ニューバランスは2022年9月8日、新しいウオーキングシューズ「UA900」を発売した。新型コロナウイルス禍による若年層のウオーキング人口の増加を受け、20~30代をメインに訴求。若者向け男女兼用のウオーキングシューズは同社初だ。

2022年9月8日に発売された「UA900」。色はベージュ、ネイビー、ブラック、ABC-MART限定でグレー、ホワイトも用意。サイズは22.0~29.0センチメートルまでそろえた
2022年9月8日に発売された「UA900」。色はベージュ、ネイビー、ブラック、ABC-MART限定でグレー、ホワイトも用意。サイズは22.0~29.0センチメートルまでそろえた

1万円を超えると女性客が離れる

 ウオーキングシューズのトップブランド「ニューバランス」が、これまでとは路線の異なる新シリーズを展開し始めた。ニューバランスジャパン(東京・千代田)が、2022年9月8日に発売した「UA900」だ。ウオーキングといえば、年配者が楽しむ運動というイメージがある。実際、同社が販売してきたシューズも40代以上を狙った商品が大半だった。

 しかし、UA900は20~30代の男女をメインに訴求する。ニューバランスとして若年層を主に狙ったウオーキングシューズはこれが初。さらにユニセックスモデルとして展開するのも、同社にとって初の試みだ。

 UA900の色はベージュ、ネイビー、ブラックの3色に加え、ABC-MART限定でグレー、ホワイトも用意。アッパーのデザインは大きく「N」のロゴが入った定番のスニーカーに寄せた。男女共に違和感のない色味とデザインを意識し、ウオーキングシューズとして履いても疲れにくい機能性を確保した。価格は9900円(税込み)で、型番の「U」にはユニセックス、「A」にはアスレチックスの意味を込めている。

 価格設定も若年層を意識。開発を担当したニューバランスジャパンの桜井香里氏は、「男性はこだわりのある人がいるため、高価格帯の商品を購入してくれる方も多いが、女性は1万円を超えると手を出しづらい傾向にある。ユニセックスブランドとして販促し、かつ若い世代に手が届きやすいよう、価格を1万円以下に抑えたかった」と語る。

小さい子供がいて仕事でも活躍するヤングファミリー層などを想定している
小さい子供がいて仕事でも活躍するヤングファミリー層などを想定している
ニューバランスジャパン開発担当の桜井香里氏
ニューバランスジャパン開発担当の桜井香里氏

 ニューバランスがこれまでと方向性を変えた背景には、新型コロナウイルス禍により、20~30代の男女のウオーキング人口が増加したことがある。

 同社は20年、各世代の男女に、コロナ禍の前後で、ウオーキングする頻度がどう変わったかを調査した。その結果、ウオーキングする頻度が増えたと回答した人が、20~30代の男女で顕著に多く見られた。特に20代の女性は「増えた人が60%以上に対し、減った人は10%強」、20代の男性は「増えた人が40%以上に対し、減った人は20%強」と、若い世代でウオーキングの熱が高まっていることが判明。さらに22年7月に、20代の男女120人に行ったアンケートでは、2人に1人が月1回以上のウオーキングをしていることが分かった。

 ではなぜ、ウオーキングを習慣化する若年層が増加しているのか。ニューバランスジャパン マーケティング担当の金子鼓氏はこう分析する。

 「コロナ禍での健康志向の高まりや、リフレッシュの必要性から、日常生活の中にウオーキングを取り入れるムーブメントが高まっている。例えば、買い物のついでにちょっと遠出してみよう、運動不足だからひと駅手前で電車を降りて歩いてみようといった、いわゆる『ついで歩き、ながら歩き』が浸透している。逆にこれまでのウオーキングは、年配の世代がジャージーを着て土手を歩くといったように、歩くこと自体を目的として行うイメージが強かった」

 コロナ禍による生活環境の変化に伴い、ウオーキングの裾野が広がり、カジュアルにウオーキングを行う若い世代が増えたのだ。

ニューバランスジャパン マーケティング担当の金子鼓氏
ニューバランスジャパン マーケティング担当の金子鼓氏

若年層でユニセックスがウケる理由

 ニューバランスは、ウオーキングシューズを履いた経験がある人が少ない点にも着目した。22年7月に、20~40代の男女600人に行った独自アンケートでは、ウオーキングシューズの存在を認知しているユーザーが78%に対して、着用経験がある人は26.8%にとどまった。この数字のギャップからも、ニューバランスはウオーキングシューズ市場にまだまだ伸びしろがあると考えた。

 さらに調査を進めると、20~40代では履き心地に加え、ファッション性や軽さを重視する傾向があると判明。そこでデザインと機能性を両立させた商品コンセプトが生まれた。

 デザイン面では、若い世代を中心にはやっている、ジェンダーレスのファッションを取り込んだ。

 「ここ最近、若い世代を中心にアパレルでジェンダーレスのファッションがはやるようになり、シューズもその影響を受けている。例えば女性用のライフスタイルシューズでも、ピンクの差し色が入ったものより、男性らしい色味のものが好まれる。ユニセックスにすることで、夫婦やカップルでトーンに合わせて楽しめるメリットもある。今後ジェンダーレスの流れは定着していくだろう」と桜井氏。ジェンダーレスのファッションでは、シューズもシックな色味が好まれるはずだ。その結果、若い世代だけでなく、幅広い年代に合わせやすいような仕様に着地した。

カジュアルなファッションにも合わせやすく、幅広い年代、性別の人が使いやすい仕様に
カジュアルなファッションにも合わせやすく、幅広い年代、性別の人が使いやすい仕様に

 履き心地にも工夫を凝らしている。まず、ミッドソール部分に適度な厚みを持たせ、弾力性のある素材を採用した。アウトソール部分には、次の一歩が踏み出しやすいように重心がかかる位置に効率良くラバーを貼った。かかと部分は後ろに沿った形状にし、着脱性の高い仕様にした。そしてつま先部分に半透明の素材を圧着し、耐久性を高めた。

 運動時に履く靴は軽いほうが適しているイメージがある。しかし、ウオーキングシューズは適度な重みがあったほうが履いていて疲れにくい。また、歩くときは常時どちらかの足が地面に着いているため、衝撃を吸収する機能はランニングシューズほど問われない。むしろクッション性を重視し過ぎると、シューズが柔らかくなって疲れやすくなる恐れがある。UA900ではミッドソールを厚くすることで弾力性を保ちつつ、スニーカーらしい見た目を損ねずにオシャレ感も出した。

UA900のこだわり。底のラバー部分は貼り過ぎると価格が高くなり、靴自体も重くなる。そこで重心がかかる部分にだけ装着することで、コストと重量を抑えた
UA900のこだわり。底のラバー部分は貼り過ぎると価格が高くなり、靴自体も重くなる。そこで重心がかかる部分にだけ装着することで、コストと重量を抑えた

 「UA900の強みはデザイン性と機能性のバランスが両立しているところ。他社もウオーキングシューズを販売しているが、機能性が高いぶんスタイリッシュさには少し欠け、年配向けのイメージが強い」と金子氏。コロナ禍の影響で、ウオーキングする若年層が右肩上がりになった現状を踏まえ、新しい顧客層を獲得したい考えだ。

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