グローバル戦略に基づき、暮らしのなかの快適性向上やサステナビリティー推進に積極的に取り組んでいるイケア・ジャパン(千葉県船橋市)。2022年秋以降もその姿勢は維持する。「人」「家での暮らし」「サステナビリティ」「フード」の4つのテーマで、新商品や雇用施策などを展開する方針だ。
スウェーデンのイケアは「より快適な家での暮らしを実現する」として、世界的な規模で施策を行っている。テーマは、「人」「家での暮らし」「サステナビリティ」「フード」の4つ。2022年8月30日、メディア向けに行ったイベント「イケア Life at Home Press Day」では、新型コロナウイルス禍において在宅時間が激増するなか、この4つのテーマに基づくイケアの取り組みと新製品をアピールした。
イケア・ジャパン カントリーピープル&カルチャーマネジャーの朝山玉枝氏が説明したのは「人」について。イケア・ジャパンでは平等で多様性を受け入れるインクルーシブな職場環境づくりに注力しているという。インクルーシブとは、「排他的」とは逆の「仲間はずれにしない」といった意味の言葉だ。朝山氏は「人」をテーマに、オムニチャネル戦略やイケアにおける雇用施策などについて語った。
イケアは店舗を展開するすべての国において、男女の雇用比率、男女の管理職比率が同数になることを目標にしている。イケア・ジャパンでも女性管理職の割合は51.5%に達する。14年からは同一労働同一賃金を掲げ、18年からは男女の賃金格差解消にも取り組んでいる。同じような仕事をしている人たちのなかで5%以上の賃金格差がある場合、パフォーマンスや能力などで説明がつかないときにはそれが是正されるという。さらに、産休や育休で職場から離れている期間も昇給には影響しないようにしている。
日本では22年10月から「産後パパ育休」と「育児休業の分割取得」が制度として導入されるが、イケアでは以前からパタニティ(父性)休暇制度という15日間の特別有休制度があり、イケア・ジャパンでは100%取得されている。そのほか、法律婚、事実婚、同性婚といった婚姻の形態によって、受けられる福利厚生は変わらないというのも先進的と言えよう。
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「家での暮らし」については、カントリーインテリアデザインマネジャーの安住佐知子氏が語った。それによると、新型コロナウイルス禍で在宅時間が増えると同時に、リモートワークやオンライン学習など限られた空間での過ごし方は多様化し、料理をする機会も増えているという。
イケアが世界各国を対象に毎年行っている調査によると、睡眠の重要性、整理整頓、サステナビリティー、家の心地よさに対する関心が高いことが浮かび上がってきた。こうしたニーズに向けてイケアは「デモクラティックデザイン」というポリシーを掲げている。これは「優れた機能性」「美しいデザイン」「高品質」「低価格」「サスティナビリティ」という5つの項目からなる。
イケア Life at Home Press Dayでは、このデモクラティックデザインに基づいた新商品を紹介した。例えば、米国の音響機器ブランドであるSonos(ソノス)と共同開発している「SYMFONISK(シンフォニスク)」の新製品2つ。1つはルームランプとWi-Fiスピーカーを一体化させた「スピーカーランプ WiFi付き」で、好みに合わせてランプシェードを交換できる。もう1つはピクチャーフレームとWi-Fiスピーカーを一体化させた「アートフレーム WiFiスピーカー付き」で、好みに合わせてアートパネルを取り付けられる。同じく新製品の「STARKVIND(スタルクヴィンド)」は、サイドテーブルと空気清浄機を一体化したもの。いずれも限られたスペースを有効活用できデザイン性も高い、イケアらしいユニークな製品だ。
サステナブルという観点からは、本棚の「Billy(ビリー)」と、シャチやくじらのぬいぐるみ「BLÅVINGAD(ブローヴィンガード)」を紹介した。ビリーは1979年発売のロングセラー商品で、5分に1つのペースで売れているという人気シリーズだ。今回、表面仕上げが紙素材になり、板材には木材チップを固めたパーティクルボードが採用され、サステナブルな商品としてリニューアルされている。
ブローヴィンガードは、海洋プラスチックごみを原料にしたリサイクルポリエステルを含む、リサイクル素材100%の商品。イケアのぬいぐるみといえばサメの「BLÅHAJ(ブローハイ)」が有名だが、ブローヴィンガードのシャチとくじらも人気を集めそうだ。
近年取り組んでいる他ブランドとのコラボレーションでの注目は2つ。1つはフィンランドのアパレルブランド「マリメッコ」のデザインを生かした、23年発売予定の「BASTUA(バストゥア)」だ。フィンランドの文化であるサウナに関連した商品を展開していくという。
もう1つは、スウェーデンのハウスミュージックユニット、Swedish House Mafiaとのコラボによる「OBEGRÄNSAD(オーベングレンサッド)」だ。家での音楽制作をテーマにしたコレクションで、ホームスタジオを構築するためのデスクやチェアと、機材やアクセサリー、LPレコードを運ぶためのバッグ類を紹介した。
イケアは2021年の東京ゲームショウに出展し、ゲーミングチェアなどゲーミング関連商品への参入が話題になった。ゲーミングチェアの最新モデル「STYRSPEL(スティルスペル)」は、ヘッドレストの高さやランバーサポートの位置など調整できる所が多く、また、背もたれに通気性のよいメッシュ素材を採用するなど、高級ビジネスチェア的なデザインにまとめられている。脚部の形に特徴があり、身長の低い人が座っても足を置きやすくなっている。
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イケア Life at Home Press Dayでは、カントリーサスティナビリティマネジャーの平山絵梨氏が、イケアのサステナビリティー施策についても説明した。
イケアは資源の枯渇や気候変動を防ぐことを目標に、30年までに循環型ビジネスへシフトすることを宣言しており、サステナビリティレポートを毎年まとめている。20年のリポートによれば、イケアの場合、温暖化ガスの排出は原材料調達時の割合が42.5%と最も高い。そこで30年までに、すべてのホームファニッシング商品を再生可能素材とリサイクル素材で賄うようにする。
木材と紙素材については、現状でもその99.5%にFSC(Forest Stewardship Council:適切に管理された森で生産されたことを証明する制度)認証が取れたものか、リサイクル素材を使用している。栽培に大量の水と化学薬品などが使われるために環境負荷が高いとされるコットンについても、世界自然保護基金(WWF)と共同で設立したBetter Cotton Initiative(BCI、ベター・コットン・イニシアチブ)で認証されたもののみを使用している。現時点で、ホームファニッシング商品の55.8%が再生可能素材、17.3%がリサイクル素材で賄われている。
こうしたサステナビリティーへの取り組みは、顧客から見える部分にも表れている。例えばイケアを象徴する青いキャリーバッグ「FRAKTA(フラクタ)」にはリサイクル素材を使用。21年7月にはアルカリ電池を廃番とし、販売する乾電池はすべて充電式電池「LADDA(ラッダ)」に切り替えた。先行して20年1月にはストローなどの使い捨てプラスチック製品もすべて廃番に。古くなったイケアの商品の買い取りサービスも行っていて、今までに約3万点の商品を引き取り、再生し、そのほとんどの再販売している。
日本で特に人気 イケアの「食」戦略
サステナビリティーの観点では、イケアにとってフード(食品)も重要な商材だ。ワールドワイドで売り上げの約6%を占める。アジア圏ではより人気で、なかでも日本は10%以上と特に人気が高い。
15年からはよりヘルシーでサステナブルなものを目指すとして、プラントベース(植物性食品)のホットドッグ「ベジドッグ」の開発など、さまざまな取り組みをしてきた。
開発には、ホームファニッシング商品と同様に「Function(ファンクション:スカンジナビアの伝統を取り入れた料理)」「Form(フォーム:見た目がよく五感に刺激を与えるような料理)」など、5つの観点からなるデモクラティックデザインを取り入れている。また、「LAGOM(ラゴム:多くも少なくもなく、ちょうどよい分量)」や「持続可能」といった7項目からなる原則も定めている。
こうしたイケアらしさがよく表れているのが、プラントベースのメニューだ。イケアでは、例えば通常のホットドッグが100円ならベジドッグは80円など、動物性食品を用いたものよりプラントベースのほうが安価に設定されている。カントリーフードマネジャーの佐川季由氏は「プラントベースだから安くできて当然」と言う。環境に対するポリシーだけでなく、低価格という点でもポリシーが貫かれているのだ。
イケア全体で、25年までにレストランの売り上げの50%をプラントベースにするのが目標だ。日本ではすでに34%、中でもイケア仙台店は54%という数字を達成しており、国別、店舗別での集計でそれぞれ1位だという。また、原宿店などの都市型店舗は3店舗すべてが50%以上と高い。
イケアは食品廃棄物の削減にも熱心だ。例えば、調理場に置かれたゴミ箱にカメラと重量計を取り付け、AI(人工知能)による画像認識で何がいつ、どれだけ廃棄されたのかを把握し、食品ロスの削減に生かすなどの施策を行っている。
こうした施策により、17年に設定した、イケア店舗全体で22年末までに食品廃棄物発生量を50%削減するという目標を1年前倒しで達成した。22年9月21日には、22年7月時点で54%削減し、日本国内に限れば62%削減したと発表している。イケアは以前からサステナビリティーなどの課題に取り組んできた。新型コロナウイルス禍でその取り組みがさらに加速しそうだ。
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