トヨタ系自動車部品メーカー、アイシン(愛知県刈谷市)が美容業界に本格参入だ。自社開発した超微細水粒子「AIR(アイル)」の変換技術を活用した美容機器「WINDSCELL(ウィンセル)」を、2022年11月から発売する。クリニックに向け、保湿や美容液浸透の効果を打ち出す。
“超微細水粒子”を放出して保湿
アイシンは、1965年、愛知県刈谷市で「アイシン精機」として創業したトヨタ系の総合自動車部品メーカー。従業員数はグループ連結で約12万人、2021年度の売上収益は約3.9兆円で、自動車部品メーカーとして世界5位(※1)にランキングされている大企業だ。
そのアイシンが、クリニック向けの美容機器「WINDSCELL」を22年11月に発売する。販売対象は美容に関する自由診療を行うクリニックだという。
特徴は同社が約7年をかけて誕生させた技術、「AIR」を搭載していること。AIRは空気中の水分子を特殊構造カートリッジに吸着させ、熱のエネルギーを与えることで、1.4~1.5ナノメートルほどの超微細水粒子に変換して放出する技術で、同社ではこの水粒子そのものもAIRと呼んでいる。
AIRに採用された特殊構造カートリッジは、自動車やオートバイの排ガス処理に使用されている金属のハニカムを活用したもの。「膜に効率的に水蒸気を吸着させる」「膜を効率的に温める」「膜の湿度を保つ」という働きがあるという。目に見えない微細な水粒子であるAIRを肌に浴びせることで、保湿効果や、塗布した美容成分を浸透させる導入効果が期待されている。また、非接触で使用できるため、摩擦やレーザー、針、電気のような痛みを生じることがなく、デリケートな肌への活用も可能だという。
価格は1台300万円前後。約3年をめどに、600台ほどの販売を目標としている。
同社は日本皮膚科学会総会などでこれらの効果を発表し、21年6月から東京都内のクリニック数カ所で専門家の監修のもと、市場展開に向けた効果と安全性の確認を行っている。
22年9月1日に行われた新製品発表会で、アイシンイノベーションセンターの筒井洋センター長は、「おそらく世界初の技術。今後も既存の自動車関連の領域で培ったコア技術をベースに、人々の暮らしにより貢献するサービスを見据え、進めていきたい」と語った。
ベッドや睡眠環境などの研究から発展
同社イノベーションセンター AIRビジネス推進室の井上慎介室長によれば、WINDSCELLに搭載した新技術AIRは「AQUA(水)」と「INOVATIVE(革新的)」「REUDIMENT(原理)」 という言葉からの造語。自動車部品事業と住生活・エネルギー関連事業で培った知見を融合させた水の研究から発見した。
同社の事業は自動車部品の製造が約97%を占めているが、実は長年にわたり住生活・エネルギー関連事業も手がけており、その1つにベッドや睡眠環境などの研究がある。特に近年は睡眠中の室内の乾燥を改善をするために湿度を快適に保つための方法を模索。その中で、同社の強みである自動車やオートバイに使用している部品の素材と技術を活用して研究を進めていたところ、肌水分の持続に効果があることが分かった。井上室長は「なぜこんなことが起こるのか、非常に不思議に思い、研究を進めて開発に至った」と説明。当初は井上室長を含め4人で開発をスタートしたが、現在は大学の研究者や医師など、「AIRの未知の可能性を理解していただいた方々」(井上室長)を含む、32人体制となった。
AIRの一番の特徴は目に見えないほど微細な水粒子の大きさで、空気中の水蒸気を使うため、作動させても給水は不要。スチームのように大量に水を放出するわけではないので、機械の周囲がぬれたり結露したりということがないのもメリットだという。
「自動車業界は100年に一度の変革期。新たなことに挑戦していかなければならない状況なので、AIRに関しては非常に大きな期待を持っている。美容業界にとどまらず、新しい施設や新しい事業に投入していきたい」(井上室長)
家庭用の開発も視野に
クリニックに先駆けて、ヘアサロンにも試験導入している。「髪にも効果があるという研究結果が出ているので、ヘアサロンへの展開も進めていきたい」(筒井センター長)
空気中の水分を微粒子化するという性質上、大きな空間の湿度を変えるという機能ではないため、加湿器などには向いていないが、極小面に保湿などの効果があるため、家庭用機器を開発して販売する可能性はあるとのこと。
「AIRは美容にとどまらず、医療、衛生、食品など、あらゆる分野に応用できる可能性を秘めている。今後は様々な企業や組織とコラボレーションして、幅広い社会貢献につなげていきたい。その皮切りとして、アイシン初の美容領域において、新たな可能性にチャレンジしていく」と筒井センター長は意気込みを語った。
(撮影/桑原恵美子)