象印マホービンが自社開発では初となるオーブンレンジ「EVERINO(エブリノ)」を2022年9月1日に発売。炊飯器などで培ってきた温度コントロール技術を活用し、庫内に直置きではなく浮かせて温める「全方位あたため“うきレジ”」など独自技術を搭載。同社の成長戦略の「次の柱」にしていく。

象印マホービンが自社開発では初となるオーブンレンジ「EVERINO(エブリノ)」を2022年9月1日に発売した。発表会に登壇した象印マホービンの市川典男社長は、顧客に「象印らしい商品、と認識されるかどうかもこれからの勝負」と話した
象印マホービンが自社開発では初となるオーブンレンジ「EVERINO(エブリノ)」を2022年9月1日に発売した。発表会に登壇した象印マホービンの市川典男社長は、顧客に「象印らしい商品、と認識されるかどうかもこれからの勝負」と話した

レンジ市場初参入、100億規模へ

 象印マホービン(以下、象印)がオーブンレンジ「EVERINO(エブリノ)」(ES-GT26型)を2022年9月1日に発売した。価格はオープンで実勢価格は6万5780円(税込み)。炊飯器やオーブントースター、ホットプレートなど数々の調理家電を手掛けてきた同社だが、自社開発でのレンジ市場への参入は初めて。かつて委託生産で、機能を絞った低価格品を出したことはあったが、05年に撤退。高機能な自社開発商品で、捲土(けんど)重来を期す。

 エブリノの主な特徴はレンジ機能からグリル機能へ自動で切り替える「芯まで“レジグリ”」、ボタン1つで揚げたてのように総菜や作り置きの揚げ物をサクッと仕上げる「揚げ物“サクレジ”」、そして新発想の、食材を庫内で浮かせて調理する「全方位あたため“うきレジ”」の3つ。商品名は「毎日の皆様の食卓を支える、とことん使えるオーブンレンジ」にしたいという願いを込め、「Everyday」「Everyone」「Every dish」から付けたという。メインターゲットは家で日常的に調理を行う2人以上の世帯。4~5年内には社内売り上げの10%を占める、100億円規模の事業に成長させたい考えだ。

 象印マホービンの市川典男社長によれば、中長期的成長戦略として、新市場や新チャネルの開拓、既存商品のラインアップ拡充により領域を水平的に拡大する。さらに新規カテゴリーの商品や新事業の創出によって、領域の垂直的拡大を計画しているとのこと。今回のオーブンレンジは垂直的拡大につなげる新規カテゴリーであると同時に、調理器具という領域でのラインアップの拡充を果たす商品であり、「象印ブランドの力を十分に生かせる商品領域」(市川社長)とみている。

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「使いこなせていない」不満を解消へ

 同社によれば、単機能の電子レンジ、多機能のオーブンレンジを含むレンジ市場は年間約550万台。新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要を受け、21年は600万台に迫る市場となっている。もともと電子(オーブン)レンジや炊飯器のように1世帯に1台あるような普及率が約90%の調理器具は、年間500万~600万台で推移する傾向があり、同社主力商品である炊飯器市場と共通項が多い。

 また、市川社長は低価格帯の単機能の電子レンジと、多機能のオーブンレンジでは、金額的にはオーブンレンジ市場のほうが大きいものの、販売台数では6、7年前から単機能レンジが上回ってきていると指摘。「多機能オーブンレンジを買ったものの、オーブン機能が使いこなせない、温めるだけでいいと感じる購入者が、単機能レンジに買い替える傾向が出てきているのではないかと考えている」(市川社長)

 そこで再参入に当たり、同社で培ってきた温度コントロール技術と調理器具開発で得たレシピなどのソフト開発力をフルに活用した、既存のレンジユーザーの「使いこなせていない」不満を解消し、真のニーズに応えられる、象印らしいオーブンレンジを開発することにした。市川社長は「今持っているオーブンレンジからの買い替え需要だけでなく、単機能のレンジから、少し使いやすいオーブンレンジに買い替えていこうという層も捉えられるのではないかと期待している」と自信をのぞかせた。

エブリノは既存のレンジユーザーの「使いこなせていない」不満を解消し、真のニーズに応えられる商品として上市したという
エブリノは既存のレンジユーザーの「使いこなせていない」不満を解消し、真のニーズに応えられる商品として上市したという

レンジは購入前後でギャップが大きい

 象印マホービン執行役員 生産開発本部副本部長 技術開発室長の山根博志氏もまた、いかに「使いこなせない」という声を解消できるかに注力したと話す。「オーブンレンジ購入前には『調理の時間短縮(時短)』『レパートリーが広がる』『調理の手間軽減』を期待していたユーザーが、購入後は満足できていない。オーブン調理に関しては『ほとんど使っていない』、グリル調理については『温度むらのためおいしくできない』と答えた人が77%、簡単レンジメニューについては『オーブン料理のメニューしか知らない』が76%など、日常では単機能的な電子レンジ機能しか使えておらず、多機能のオーブンレンジとして使いこなせていない。つまり、購入前と購入後でギャップが大きいのがレンジだと分かった」と山根氏。

 こうした声を反映し、エブリノは新しいグリル調理、新しいレンジ調理という2つの提案に基づいて、象印独自の機能を搭載することを決めた。大きな特徴は象印独自の3つのサーモテクノロジーだ。1つ目は「芯まで“レジグリ”」機能で、グリル調理の2大不満である、むらの解消と時短を実現する技術。これは食材状態に合わせて、レンジとグリルを自動切り替えで調理する機能で、初めにレンジで素早く食材の内部温度を上げ、その後は自動でグリル機能に切り替えることで、食材の表面に香ばしく焼き色を付けられるという。「レンジ→グリル」だけではなく「グリル→レンジ」の設定も手動で可能だ。この機能を使えばまず表面に焼き目を付け、うま味を閉じ込めてから内部に熱を通すことができる。

 2つ目は「揚げ物“サクレジ”」機能で、作り置きや総菜のコロッケや天ぷらなども揚げたてのように時短で仕上げることができる。中身は温かいけれど衣がべちゃついている、外はさくさくだけど中身が冷たい、といった揚げ物の温め直しの不満を解消する。

エブリノの機能、「芯まで“レジグリ”」では食材の種類、形、量、大きさや使用環境などによるが、ハンバーグやグラタンなら約13分(下ごしらえの時間は含まない)で調理が可能。メニューに合わせた「焼き色」調整もできる。角皿(写真)はマイクロ波を透過する陶磁器(セラミック)製なので、レジグリ機能を最大限に生かせるという
エブリノの機能、「芯まで“レジグリ”」では食材の種類、形、量、大きさや使用環境などによるが、ハンバーグやグラタンなら約13分(下ごしらえの時間は含まない)で調理が可能。メニューに合わせた「焼き色」調整もできる。角皿(写真)はマイクロ波を透過する陶磁器(セラミック)製なので、レジグリ機能を最大限に生かせるという

「全方位あたため“うきレジ”」とは

 3つ目が最大の特徴であり、見た瞬間一番驚くのがボウルを浮かせて加熱する「全方位あたため“うきレジ”」だ。

 従来のオーブンレンジではレンジで温める際は庫内に直置きするため、マイクロ波が底部に集中する。そのため火が通りづらい食材の場合、底のほうは熱くなっても、上のほうはあまり熱が通っていないという、加熱むらの原因にもなっていた。そこで、上部で温まった熱を逃さないよう、セラミックの角皿で熱を閉じ込めながら、容器を加熱効率のよい位置に“浮かせる”ことで、温度むらを解決することにした。その結果、温度むらは約10度、抑えられたという。

ボウルセットを庫内で浮かせた状態で調理することで、食材上部と底部の温めむらを抑えた全方位加熱を実現するという
ボウルセットを庫内で浮かせた状態で調理することで、食材上部と底部の温めむらを抑えた全方位加熱を実現するという

 使い方は、下ごしらえした材料を付属のボウルセット(耐熱ガラス製のボウルとシリコーンゴム製で取り外し可能なボウルリングのセット)に入れ、角皿下部のレールにスライドさせて差し込む。ボウルセットを庫内で浮かせた状態で調理することで、食材上部と底部の温めむらを抑えた全方位加熱を実現する。うきレジは、付属のボウル(耐熱ガラス製)専用だが、熱が均等に伝わるため食材を裏表に返したり、移動させたりしなくてよい点は、消費者にアピールできそうだ。

 その他、消費者調査を反映し、操作しやすくするためダブルダイヤル式を採用した。液晶も見やすく使いやすい白黒反転液晶にしている。メニュー表示もすっきりさせ、レンジ下部を引き出すことで確認できるメニューボードを採用し、視認性も高めている。

総庫内容量は26リットル。間口は40.5センチメートルのワイド庫内で、約30センチメートルのパーティー皿や大きめのお弁当の出し入れもしやすい。フラット庫内なので手入れが簡単にできる
総庫内容量は26リットル。間口は40.5センチメートルのワイド庫内で、約30センチメートルのパーティー皿や大きめのお弁当の出し入れもしやすい。フラット庫内なので手入れが簡単にできる
本体はコンパクトで、奥行き45センチメートルの一般的なカップボードにも収まるようにしている(幅48.7×奥行き39.9×高さ37センチメートル)。ダブルダイヤル式を採用して操作性を高めた。液晶は白黒反転液晶で見やすい
本体はコンパクトで、奥行き45センチメートルの一般的なカップボードにも収まるようにしている(幅48.7×奥行き39.9×高さ37センチメートル)。ダブルダイヤル式を採用して操作性を高めた。液晶は白黒反転液晶で見やすい
メニュー表示はレンジ下部を引き出すことで確認できるメニューボードを採用
メニュー表示はレンジ下部を引き出すことで確認できるメニューボードを採用

市場として炊飯器に匹敵する規模

 象印がエブリノを「次の柱」に考えているとはいえ、既に家電市場は成熟している。なぜ電子レンジ市場に参入したのか。市川社長はこの点を「当社は調理器具専業メーカー。炊飯器を筆頭にオーブントースター、コーヒーメーカー、ホットプレートなどそれぞれの調理器具で高いシェアを持っている。しかし、その中でこれまでオーブンレンジを持っていなかった。成長戦略を考えるうえでは、市場として炊飯器に匹敵する規模があるため、次の柱として参入することに決めた」と説明する。成熟市場であることは十分認識しており、だからこそリサーチを重ね、独自機能に活路を見いだした。

 また同社は家電メーカーではなく、日用品メーカーだと言い続けており、象印ならではの目線で物づくりをしていると強調。「家電業界はこの10年で様変わりしている。それまでは国内家電メーカーが各カテゴリーで大きなシェアを持ち、結果的に同じような機能の同じような商品で価格競争をすることが多かった。だが近年は海外メーカーや、国内でも家電メーカーと違う視点を持つメーカーから様々なデザイン家電が出ており、そちらを選ぶユーザーも増加した」(市川社長)。同社では横並びの物づくりは行わず、いわゆる家電メーカーとは一線を画しているからこそ、勝算はあるという認識だ。

デザインについては、「丸みのあるデザインは得意としてきたが、四角い製品はあまり手掛けてきていなかったので、一からトレンドなども調べて、いわゆる家電メーカーとは差別化されたデザインを目指した」と市川社長
デザインについては、「丸みのあるデザインは得意としてきたが、四角い製品はあまり手掛けてきていなかったので、一からトレンドなども調べて、いわゆる家電メーカーとは差別化されたデザインを目指した」と市川社長

家電メーカーとは異なる発想の入り口

 新進メーカーにも近い発想力と言えるが、今後はどのように新事業、新商品を展開していくのか。

 「私が社長になってからずっと話してきたのは、まず象印は家電メーカーではなく、電気を使う製品だけが象印の製品ではないということ。電気を使うのか、魔法瓶技術を使うのかの違いはあるが、製品開発の目的は『おいしく簡単に便利に』を実現すること。根本的に国内家電メーカー各社とは発想の入り口が異なる。もう一つは象印のブランドであることを大切にすること。『これは象印らしいね』と言ってもらえる商品であるかどうかが重要だ。エブリノも、皆様に象印らしい商品だと思ってもらえるかどうか、これからの勝負だと思っている」(市川社長)

 現在、同社の製品売上では、炊飯器が40%を占めている。ホットプレートなどの調理器具は単価が低いため、生産台数は大きいが、単価で炊飯器に匹敵するような商品はこれまでなかった。エブリノを起点に今後投入していくオーブンレンジは、同社売り上げの10%、100億円に育てる予定だという。これは同社で炊飯器に次ぐ規模だ。

 「まずはサイズ展開、機能の違いによる値段展開をしていく計画がある。当社の強みはフルライン展開だ。生活者はそれぞれに大きさ、機能など求めるものが少しずつ異なる。各ニーズに応えられるようフルラインに近い品ぞろえにしていきたい」(市川社長)

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