3泊4日の合宿でどれだけ能力が高められるかは未知数だ。参加した高校生の『VALORANT』の実力はバラバラで、ランク帯が「イモータル」(ランク上位)の生徒もいれば、「シルバー」や「ゴールド」といった初級者レベルの生徒も参加していた。全員がプロを目指して参加したり、プロやストリーマーによるハイレベルな指導を受けたいと考えたりしている生徒ばかりでないことが、この点からも分かる。全国から同年代の同好の士が集まり、1つのことに集中できる経験は高校生にとっては大きい。

大会終了後にサインや写真撮影に応じるOooDa氏
大会終了後にサインや写真撮影に応じるOooDa氏
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした反応を見ると、3つの取り組みのうち、2つめのeスポーツキャンプは一定の成果を得られそうだ。あとは、1つめのeスタジアム泉佐野とeスポーツキャンプPlus+がどのように展開するか。今後の活動を見守っていきたい。

(写真/岡安学、編集/平野亜矢)