※発売中の「ゲームエンタ! 東京ゲームショウ2022特別版」掲載記事をロングバージョンで掲載

出版社がインディーゲームの開発支援に乗り出している。口火を切った講談社は、クリエイターを支援するコンテスト「講談社ゲームクリエイターズラボ」(以下、GCL)を2020年9月にスタート。作家の発掘・育成ノウハウをゲーム領域に持ち込んだ形で、マンガ家と編集者のようにゲームクリエイターにも“担当編集”が付くのが特徴だ。

 第2期までの応募数は合計2000件以上。この反響を受けて、7月からは募集を年1回から4回に増やしたほか、ゲーム企画の「持ち込み」受付も開始した。なぜインディーゲームに着目したのか。GCLの立ち上げに携わり、現在はチーフとして全作品の進行にかかわる片山裕貴氏に聞いた。

『FAMILY BATTLE タッグアリーナ』
『FAMILY BATTLE タッグアリーナ』
「講談社ゲームクリエイターズラボ」の支援で開発されたタイトルの第1弾。「家族ゲンカ」がテーマの2対2の対戦アクション。キャラクターデザインはマンガ『神さまの言うとおり』の藤村緋二。980円/PC(Steam)

 クリエイターの表現手段として、ゲームが浸透してきています。背景には、UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンの普及、そしてゲーム制作に必要な様々な素材を手軽に入手できるようになったことが関係しています。直近では画像生成AI(人工知能)などの登場も大きいですね。こうしたソフトやサービスを活用すれば、クリエイターは自分がこだわりたい部分に集中できます。作家性を存分に発揮しようと思ったときに、ゲームが最適解になるというのは自然な流れかもしれません。

 講談社はマンガや小説、絵本など、様々な領域のクリエイターを支援してきた企業です。ゲームエンジンを使って個人でもゲームが作れるようになった今、我々の強みはゲーム領域にも活かせるのではと考えました。実際にGCLを始動させてみて、ジャンルが変わってもクリエイターの根本にある欲望は同じだなと感じています。自分の理想を形にしたい、そうしてできた作品を広く知ってほしい、という欲望です。

 2020年9月の第1期メンバー募集から予想以上の反響をいただき、クリエイターの熱量に驚いています。GCLは「ラボ」の名前の通り、実験的なプロジェクトとして始まりました。私はプロジェクトの立ち上げから参加していますが、この活動がまさか部署化するとは想像していなかったですね。それだけ出版社の支援を必要としてくれるクリエイターがいたことに喜びを感じています。

「講談社ゲームクリエイターズラボ」は「年間最大1000万円差し上げますから、好きなゲームを作りませんか?」をキャッチフレーズに2020年9月に始動。現在21作品を“担当”中
「講談社ゲームクリエイターズラボ」は「年間最大1000万円差し上げますから、好きなゲームを作りませんか?」をキャッチフレーズに2020年9月に始動。現在21作品を“担当”中

元アトラスの目黒将司も担当中

 様々な領域があるなかで、なぜインディーゲームに着目したのかというと、販売するための「出口」があったからです。個人のクリエイターであっても、ゲーム配信プラットフォーム「Steam」を通じて最初から世界に作品を発信できるようになりました。あらかじめ販路が見えていたことが、インディーゲームに踏み切った一番の理由です。

 GCLでのインディーゲームの定義は「少人数で作っているゲーム」。明確な人数の区分けはありませんが、個人または多くても5人程度のチームを想定しています。そのため、少人数で制作しているゲームであれば、クリエイターが著名な方であってもインディーゲームだという認識です。

 象徴的な例が、21年にアトラスを退社された目黒将司さんですね。目黒さんは『ペルソナ』シリーズなどのサウンドコンポーザーを務めた方ですが 、第1期メンバーの募集時に、いち応募者として応募してくださったんです。コンシューマーゲームの領域で活躍されてきた目黒さんがGCLに応募されたことに驚きましたが、「1人で作りたいゲームがある」と胸の内を明かしてくださり、その思いに共感して担当させていただくことになりました。

『Guns Undarkness』は、敵地に侵入してターゲットを排除するステルスゲームとコマンド式JRPGが融合した「ステルスRPG」「ペルソナ」シリーズの目黒将司が、ゲームデザイン・作曲・開発を1人で担当している
『Guns Undarkness』は、敵地に侵入してターゲットを排除するステルスゲームとコマンド式JRPGが融合した「ステルスRPG」「ペルソナ」シリーズの目黒将司が、ゲームデザイン・作曲・開発を1人で担当している

 目黒さんのゲーム『Guns Undarkness』では、キャラクターデザインをイリヤ・クブシノブさん(Netflixで配信中のアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』のキャラクターデザインなどを手掛ける)が担当してくださっています。イリヤさんには、つながりのあった編集部を通してこちらから連絡させていただきました。こうした人と人をつなげる部分は、編集者の得意とするところです。

徹頭徹尾「編集部」的なアプローチ

 GCLの運営には、講談社がマンガや小説の編集で培ってきた支援体制がそのまま活かされています。そもそも支援金の1000万円という金額は、マンガ週刊誌で新人作家が1年間連載したときの原稿料からきているんです。マンガの原稿料は、新人の場合1ページあたり1万円ほど。1話20ページだとして、年間およそ50週の連載で1000万円になる、という計算です。

 22年7月には、クリエイターの声を受けて内容を大きくリニューアルしました。募集を年1回から4回に増やしたのは「1年に1回しかないのでタイミングが合わなかった」「気づいたら募集が終わっていた」という声があったから。マンガの場合、月刊誌であれば3カ月に1度くらいの頻度でこうした新人賞の募集があるので、そこから年4回という回数を設定しました。

『違う冬のぼくら』は、2人プレー専用のパズルアドベンチャー。相手の画面を見るのは禁止。徐々にその意味が明らかになる。2022年発売予定/価格未定/PC(Steam)、iOS、Android
『違う冬のぼくら』は、2人プレー専用のパズルアドベンチャー。相手の画面を見るのは禁止。徐々にその意味が明らかになる。2022年発売予定/価格未定/PC(Steam)、iOS、Android
『十三月のふたり姫』は、童話『眠れる森の美女』を『女神転生』の鈴木一也、増子津可燦が新解釈したビジュアルノベル。2022年発売予定/価格未定/PC(Steam)/iOS/Android
『十三月のふたり姫』は、童話『眠れる森の美女』を『女神転生』の鈴木一也、増子津可燦が新解釈したビジュアルノベル。2022年発売予定/価格未定/PC(Steam)/iOS/Android

 新たに始めたゲームの「持ち込み」も好評で、平日は1日3件ほどのペースで受け付けています。これは1つのマンガ部署が抱えている持ち込みの量と同じくらい。思っていた以上の反応です。

本業のマンガ部署にもメリット

 編集部的なアプローチでクリエイターに寄り添い、総合出版社の強みを生かして宣伝しています。例えば、対戦アクションゲーム『FAMILY BATTLE タッグアリーナ』の発売時にはゲーム大会を開催し、優勝景品を『週刊少年マガジン』での宣伝権にしました。マンガ雑誌の裏表紙を自由に使えるという、自分たちが主催者だから実現できた企画です。

アーリーアクセスを記念したゲーム大会の優勝者に『週刊少年マガジン』の裏表紙を進呈。2022年9月14日発売号に掲載となる
アーリーアクセスを記念したゲーム大会の優勝者に『週刊少年マガジン』の裏表紙を進呈。2022年9月14日発売号に掲載となる

 ゲームの開発支援が本業に還元されることもあります。その1つが、人やモノの動きをデジタルデータにするモーションキャプチャーです。3Dゲームのクリエイターから要望が多かったため設備を導入したのですが、撮影した動きを好きな角度から見ることができるのでマンガの作画資料にも使えるんです。撮影を担った当社の写真部にとっても、新たな技術を学ぶ良い機会になったと思います。

 クリエイターの作品を世の中に広めるために出版社ができることは、ほかにもいろいろな手法があるのではと思っています。部内では「DAYS NEO」というマンガ家と編集者をつなぐマッチングサイトも運営しているので、例えばGCLで制作したゲームをコミカライズしてくれるマンガ家をDAYS NEOで募集するといった企画も実施できるかもしれません。

多くのクリエイターに挑戦の機会を

 マンガ雑誌において、掲載された作品がすべて同じようにヒットすることはなかなかありませんよね。ただ、1作品でもヒットすれば、他の作家たちがもう1度チャレンジできるくらいの売り上げが確保できる。ゲームも同じように考えていて、たくさんのクリエイターが、様々な形でチャレンジできる環境を作りたいと思っています。そのために多くの作品をサポートしていますし、今後も担当作品の数は増やしていく予定です。現在『FAIRY TAIL』オリジナルゲームコンテストの大賞作品も含めて21作品を支援中です。この夏からは募集頻度も上げているので、より多くのクリエイターに参加してほしいですね。

 GCLは今年で3年目。初回は応募者のほとんどが成人男性でしたが、徐々に若い方や女性も増えてきました。昨年はUnreal Engineを触って3カ月だという女性のクリエイターが作品を応募し、GCL特別賞を受賞しています。マンガはもともと女性の作家が多い媒体ですが、ゲームの領域でも女性の活動が目立ってきていますね。インディーゲームのイベントでも、出展者・来場者ともに女性の姿を多く見かけるようになりました。クリエイターにとって、ゲームが以前よりカジュアルな表現手段になりつつある。その潮流は確かに感じています。

片山裕貴(かたやま・ゆうき)氏。講談社クリエイターズラボ GCL チーフ。『FRIDAY』『月刊少年マガジン』の編集者を経て現職。GCLでは自身も担当編集として制作支援にかかわる(写真/中村嘉昭)
片山裕貴(かたやま・ゆうき)氏。講談社クリエイターズラボ GCLチーフ。『FRIDAY』『月刊少年マガジン』の編集者を経て現職。GCLでは自身も担当編集として制作支援にかかわる(写真/中村嘉昭)
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