新型コロナウイルス禍による世界的な生活環境の変化の中で、北欧家具がインテリアデザインにおいてパラダイムシフトする兆しを見せている。2022年、デンマーク発祥の大手家具ブランド「ボーコンセプト」は、新たな生活様式に伴う世界的なトレンドを新作コレクションに取り込んだ。「北欧らしさ」を発揮したデザインに日本の伝統工芸の発想も取り込む。

「2022AWコレクション」の発表会に来日したボーコンセプトのマーケティングを担当するクラウス・ディトゥレヴ・ジェンセン氏(写真右)と、同社デザイナーのモートン・ゲオーセン氏(同左)
「2022AWコレクション」の発表会に来日したボーコンセプトのマーケティングを担当する製品統括のクラウス・ディトゥレヴ・ジェンセン氏(写真右)と、同社デザイナーのモートン・ゲオーセン氏(同左)

「自然」がテーマの最新コレクション

 家具販売のボーコンセプト・ジャパン(東京・港)は2022年9月6日、「2022AWコレクション」を発表、国内に向け22年9月から順次販売を開始する。今回のコレクションは、世界67カ国に計300店舗を持つ家具ブランド「ボーコンセプト」の最新作。創立70周年を記念し「“小さな田舎町”で始まった」というブランド設立時のコンセプトに最新のトレンドを取り入れた、「自然(Nature)」を中心としたテーマが特徴だ。

画面中央のセットは「HAUGE(ハウゲ)DINING TABLE」と、「HAUGE DINING CHAIR」。デンマークのあるスカンディナビア地域のデザインとクラフトマン(職人)の技が受け継ぐ伝統と革新を盛り込んだ
画面中央のセットは「HAUGE(ハウゲ)DINING TABLE」と、「HAUGE DINING CHAIR」。デンマークのあるスカンディナビア地域のデザインとクラフトマン(職人)の技が受け継ぐ伝統と革新を盛り込んだ
「自然」を表現するプラントも配置。木目の見える天然のオーク材を使ったテーブルも、素材にこだわるトレンドを意識したデザインだ
「自然」を表現するプラントも配置。木目の見える天然のオーク材を使ったテーブルも、素材にこだわるトレンドを意識したデザインだ

 最新コレクションでは、在宅勤務や室内で過ごす時間が増えた新型コロナウイルス禍がポイントとなっている。閉塞感やストレスを和らげるため、室内での居心地の良さを求めるニーズをとらえた。カラーリングにさりげない自然を表現する茶色やベージュ、緑などを中心に採用し、トレンドとなっている木目の表現を押し出している。

 伝統を踏まえつつ進化させる、時の変化を感じさせないデザイントレンドも踏襲する。「ミニマリズム」の潮流に乗りながらも無機質になり過ぎないよう、デンマークのあるスカンディナビア地域に伝承される職人技をちりばめた。主にデンマークで「ヒュッゲ(Hygge)」と呼ばれている、安心した時間の過ごし方を体感できるよう工夫を凝らしている。

トレンドのグリーンがリビングの主役になる「BERNE(ベルネ) SOFA」(左)。ソファと組み合わせても、単独で置いても使える「PRINCETON LIVING CHAIR」(右奥)
トレンドのグリーンがリビングの主役になる「BERNE(ベルネ) SOFA」(左)。ソファと組み合わせても、単独で置いても使える「PRINCETON LIVING CHAIR」(右奥)
他にも様々なシチュエーションに合わせた新作を発表
他にも様々なシチュエーションに合わせた新作を発表

 ボーコンセプトで製品統括を担当するディレクターのクラウス・ディトゥレヴ・ジェンセン氏は、近年の住宅や家具・インテリアに関連するグローバルマーケットの動きをこう分析する。

 「時代のせいか、人々の生活様式が似てきている。例えば、ニューヨークとアイオワの生活は全く違うが、コペンハーゲン、東京、ニューヨークの生活様式を比べると求めるものが同じようなものになってきている。ボーコンセプトは、そうしたアーバンリビング(都市型生活)を求める消費者に商品を提供している」

ボーコンセプトは世界中の人々に向けてデザインしているという。「例えば、地方に住んでいても東京に住んでいる人と考えや行動様式が同じかもしれない。都市型の生活とは、考え方、気持ちの持ち方でつくるものだ」(クラウス氏)
ボーコンセプトは世界中の人々に向けてデザインしているという。「例えば、地方に住んでいても東京に住んでいる人と考えや行動様式が同じかもしれない。都市型の生活とは、考え方、気持ちの持ち方でつくるものだ」(クラウス氏)

 コロナ禍によって、国内でも「巣ごもり消費」が活発になった。帝国データバンクが21年6月に発表した調査リポートによると、当時売れ行きを伸ばしたジャンルは主に2つ。1つは家具販売大手が提供する低価格帯のホームインテリア。もう1つが、自宅での仕事用家具や寝具など、比較的高単価でも快適性を求めて購入される製品だ。

 21年度、ボーコンセプトはグローバル全体の売り上げ・利益が共に過去最高となった。売り上げは前年に比べ20%以上伸びて280億円超、利益も50億円を超えた。ボーコンセプト・ジャパンも21年度は2桁台の成長を記録。国内販売においても安さではなく、テレワークなど「おうち時間」に快適性を求める都市型生活者のニーズをつかんだとみられる。

自宅の「オフィス化」ニーズに対応

 本国に自社工場を持ち、デンマーク製の生産にこだわる同社の強みは、顧客ニーズに応じた製品のカスタマイゼーションにある。同社が提供するカスタマイゼーションと連携するのは、インテリアスタイリストが個人の顧客と製品の色やサイズを一緒に考える「インテリアデザインサービス」だ。

店内の「インテリアデザインサービス」の案内表示
店内の「インテリアデザインサービス」の案内表示

 ボーコンセプトでは以前から法人向けにオフィス空間のコーディネートを行うサービスを提供してきた。これまでは「自宅のような居心地の良い空間が欲しい」という要望だったが、コロナ禍を境に在宅勤務のための「自宅の中にオフィスのような空間をつくりたい」という要望が増えた。しかし、当時の同社にはいかにもオフィス空間に置くような品ぞろえしかなかった。

 そこで、今回のコレクションでは「普通の家にも調和するオフィススペース」を意識した製品を取り入れた。例えば「オフィス用のテーブルだがダイニングチェアとしても使える」「ダイニングチェアだが車輪が付いている」といった製品だ。

在宅で仕事をするホームオフィス向けのセッティング。閉じれば目立たない引き出しの付いた「KINGSTON OFFICE DESK」は、ダイニングにも置けるようにデザインされている
在宅で仕事をするホームオフィス向けのセッティング。閉じれば目立たない引き出しの付いた「KINGSTON OFFICE DESK」は、ダイニングにも置けるようにデザインされている
「ASTI OFFICE DESK」(画面中央)。トレンドのニュアンスカラー以外に空間を引き締めるブラック(黒)もある。ダイニングチェアにも合うワークデスク
「ASTI OFFICE DESK」(画面中央)。トレンドのニュアンスカラー以外に空間を引き締めるブラック(黒)もある。ダイニングチェアにも合うワークデスク
発表会には、日ごろからボーコンセプトの製品を愛用しているというタレントのクリス・ペプラー氏(写真右)も登場。モートン氏(同左)がデザインしたPRINCETON LIVING CHAIRに座った。日本の都市の集合住宅にも取り入れやすい小さめのサイズだが、ゆったりとした座り心地だと評価。「そのまま、片手にワインがあればヒュッゲになる」(モートン氏)
発表会には、日ごろからボーコンセプトの製品を愛用しているというタレントのクリス・ペプラー氏(写真右)も登場。モートン氏(同左)がデザインしたPRINCETON LIVING CHAIRに座った。日本の都市の集合住宅にも取り入れやすい小さめのサイズだが、ゆったりとした座り心地だと評価。「そのまま、片手にワインがあればヒュッゲになる」(モートン氏)

「ジャパンディ」の波は日本でも広がるか

 ボーコンセプトのデザインを担当してきたデザイナーのモートン・ゲオーセン氏は、「まずヒュッゲという言葉を誇りに思います。生粋のデンマーク語として英語の辞書に2つある単語の1つで、安心できる空間でほっこりすること。そうしたつかみどころのないフィーリングや空気感を表す言葉です」と、最新のコレクションに込めた思いを語る。

「お店に行って『ヒュッゲください』と言って買えるものではありません」とデンマークの文化や生活様式について説明するモートン氏
「お店に行って『ヒュッゲください』と言って買えるものではありません」とデンマークの文化や生活様式について説明するモートン氏

 ヒュッゲを体現する上で欠かせないのが、職人の技術を発揮した細部へのこだわりだ。今作の一部は、そうした日本の職人の技からインスピレーションを得ているという。「日本人は限られたスペースをたくみに活用している。それは私たちにとっても共鳴する価値観だ」とモートン氏。ヒュッゲは日本語の「ゆとり」と意味が近く、日本にもヒュッゲがあると感じているとのこと。

 ここ数年、北欧では「ジャパンディ(Japandi)」が流行しているそうだ。ジャパンディとは、「ジャパン(Japan)」と「スカンディナビア(Scandinavia)」を合わせた造語。北欧のシンプルなインテリアに、日本のミニマルな間取りや、ディテールにこだわる「匠」の技に着想を得た意匠を取り込んだ新しい潮流だ。それらは北欧の人々にとって「機能的で、暖かくて落ち着きがあり、つつましい、それでいてシンプルなデザイン」のために欠かせないものだという。

食卓に花を飾ることも、実はジャパンディの傾向だ
食卓に花を飾ることも、実はジャパンディの傾向だ

 最新コレクションは狭いスペースのために作られた製品ではないが、ジャパンディに刺激を受け、現代のトレンドを取り入れて色やサイズを増やすことで、集合住宅にも取り入れやすくしている。東京に限らず、ロンドンやパリなど欧州の大都市にも集合住宅はある。東京では家具に限らず、その周りに置く家電や、トイレ、台所のシンクなどもコンパクトにする傾向がある。そうした機能性やミニマリズムを重視する傾向のあるのインテリアは、他の大都市においても参考にできる面があるという。

 「それでもスカンディナビアではすっきりとしたインテリアが好まれ、色数もあえて絞ります。そこにジャパンディの要素として日本の生け花を取り入れ、室内にプラントを置いたり、格子模様の手編みの籠、木製の脚が細長い椅子などを配置したりする」(モートン氏)

直線的でコンパクトな空間の中でも、ワークチェア「ADELAIDE OFFICE CHAIR」と「わび・さび」を感じさせるモチーフが機能美を演出する
直線的でコンパクトな空間の中でも、ワークチェア「ADELAIDE OFFICE CHAIR」と「わび・さび」を感じさせるモチーフが機能美を演出する

 グローバル視点で見たときにも、ジャパンディは一過性の傾向ではなくむしろ強まっている印象があるとモートン氏はみている。

 「ジャパンディは都市型のライフスタイルに合っている。そこをより上質に、魅力的なものにできる。たくさん買うのではなく、厳選された高品質のものを買い、シンプルで完成されたアイテムを長く楽しむ。この傾向は今後も続いていくに違いない」(モートン氏)

クラウス氏(写真左)とモートン氏(同右)。終始、和やかな雰囲気で話を聞くことができた。そこにはヒュッゲがあったのかもしれない
クラウス氏(写真左)とモートン氏(同右)。終始、和やかな雰囲気で話を聞くことができた。そこにはヒュッゲがあったのかもしれない

(写真/丹野加奈子、写真提供/ボーコンセプト ジャパン)

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