熱々の一風堂のラーメンが自販機から最短90秒でーー。日本で自販機を展開するヨーカイエクスプレスが2022年9月から、新メニューとして一風堂と共同開発したラーメンを販売。同社の自販機は、その場で出来たてを提供するのが特徴。メニューの充実とともに、大学や企業、駅など設置箇所も順次拡大する。

ヨーカイエクスプレスが展開する自動調理型の自販機。操作の説明を行っているのは、同社の創業者兼CEO(最高経営責任者)のアンディー・リン氏
ヨーカイエクスプレスが展開する自動調理型の自販機。操作の説明を行っているのは、同社の創業者兼CEO(最高経営責任者)のアンディー・リン氏

東京駅では1日100食以上を販売

 今ではすっかり日本で定着した「自販機ビジネス」。ラーメンや焼き肉などの人気食品から、雑貨に缶詰、花、薬といった変わり種まで、商材が広がりを見せる中、海外から上陸したのがヨーカイエクスプレスの“自動調理販売機”だ。

 ヨーカイエクスプレスは2016年に創業した、米国発のフードテックベンチャー。ラーメンや丼もの、デザートなどの食品を、自販機内で調理して提供する。日本には22年3月に上陸し、自社オリジナルのラーメン4種(各税込み790円)を販売。22年10月3日現在では、一般向けに販売されている羽田空港第2ターミナルと首都高芝浦パーキングエリアの2カ所に加え、社食用としてNTTデータ データセンター内にも設置されている。年内に計30台の設置を目指す。

首都高芝浦パーキングエリアに設置されている様子。「芝浦無人食堂」と書かれてある
首都高芝浦パーキングエリアに設置されている様子。「芝浦無人食堂」と書かれてある
ヨーカイエクスプレスのオリジナルラーメン4種。左上から時計回りに、「鶏 Yuzu Shio」「東京 Shoyu」「九州 Tonkotsu」「札幌 Spicy Miso」(各税込み790円)
ヨーカイエクスプレスのオリジナルラーメン4種。左上から時計回りに、「鶏 Yuzu Shio」「東京 Shoyu」「九州 Tonkotsu」「札幌 Spicy Miso」(各税込み790円)

 ヨーカイエクスプレスの売りは、“出来たてのメニューが最短90秒で食べられる”ところだ。現在、他社から展開されているラーメン自販機の多くは、製品を冷凍して具材ごとにパッケージングしており、購入者が持ち帰って自分で調理する必要がある。一方、ヨーカイエクスプレスの場合は、その場で熱々のメニューを提供する。詳細な技術は企業秘密とのことだが、食品はパッケージングされた状態で筐体(きょうたい)に冷凍保存されており、お湯とスチーム(蒸気)を使って自販機内で解凍、温度調節を行って提供する。

 現在設置されている、羽田空港第2ターミナルと首都高芝浦パーキングエリアでの売れ行きは、1日1台あたり平均30食以上。22年4月以降は、羽田空港第2ターミナルに夜間の出入りができず、首都高芝浦パーキングエリアもルーレット族の取り締まりで深夜帯に閉鎖されていることが多かった。今後、自販機ビジネスの強みである24時間稼働が実現すれば、さらに上乗せできると見られる。

 ヨーカイエクスプレス ジェネラルマネージャーの土屋圭司氏は「1台の筐体に最大で50食分入るので、それが1日ではけるぐらいが理想的。22年4月に、期間限定で東京駅の地下イベントスペースに設置した時は、1日100食以上が売れた」と語る。

ヨーカイエクスプレス ジェネラルマネージャーの土屋圭司氏
ヨーカイエクスプレス ジェネラルマネージャーの土屋圭司氏

一風堂の並々ならぬこだわり

 日本上陸から約5カ月後、ヨーカイエクスプレスは22年9月1日に新メニューを発売。これまでは自社オリジナルの鶏、しょうゆ、味噌、豚骨の4種のラーメンを展開していたが、同日からラーメン専門店「一風堂」と共同開発したメニューを追加した。一風堂を運営する力の源ホールディングスと資本業務提携を行い、今回の協業が実現した。

 9月から販売するのは、一風堂の看板商品である「一風堂 博多とんこつラーメン」と、動物性の材料不使用の「IPPUDO プラントベース(豚骨風)ラーメン」の2種(各税込み980円)。製造や出荷ラインに手間がかかることもあり、店舗で提供するスタンダードなとんこつラーメンより多少値は張るが、その分クオリティーを忠実に再現した。

画像左が「一風堂 博多とんこつラーメン」、画像右が「IPPUDO プラントベース(豚骨風)ラーメン」(各税込み980円)。プラントベースのラーメンに乗っているチャーシュー風の具材はがんもどきでできている
画像左が「一風堂 博多とんこつラーメン」、画像右が「IPPUDO プラントベース(豚骨風)ラーメン」(各税込み980円)。プラントベースのラーメンに乗っているチャーシュー風の具材はがんもどきでできている

 力の源ホールディングス取締役CSO(最高戦略責任者)の山根智之氏は、開発にかけたこだわりをこう語る。

 「今回苦労したのが、提供する温度をどう再現するか。ラーメン店にとって提供する際の温度は命であり、店舗では提供するまでの温度を極力高く保とうと、特製の有田焼のどんぶりを使用している。もともと新型コロナウイルス感染拡大前からヨーカイエクスプレスとプロジェクトの話があったが、我々が求める温度がなかなか出せなかった。そこから筐体の改善を重ねた結果、熱すぎるほどの温度を再現。ラーメンが熱すぎるため、容器に持ち手を付けたほどになっている」

 他にも、とんこつラーメン特有の極細麺を適切な硬さに仕上げたり、乳化したスープが分離しないようにしたり、半熟卵をちょうど良い塩梅(あんばい)でとろとろにしたり、完成時に具材がきれいに並ぶための配置を工夫したりなど、こだわりは枚挙に暇(いとま)がない。

注文すると中で調理している音が発生し、画像右下のポケットから完成品が出てくる
注文すると中で調理している音が発生し、画像右下のポケットから完成品が出てくる
よく見ると容器に持ち手がついているのが分かる
よく見ると容器に持ち手がついているのがわかる

夜間に需要があるPAなどと好相性

 こうして完成した自信作をより広く手に取ってもらえるよう、ヨーカイエクスプレスは自販機の設置箇所も増やしていく。22年秋には、首都高のパーキングエリアや、ガソリンスタンドを中心に設置を予定。年内に30台ほどまで展開していく。24時間無人で稼働できるからこそ、夜間に人が活動するエリアを重点的に狙っていく。

 「夜間に需要があるパーキングエリアや物流拠点などと、自販機ビジネスは相性が良い。現在はガソリンスタンド、リゾート地の近くのホテル、ショッピングセンター、大学や企業など、あらゆる場所からお問い合わせをもらっている。またJRの多数の駅でも展開を検討。空いたスペースを立ち食いそばのカウンターのように改装して、飲食用のスペースも確保していく」(土屋氏)

 ただ、22年3月からの稼働で改善点も見つかったという。冷凍状態の商品が出てきたり、決済後にラーメンが出てこなかったりというトラブルが発生。土屋氏によれば、注文が予想以上に連続したことで、自販機のキャパシティーを超えたことが原因だという。こうした課題を克服するため、ヨーカイエクスプレスは筐体内部のオペレーションを改善。「連続調理への対応や、調理の精度向上といった、内部の細かいところを調整した。在庫が減ってきたらメールでアラームが飛ぶようにし、不具合が起こっても無人でオペレーションできるように対応した」(土屋氏)と語る。

 実装から浮き彫りになった課題にも対応しつつ、メニューの充実とともに、設置箇所を拡大していくヨーカイエクスプレス。22年秋には力の源グループによる「善光寺 Kamo Soba」のメニューを、同年冬には日本たばこ産業(JT)が手がける加工食品事業「テーブルマーク」とコラボしたうどんを発売予定だ。ユーザーにとっては利便性が高く、協業先にとっては人件費なしで販路が増える自販機ビジネス。国内では珍しい自動調理販売機で、ヨーカイエクスプレスが新たな旋風を巻き起こせるか。

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