新型コロナウイルス禍の内食需要により、ホットケーキミックス、天ぷら粉、から揚げ粉、お好み焼き粉などの「プレミックス」(Prepared Mix:調製粉)は、2020年に家庭用市場が急拡大したとされる(※1)。中でもホットケーキミックスの伸び率は高かったという。そんな中、ホットケーキミックスの売上個数(全品合計)でシェアNo.1(※2)の昭和産業が、乳・卵を使用しないホットケーキミックスの新商品を22年9月1日に発売。過去にも乳・卵不使用のホットケーキミックスを発売していた同社だが、特性を大きく打ち出した理由は何か。

※1:日本プレミックス協会によれば、国内での家庭用プレミックスの生産量は無糖・加糖製品合わせ、2019年が6万8804トン、20年が7万9341トン
※2:インテージSCI調べ。ホットケーキミックス市場2020年2月から2021年4月メーカーシェア(個数)
昭和産業は2022年9月1日に卵・乳成分不使用で、卵なし&牛乳なしのアレンジレシピでもおいしく作れるプレミックス「アレンジいろいろホットケーキミックス」を発売する
昭和産業は2022年9月1日に卵・乳成分不使用で、卵なし&牛乳なしのアレンジレシピでもおいしく作れるプレミックス「アレンジいろいろホットケーキミックス」を発売する
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卵・乳使用製品と変わらない味わい

 昭和産業は2022年7月28日に新商品発表会を開催。対面での発表会開催は3年ぶりとなった。登壇した昭和産業取締役常務執⾏役員の山口龍也氏は「新型コロナウイルス禍により食事を介したコミュニケーションの場も外食から家庭内に変化し、家庭での団らんが見直されるようになった。家庭で手作りする機会が増え、エンジョイする選択が増えたことは、ビジネスチャンス」と前向きにとらえ、「天ぷら粉、から揚げ粉、ホットケーキミックスといった人気の高いプレミックスの新商品の導入により、さらなる活性化を図っていきたい」と意欲を見せた。

 新商品のうち、22年9月1日発売の「アレンジいろいろホットケーキミックス」は、卵・乳成分不使用(本品製造工場では特定原材料のうち、卵・乳成分を含む製品を生産)で、卵・牛乳なしのアレンジレシピでもおいしく作れるという。実際に食べてみると甘さが控えめなほかは、食感など既存のホットケーキとの違いは感じなかった。

「アレンジいろいろホットケーキミックス」(180g×4袋)は希望小売価格 593円(税込み・以下同)。「ミックスには卵・乳成分を使っていません」とパッケージに大きく記載。裏面には卵・牛乳を使わないアレンジレシピも掲載している(画像提供/昭和産業)
「アレンジいろいろホットケーキミックス」(180g×4袋)は希望小売価格 593円(税込み・以下同)。「ミックスには卵・乳成分を使っていません」とパッケージに大きく記載。裏面には卵・牛乳を使わないアレンジレシピも掲載している(画像提供/昭和産業)
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 同社商品開発研究所家庭用グループリーダーの石井圭子氏によると、小麦粉には多数の種類があるが、その中でふんわり膨らみやすい特性のあるものを選ぶことで、卵や牛乳なしでもふんわりした食感を実現。また砂糖やブドウ糖、粉末水あめを配合することで、しっとり口どけの良い食感にした。香りはバニラを加えることで、甘さと風味をより感じられるようにしたとのこと。

「アレンジいろいろホットケーキミックス」で作ったホットケーキ(卵・牛乳使用)
「アレンジいろいろホットケーキミックス」で作ったホットケーキ(卵・牛乳使用)
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卵・乳アレルギー最多年代が主要客

 同社の発表によると、ホットケーキミックスの購買層は⼦育て世代が4割以上で、喫⾷者の年代は乳幼児から小学生が多いとのこと(※3)。⼀⽅、即時型⾷物アレルギー患者の年齢分布をみると、0~6歳の乳幼児に多く、その原因物質の内訳は上位2位の鶏卵(卵)、⽜乳で全体の約50%を占めている(※4)。どちらもホットケーキを作るときに使われる材料であり、またホットケーキミックスにも使われていることが多い原料でもある。こうした社会状況が、同商品の開発背景の 1つだという。

※3:出典)ライフスケープマーケティング(東京・千代田)の「食マップ2021」による「ホットケーキの喫食者別TI値 食卓機械会1日計」
※4:「消費者庁 令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」による、「即時型食物アレルギー患者の年齢分布」によれば、0歳が30.9%で最も多く、以降加齢とともに漸減する。6歳までに79.5%を占める。また、「即時型食物アレルギーの原因食物」の内訳では、1位の鶏卵33.4%、2位の牛乳18.6%と上位2位で約50%を占める。

卵、牛乳を使わないアレンジレシピも

 もう1つの開発の背景にあるのが、同社のお客様相談センターへの問い合わせ内容だ。全体の44%が「どうしたらふっくら焼けるか」といった調理方法に関する内容だが、原料やアレルギーに関する問い合わせが22%に上った。「卵や乳を使わないアレンジレシピを教えてほしい、どのようなアレルゲンが入っているのか教えてほしいといった問い合わせが常に一定数ある。しかしこれまでのパッケージでは、ミックスの中に卵・乳成分を使っていないかどうかが分かりにくかった」(石井氏)

 「卵、牛乳を使わないアレンジレシピを知りたい」という問い合わせに対しては、パッケージ裏にホットケーキ以外のアレンジレシピを掲載。全部で12種類あるアレンジレシピを、パッケージごとにランダムに3種類ずつ掲載している。また12種類すべてのレシピは、2次元コード(QRコード)を読み取ることで見られるようにする(9月1日から)。

 アレンジレシピを積極的に公開しているのは、市場動向として、ホットケーキの喫食機会が多岐に広がっているためだ。同社の発表によると、最も多いのは「休日のおやつ・間食」で49.5%だが、「休日の朝食」が43.3%、「平日のおやつ・間食」が41.1%となっている。そこで、アレンジレシピでは、スコーンなどのおやつメニューとともに、フォカッチャなどの食事系アレンジメニューも提案している。

 昭和産業の発表では「富⼠経済の『2022 ⾷品マーケティング便覧、販売額』によれば、現状でのホットケーキミックス、ケーキミックス、パン類ミックス、スポンジケーキミックス、蒸しパンミックスなどの加糖プレミックスの市場規模は約200億円」とされている。その市場において、同社ではアレンジいろいろホットケーキミックスの販売目標金額を約4億9000万円と公表した。

「アレンジいろいろホットケーキミックス」のアレンジレシピの一例、フォカッチャ(材料に、卵、牛乳不使用)
「アレンジいろいろホットケーキミックス」のアレンジレシピの一例、フォカッチャ(材料に、卵、牛乳不使用)
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「アレンジいろいろホットケーキミックス」で作ったスコーン(材料に、卵不使用)
「アレンジいろいろホットケーキミックス」で作ったスコーン(材料に、卵不使用)
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小麦高騰で価格に見合う付加価値必要

 コロナ禍の内食需要の高まりは前向きにとらえた山口取締役常務執行役員だが、昨今の小麦原料の高騰については、厳しい表情を見せた。

 「価格が上がると値ごろ感がなくなる。我々は食品メーカー、原料メーカーとして、価格に見合った商品価値を提供できるようにならなければいけない。価格は高いが、それに見合った機能やおいしさ、今までになかった新しさといった付加価値を考えなければならない。小麦不足は世界的な規模の問題なので、我々はそれを真摯に受け止めて、より努力していく」(山口常務)

「値上げした価格に見合った機能やおいしさ、今までになかった新しさといった付加価値を考えなければならない」と語る、昭和産業取締役常務執行役員の山口龍也氏
「値上げした価格に見合った機能やおいしさ、今までになかった新しさといった付加価値を考えなければならない」と語る、昭和産業取締役常務執行役員の山口龍也氏
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油で揚げない「焼き天ぷらの素」も新発売

 他にも、22年9月1日に少ない油で天ぷらを作れる「もう揚げない!!焼き天ぷらの素」 も発売。昭和産業は日本で最初にてんぷら粉を発売した会社だが、新商品は大さじ3杯(45cc)程度の油で焼き調理するだけで、天ぷらのような食感に仕上がり、使用後の油処理も拭き取るだけというものだ。

 天ぷら粉市場は約70億円(出典:富士経済「2022食品マーケティング便覧、販売額」)。同社では「昭和天ぷら粉」をはじめ5種類の天ぷら粉を販売しているが、同商品により「揚げ物をしない人」という新規ユーザーを獲得し、天ぷら粉の間口拡大を狙うという。年間販売目標金額は6000万円だ。

少ない油で天ぷらを作ることができる「もう揚げない!!焼き天ぷらの素」(120g)179円(画像提供/昭和産業)
少ない油で天ぷらを作ることができる「もう揚げない!!焼き天ぷらの素」(120g)179円(画像提供/昭和産業)
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昭和産業による「もう揚げない!!焼き天ぷらの素」で作った「焼き天ぷら」の調理例
昭和産業による「もう揚げない!!焼き天ぷらの素」で作った「焼き天ぷら」の調理例
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 新型コロナ拡大による内食需要の高まりが長く続き、「店で買わずに手作りする」ことが定着すると、単に家で作るための商品というだけでは飽き足らず、よりレベルの高い味に仕上がることが求められるようになる。さらに小麦価格高騰による値上がりラッシュで、店で買わずに家でお店レベルのものを作りたいというニーズも高まることが予想される。

 コロナ禍による内食需要の高まりの後に来た小麦の価格高騰は、「プレミックス市場」にとっては、ある意味チャンスになるかもしれない。

(撮影/桑原恵美子)