“ハンバーガー界の絶滅危惧種”といわれながら、社長交代により奇跡のV字回復を果たした「ドムドムハンバーガー」。2021年8月2日、東京・新橋にプレミアムバーガーメインの新業態「TREE&TREE’s(以下、ツリーアンドツリーズ)」をオープンしたが、1年たらずで移転。22年7月16日、銀座3丁目にさらにプレミアム感の高い新業態「ドムドムハンバーガー PLUS(プラス)」としてオープンした。その理由と狙いを藤﨑忍社長に聞いた。
カツカレー発祥の老舗洋食店とコラボ
ドムドムフードサービス(神奈川県厚木市)が2021年8月に東京・新橋にオープンした「TREE&TREE’s」が22年7月16日、銀座3丁目に移転し、新業態の「ドムドムハンバーガー PLUS(プラス)」として開業した。場所は22年2月に移転した洋食の老舗「銀座スイス本店」の跡地で、「銀座ガス灯通り」と呼ばれるエリア。並びには同じく銀座を代表する洋食「煉瓦(れんが)亭」もある、銀座の一等地だ。銀座スイス本店の移転先は同じガス灯通りの50メートルほどの位置にある大倉別館 2Fだ。
同店のメインメニューはTREE&TREE’s(新橋)で人気を博していた黒毛和牛100%パティのプレミアムバーガー。ドムドムハンバーガーの人気商品「甘辛チキンバーガー」も、チキンを大幅に増量し米粉バンズに変えたプレミアムバージョンで提供。また1947年(昭和22年)創業の老舗で、カツカレー発祥の店としても知られている「銀座スイス」とのコラボで、同店のカレーソースを使った「カツカレーバーガー」も販売している。
しかし、TREE&TREE’s は、「日本生まれのバーガーショップが日本で食べられる最高のバーガーを提供する店をつくろう」と、藤﨑忍社長の肝煎りでスタートしたブランドのはず。なぜ1年弱で新ブランドに発展させることになったのか。
銀座でなければできないことをプラス
藤﨑社⻑によると、移転理由は「建物の用途変更」だ。TREE&TREE’sが⼊っていたビルは22年に改築が決まり、⽴ち退かなければならなくなった。
その際思い出したのが、銀座スイスのオーナーから⾔われたひと⾔。銀座スイスのオーナーは21年にたまたま藤﨑社⻑の講演を聞いて興味を持ち、TREE&TREE’sに来店。ハンバーガーを⾷べた後、「是非、銀座でやりませんか」と誘ってくれたという。銀座⽅⾯での物件探しを始めた藤﨑社⻑は、まず初めに銀座スイスを訪ねた。
「銀座スイスは古い歴史を持つ洋食店。日本で最初にオープンしたハンバーガーチェーン第1号であるドムドムハンバーガーとのコラボであれば親和性がある」(藤﨑社長)と考え、銀座スイスに打診すると快諾を得られた。さらにほぼ移転前のままの居抜きで使わせてもらえることになり、移転費⽤も抑えられた。
名前を新しくしたのは、新橋から銀座に移転したことで、TREE&TREE’sのコンセプトに収まらない点が出てきたためだ。TREE&TREE’sは新橋のビジネスマンの生活スタイルに合わせるため、朝・昼・夜と3つの時間帯それぞれに合った営業スタイルでメニューを提供する業態だった。だが銀座は朝の需要は全くなく、夜も居酒屋というよりは、レストラン文化が確立されている。それならば、名前を変えてコンセプトを発展させようということになった。
ドムドムハンバーガーは都心にほとんど店舗がなく、月に1回、期間限定バーガーを発売すると、一番近い店舗まで足を運んで食べに行くファンが多い。「バージョンアップした期間限定ハンバーガーを提供できれば、銀座に出店する意味がある。ドムドムハンバーガーではできないけれど、銀座であればできることがあると考え、ドムドムハンバーガーPLUSという店名にした」(藤﨑社長)
オープンから2カ月弱だが、直後から反響が大きく取材も殺到している。ハイブランドのファッション誌からも取材されたといい、「銀座の店」という認知が得られていると実感しているそうだ。今のところ、週末は想定の150%ほど、ウイークデーの夜で100%ほど。「新型コロナウイルス感染拡大の第7波が広まったのとちょうど同じタイミングでのオープンにしては、すごくいい数字だと思っている」(藤﨑社長)
濃い関係はキャンペーンでは築けない
ドムドムハンバーガーは、新メニューが出るたびにTwitterに熱烈なファンからの多くのツイートが投稿され、話題になるのも特徴だ。ドムドムハンバーガーのTwitterのフォロワーは、新型コロナウイルスの感染拡大前後には約1万人前後だったが、その後どんどん増えて4万人台になり、この3カ月ほどで、4万5000人を超えた。
だが藤﨑社長は「フォロワー数を伸ばすためのキャンペーンなどの施策は、最近したことがない」と言う。それはキャンペーンに頼ってフォロワー数だけを増やすより、投稿者と1対1の濃い関係を築くほうが重要と考えているからだ。
「私どもは、来店して召し上がってくださる方や、電子商取引(EC)サイトでグッズを購入してくださる方と同様に、SNS(交流サイト)で投稿してくださる方もお客様と捉えている。このため投稿内容を私以下スタッフ一同が一喜一憂しながら拝見し、改善施策を取っている。だからメッセージ性の強い情報発信をしてくださる方が多いのだと思うし、こうした濃い関係性は、キャンペーンでは築けないと考えている」(藤﨑社長)
確かに大手の同業他社では、ドムドムハンバーガーの10倍以上Twitterのフォロワーを持ちながらも、1投稿あたりの「いいね」数がドムドムハンバーガーより少ないといった現象も起きている。逆に言えば、ドムドムハンバーガーのSNSは、エンゲージメント率がかなり高いといえる。
藤﨑社長によると、そうした高いエンゲージメントが、スタッフにもいい影響を及ぼしているという。発表のたびにSNSで話題になるドムドムハンバーガーの期間限定メニューは、通常のファストフード店では到底つくれないような、手間がかかるものが多い。「その代表が、『丸ごと!!カニバーガー』。冷凍のカニが丸ごと店に届いて、それを店内で解凍して、粉をつけて、丸ごと揚げている。あまりに手間がかかるので、本来はハンバーガー店では売ってはいけないくらいの商品(笑)。でもそれをスタッフが嫌がらずにやってくれるのは、SNSやメディアでの盛り上がりが励みになり、モチベーションになっているから」(藤﨑社長)
海浜幕張店開店で平日に70人の行列
そのエンゲージメントの高さは、22年8月1日の「ドムドムハンバーガー イオン海浜幕張店(以下、イオン海浜幕張店)」(千葉市)のオープン日にも示された。熱狂的なファンが集結したことを受け、ドムドムフードサービス広報の近藤彰氏は、「平日の月曜日だったのでそれほど多く集まるとは期待していなかったが、想定の約10倍のお客様が来店。一番多い時間帯で約70人並んだ」と驚いた様子を見せた。
2レーンしかない小さな店舗だったため、待ち時間は1時間半にもなり「クレームが来るのでは」と心配したが、クレームは皆無で、むしろTwitter上には「たくさんお客さんが来ていて、うれしかった」という声があったという。
近藤氏によると、イオン海浜幕張店の開業日に行列に加わったのは40~50代くらいが中心。2代続けてファンという親子連れも多く、中には全身ドムドムグッズで統一した10代の男性もいたという。
FCも多店舗展開も考えていない
ドムドムハンバーガーPLUSにはフランチャイズ(FC)のオファーもあるが藤﨑社長は慎重な姿勢を見せた。「ドムドムハンバーガーは50年以上続いているブランドであり、しっかりとブランディングできているので、これからもオファーをいただければ積極的に展開していく。しかし新しいブランドは、今うまくいっているからすぐに別のところでも、という展開は考えていない。。ブランドをしっかり固めてから進めていきたい」(藤﨑社長)とした。