コインランドリー市場で「ふとんの丸洗い」ができる大型機器が注目される中、業務用洗濯乾燥機メーカー大手のTOSEI(東京・品川)が「15分でダニを100%死滅させることができる」とうたう「スチームリフレッシュ」コースを搭載したコインランドリー向け機器を発売した。丸洗いではなく高温スチーム・消臭・除菌・乾燥機能を開発・搭載した理由とは何か。

TOSEI商品企画・開発本部本部長執行役員 野村雅和氏(左)、同社営業統括責任者執行役員 塚本広二氏(右)
TOSEI商品企画・開発本部本部長執行役員 野村雅和氏(左)、同社営業統括責任者執行役員 塚本広二氏(右)

15分でダニが100%死滅

 コインランドリー市場では「ふとんの丸洗い」ニーズの高まりに期待が寄せられている。これまでにも日本アレルギー学会によりアレルギーの一因となりやすいダニ対策として、ふとんの丸洗いが推奨されてきたが、新型コロナウイルス感染症の流行によって衛生管理の観点から需要拡大が見込まれている。こうした中、コインランドリー機器大手各社は専用機器の販売拡大を目指し、新機種を発売。しかしふとんの持ち運びの大変さや、丸洗い後の乾燥時間の長さが影響してか、利用者の数は業界の期待ほど伸びていない。

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 そんな中、01年に業務用洗濯乾燥機の開発・製造・販売を開始し、21年度の国内出荷台数シェアは約42%(同社調べ) の業務用洗濯乾燥機メーカー大手、TOSEI(東京・品川)が、2022年8月1日に独自開発のコインランドリー向け機器「リフレッシュスチーマー(FRDG-150C)」を発売した。同機には、ふとん丸洗い後のスピード乾燥が可能という「乾燥」コースに加え、高温スチームと消臭除菌剤噴霧によりダニを100%死滅させられる「スチームリフレッシュ」コースを搭載。後者は丸洗いして乾燥させるよりも洗濯にかかる時間を短縮できるのが特徴だ。

2022年8月1日に販売開始されたTOSEIの「リフレッシュスチーマー」(FRDG-150C)は特許出願中。価格は取り付け費用などを含めて約300万円。「乾燥」コースと「スチームリフレッシュ」コースを選べる仕様になっている
2022年8月1日に販売開始されたTOSEIの「リフレッシュスチーマー」(FRDG-150C)は特許出願中。価格は取り付け費用などを含めて約300万円。「乾燥」コースと「スチームリフレッシュ」コースを選べる仕様になっている

 使い方はシンプルで、リフレッシュスチーマーの山型の台車にふとんを掛けてセットし、コースを選ぶだけ。同機器には洗濯機能はないため別の洗濯機で洗う必要があるが、乾燥コースの場合、丸洗い後のふとん(中綿がポリエステル100%のシングルサイズのふとん)を最短20分で乾燥できるという。乾燥時間は同社のこれまでの機器の約9分の1になるといい、一気に短縮された。「乾燥にかかる時間が短く、結果的にガス消費量も従来の4分の1に節約できることになる。昨今のエネルギー価格高騰の中、オーナー様の負担も軽減されると思う」(TOSEI商品企画・開発本部本部長 執行役員の野村雅和氏)

乾燥コースでは、同社の従来機種と比較すると乾燥時間が約9分の1に、ガス消費量が約4分の1になるという
乾燥コースでは、同社の従来機種と比較すると乾燥時間が約9分の1に、ガス消費量が約4分の1になるという

 またリフレッシュスチーマーの最大の特徴は、山型の台車に配置された1万8000個の穴から高温スチームが出て中綿まで浸透し、通過させる仕組み。同社が専門機関(※1)に依頼した検査によると、リフレッシュスチーマーによる敷ふとん内の殺ダニ率は100%。大腸菌も100%、一般細菌もほぼ100%除去できるという。新コースであるスチームリフレッシュ・コースではこの仕組みを使い、洗剤を使用せず水洗い不要で除菌を可能にした。スチームリフレッシュ・コースの場合、トータルでも約15分でコースが完了するというスピーディーさだ。

※1:インテリアファブリックス性能評価協議会認定機関「愛研」により22年5月に実施。使用寝具は敷ふとん(側生地:ポリエステル100%/中生地:不織布ポリプロピレン)で、検査項目はダニ(ヤケヒョウヒダニ)
リフレッシュコースを選択すると、ふとんを山型の台にセットした後、高温スチームと消臭除菌剤噴霧によるダブル消臭とダブル除菌。最後に高温ジェット風で一気に乾燥させるため、15分でふとんのリフレッシュが完了する
リフレッシュコースを選択すると、ふとんを山型の台にセットした後、高温スチームと消臭除菌剤噴霧によるダブル消臭とダブル除菌。最後に高温ジェット風で一気に乾燥させるため、15分でふとんのリフレッシュが完了する

 コインランドリーでの利用料金はオープン価格だが、スチームリフレッシュ・コースは800円前後、乾燥コースは5分100円を想定している(敷ふとんの場合は乾燥時間が20分程度のため400円前後を想定)。

ふとんの洗濯文化、定着が目標

 ただしTOSEIはダニの完全除去には引き続き丸洗いを推奨する。ダニは死骸もアレルゲンとなるため、死滅させるだけでは「排除」したことにならないからだ。同社は、スチームリフレッシュ・コースでも最後の高温ジェット風でダニの死骸がフィルターに集まるため、ある程度は排除できるとする。さらに一般細菌や大腸菌も死滅させられるので、一定のアレルギー防止効果はあるという。

 それでも「ダニの死骸まで完全に排除するためには、やはりふとんに水を通して洗い流す必要がある」とTOSEI営業統括責任者で執行役員の塚本広二氏。なお理想は週に1度のスチームリフレッシュ・コースでもでのふとんリフレッシュと、季節の変わり目や収納前のふとん丸洗いだが、できれば2カ月に1回はリフレッシュ、半年~1年に1回は丸洗いしてほしいという。

 そもそも同社では「ほとんど効果のない『ふとん天日干し文化』から脱却し、『ふとんを丸洗いする文化』を日本に根付かせること」(塚本氏)を数年前から目標にしてきている。また、現在のコインランドリーの市場規模は1300億円程度ながら、ふとんの丸洗い文化の定着により、約4000億円規模にまで伸長する可能性があるとみている(※2)

※2:TOSEIが日本人の1人あたりのふとんの所有枚数を1.6枚と想定(ベッド使用者を差し引いたもの)し算出。日本の人口約1億2500万人(合計約2億枚)が年1回洗濯するという文化を定着させられれば、2億枚×1回分のコインランドリー料金の2000円で、年間約4000億円の市場が生まれるという計算

 しかし広い駐車場がある郊外型コインランドリーはまだしも、駐車場のないコインランドリーでは、やはりふとんの持ち運びが大変で、丸洗いに意欲があってもハードルは高い。同社では、丸洗いした敷ふとんをスピード乾燥できるコイン式ふとん乾燥機「FDG-100C」を開発し、20年2月に発売。現在までに540台以上を出荷しているが、「利用の広がりは、当社が期待するスケールには至っていない」(塚本氏)のが実情だ。多く寄せられる「やり方が分からない」「難しそう」という声に対し、スタッフ常駐店も増やしているが、一番利用者が多い店でも、ふとんを丸洗いする利用者は少なく、頻度も半年から1年に1回程度だという。

 そうした状況の中、手軽さで勝るリフレッシュスチーマーを投入し、まずはふとんを殺菌する快適さを体験してもらい、ふとんの丸洗いにつなげていきたい考えだ。「丸洗いよりも、もっとこまめに、もっと手軽にお手入れできないかという声も多くいただいた。持ち込んでから15分でリフレッシュが完了し、取り出してそのまま持ち帰ることができれば、普通の衣服を洗う感覚で、ふとんを清潔に保てるということを実感していただけるのではと期待している」(野村氏)

 今後、年間500台のペースで出荷していき、自社店舗に限らず、全国どこのコインランドリーでも当たり前のように置いてもらえるシーンをイメージしているとのこと。

 コインランドリーは一時期の急激な増加により、新規出店のための好立地が減少し、1店舗あたりの利用者も減少している。「ふとんを丸洗いする文化」が根付くかどうかは、コインランドリー業界の死活問題ともいえる。最大のネックはやはりふとんの運びにくさと考えられるが、スクーターや自転車で運ぶ利用者も多く、中にはタクシーで持ち込む利用者もいるそうだ。丸洗いしたふとんの快適さを知れば、持ち込むときのハードルの高さは気にならなくなる人も多いということだろう。そのためにもまずは、リフレッシュスチーマーの認知度向上が必要になる。

(画像提供/TOSEI)

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