ダイハツ工業は2022年9月6日に、オールインワン移動販売パッケージ「Nibako(ニバコ)」の提供を開始した。同日行った発表会には、ダイハツ工業の奥平総一郎社長と武田裕介取締役 営業CS本部長らが出席した。
社長肝いりの地域応援プロジェクト
ダイハツ工業のオールインワン移動販売パッケージ「Nibako(ニバコ)」は、荷箱付き軽トラックを活用し、移動販売を始めたい小売りなどの事業者をサポートする新規事業だ。ダイハツの軽トラック「ハイゼット トラック」の荷台に専用の荷箱を搭載した状態で、事業者にレンタルする。サービス開始となる2022年9月6日から専用Webサイトでは契約の相談、出店場所の案内なども展開。23年度にはスマホアプリも立ち上げ、消費者向けのコンテンツを追加する予定で、集客につなげていく。
Nibakoのサービスは、まずはダイハツ東京販売、埼玉ダイハツ販売、ダイハツ千葉販売、京都ダイハツ販売の4販売会社を中心に地域限定でスタートする。順次地域を増やし、全国規模への拡大を目指すという。この4エリアでは22年10月以降にNibakoを使った店舗でのマルシェを開催する予定だ。
発表会に登壇したダイハツ工業の奥平総一郎社長は「Nibako事業は、地域活性化の取り組みの一つ」と説明。今は量販店やEC(電子商取引)サイトの充実により、ワンクリックで翌日には商品が手元に届くような時代だが、「そこには何かが足りないと感じている」と奥平社長。便利であっても、買い物の楽しみが損なわれているのではないかと懸念したこともある。それを踏まえて誕生したNibakoは「お客様と直接コミュニケーションが取れる移動販売を、新しい形で支援する取り組み」(奥平社長)だと言う。
「Nibakoの使い方だけでなく、出店ノウハウも伝えていくことで、すぐにスタートできるようにする」(奥平社長)。また同社は19年の東京モーターショーで「つどい ~みんなの暮らしをあたたかく~」をテーマに、人々や日本の各地域が車をきっかけに、元気になっていく「あたたかな未来の暮らし」を、ブース全体で表現。これを振り返り、「地域に様々な人が集うことで街や暮らしが豊かになっていく。19年の東京モーターショーで思い描いていた私の夢がスタートする」と語り、社長肝いりの地域応援プロジェクトの一つとして、スピード感を持って対応してきたことを明かした。
商品と必要な小物類そろえば出店可能
レンタルされるハイゼットには、着脱可能な専用荷箱を搭載。3方向が開口し、左側は回転時に目立つようにドアを真上に跳ね上げる「ガルウイングドア」仕様となっている。荷箱の外寸は全長1900×全高1300×全幅1300ミリメートルと、軽トラックの荷台(荷台長1940×荷台幅1410ミリメートル)を最大限に活用したサイズ。荷箱内を手軽に仕切ることができる「スライド式パーテーションウォール」と、荷箱の前にも商品を展示できるよう大小のアルミ製ラックを2個ずつ付属している。そのため小売りなどの事業者は商品と販売に必要な小物類を用意すれば、どこでも出店できるようになる。
価格は1日プランが1万3200円(税込み、以下同)から、1カ月プランが6万6000円から。小売りなどの事業者が単発のイベントなどに出店する際や、移動販売事業参入にも対応できるよう、配慮されている。
24年度黒字化、25年度には安定化
既にダイハツ工業では、京都などで実証実験を行っており、コーヒー豆販売店や農家の野菜の直売など複数の小売りなどの事業者にNibakoを提供。京都のダイハツ販売店舗ではマルシェなども開催し、事業者と消費者の両方から好意的な反応を得てきたという。
本格的な事業スタートとなる22年度は、地域限定のトライアル期と位置付け、Nibakoの配備目標台数を150台に設定。23年度は全国展開期として配備目標台数を1000台に増車。25年度には3500台の配備目標を掲げている。台数は配備の目標であって、短期利用も想定されるため、利用者数は配備台数より多くなると考えられる。またハードとしてのNibakoの利益は薄くても、今後「Nibako WEB会員サイトサービス(立ち上がりは無料)」により、事業者に対し販売場所紹介(場所代は別途)や販売マーケティング情報、コミュニケーションサービスなどを提供し、それに見合うコストを利用者が負担する仕組みを確立。25年度には事業を安定化させることを目指すとした。
他社製の軽トラックも対応可能に
Nibakoは車自体を販売しないレンタルのみのビジネスモデル。積載用荷箱については現在のハイゼットをはじめとするダイハツ製の軽トラックだけでなく、他社製の軽トラックにも積載できるようにする。軽トラックを所有する事業者に向け、荷箱だけのレンタルもできるだけ早く進められるようにしたい考えだ。
武田裕介取締役 営業CS本部長は、「安心安全な利用のためには、メンテナンスが重要。レンタルであれば当社で管理ができ、製品の長寿命化にもつなげられる」とレンタルのみのビジネスモデルにしたメリットを挙げた。
また「軽トラックと積載用荷箱を一体化しなかったのは、シンプルな設計によりコスト抑制につながるから。軽トラック、荷箱のいずれかに寿命が来ても、一方は使い続けられるので経済的かつエコでもある。荷箱自体は約6年でリフレッシュ(部品をまるごと交換)し、10年以上の利用を想定している」(武田氏)と説明した。なおスタート時点では4社だが、早期に全国58社あるダイハツ販売店に拡大させたい考えで、各社には事業相談やサポートを行える専任スタッフを配置していく計画だという。
地域貢献がダイハツにもたらす利点
Nibako事業の実証実験にも協力してきた京都ダイハツ販売の池辺聡志社長は、「Nibako事業は、今までよりも多くの人や自治体とつながることができ、結果として地域のインフラとしての役目も担えるようになる。これまでの自動車販売事業だけよりも、地域に貢献できる会社になれると期待している」と武田氏同様に社会貢献と実業の両立に意欲的だ。前述の通りハード面の利益は少ない。しかし地域の活性化を図ることで、地域での販売店の存在意義を高めることにつながる。それが結果的にダイハツ愛用者の増加にもつながることは十分考えられる。
Nibako事業を取り扱う各販売店、小売事業者へのサポート能力と、ダイハツが主導するメインプラットフォームとなる、専用サイトの提供内容が今後の成長のカギとなりそうだ。小売事業者にとっては、移動販売車両を自前で用意するのに必要な数百万円の初期投資が抑えられるため、利点は大きい。しかも1日、1カ月など短期間で契約も可能なNibakoはテスト販売にも向いており、トライアル利用にもつながりやすそうだ。
(画像提供/ダイハツ工業)