ヘアケアなどの月額制パーソナライズD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドを展開するSparty(スパーティー、東京・渋谷)が、月額制のパーソナライズフレグランスサービス「love passport mila(ラブパスポート ミラ)」を開始した。国内外でフレグランスブランドを手掛けるフィッツコーポレーション(東京・港)との協業で、2022年7月20日に始めた。オフラインでの体験が重要な“香り”をオンラインのサブスクで提供する狙いとは?
親友のような“mila”と自分用を探す
「love passport mila(ラブ パスポート ミラ)」は、自分にぴったりの香水(オードトワレ)7.5ミリリットルとヘア&ボディーオイル40ミリリットルが毎月届くサブスクリプションサービスだ。オンライン上で「好みの香り」や「使いたいシーン」、「使用頻度」「周囲の人にどのくらい香りを感じてもらいたいか」など、8つの質問に回答して利用する。
商品が届いたら使用してみて、次回発送予定日(マイページより確認)の10日前までに、再度質問に答える。その際、季節の移り変わりやユーザー自身の気分や環境の変化を反映することで、翌月にはさらに自分にぴったりな新しい香りへとアップデートされた商品が届く仕組み。サービスサイトを開くと商品名にもなっているキャラクターの「mila」が仮想コーディネーターとして出現。前述の質問は、このmilaが「親友のような相談相手」としてオンライン上で問いかけてくる仕組みで、自分だけの香りを探すサポートをmilaがしてくれるように感じる。
香水にはフランス産の香料を使用しており、初回注文では香水とオイルのほかに、香水をカバーするレザーケースや、香水の基本的なつけ方や香りをリタッチするタイミング、シーンに合わせた活用法などがまとまったフレグランスガイドブックが付いてくる。初回価格は4268円(税込み、以下同)、2回目以降は6138円で、質問に回答してから3~4日で商品が自宅に届く。フィッツコーポレーション取締役の宗末健太郎氏は「近年は新型コロナウイルス感染症流行の影響を受けてテレワークも広がり、自宅でリラックスする時間が増えた。そこで、外出先でも自宅でも手軽に香りを楽しめるよう、香水だけでなく髪や体に使用できるオイルの2タイプを用意した」と話す。
love passport milaは、フィッツコーポレーションが2003年から手掛けるフレグランスブランド「LOVE PASSPORT(ラブ パスポート)」の新ラインと位置付けられている。22年7月20日に行われた発表会で、筆者もフレグランスのパーソナライズを体験した。香りに関する7つの質問に答え、レザーケースの色を5色から1つ選ぶ(所要時間は1、2分程度)。
発表会終了後、パーソナライズしてもらった香水を受け取った。トップノート(付けてから10~30分で現れる香り)がタンジェリン・ベイローズなどのかんきつ系、ヒートノート(同30分~1時間)がローズ・フローラルクリーンのフローラル系、ラストノート(同2~3時間)がウッディ・ムスクのウッド系で構成されたもの。ヘアオイルはトップノートがレモン・ユーカリなどのかんきつ系、ヒートノートがバーベナ・ゼラニウムのフローラル系、ラストノートがローズ・カシスだった。
時間の都合もあり、今回の体験はmilaのパーソナライズの簡易版とのことだったが、しつこくなく清潔感のある香りが好きな筆者の好みをしっかりとらえていると感じた。また、普段から香水を使用するほうではあるが、これまでは好きな香りを選ぶだけだったのが、milaの提案を受け、季節や気分によって香りを変える、あるいは自分だけの好きな香りを極めてみるのもいいと思えた。
コロナ禍での売り上げの落ち込みが決め手
Spartyとしては、他社との協業は初となる。最初の取り組みにあえてオフラインでの体験が重要な香水を選んだ理由を、Spartyの深山陽介代表は「香りのニーズが高いと感じたため」だと話す。
Spartyは18年から月額制パーソナライズヘアケアの「MEDULLA(メデュラ)」を提供している。22年2月時点の累計会員は50万人を突破し、今なお成長を続けている。「約4年事業を展開してきて、ヘアケアでは商品を選ぶ際の香りに対する優先順位が高いことが分かった。日本の香水市場の規模は大きくはないが、香水を使ったことがない人も香りへのニーズが高く、香水には含まれない香りの派生市場をとりにいけるのではないかと考えた」(深山氏)と経緯を話す。
調査会社のグローバルインフォメーションによれば、フレーバーおよびフレグランスの市場規模は19年に281億9310万米ドル(約3兆7619億円)だった。21年から27年にかけては4.7%のCAGR(年平均成長率)となり、27年には359億1430万米ドル(約4兆7922億円)に達すると予測している。また富士経済の調べによると、日本のフレグランス市場は21年が382億円、22年は392億円になる見込みで、やはり成長市場だ。香水のほかにもシャンプー、ヘアオイルなどのヘアケア用品をはじめ、ハンドソープやボディーソープ、洗濯洗剤、柔軟剤、ボディークリームやハンドクリームなど商品分野は幅広い。
深山代表は香り関連の事業を検討する中で宗末氏に出会い、目指す方向やビジョンの方向性が一致したため、20年の5月ごろには協業の話がまとまったという。「これまで、一般的な香水売り場の商品数は200SKU(Stock Keeping Unit、商品の最小管理単位)もあるほど品数が多く、自分に最適な香りを選ぶのは大変だと感じるお客様もいたと思うが、当社ではリテールビジネスが順調だったため、そちらに舵(かじ)を切る決心がつかなかった。しかし、コロナ禍によって都心型の店舗のほとんどが休業し、20年の売り上げは19年比で半分くらいに落ちてしまった。それが引き金となって覚悟が決まり、Spartyさんと組むことにした」と宗末氏も経緯を明かした。
milaの強みは「サービス」であること
フィッツコーポレーションの21年の調査(15~69歳の男女2400人を対象)によると、「自分の好みに合った香水を見つけることは難しい」と考えている人は40%、「新たに見つけたい」と思っている人は50%いるという。宗末氏によると香水利用者には、初心者であるエントリー層と、柔軟剤などの機能で香りを楽しむ副次層、香水が大好きな高感度層の3つの層がおり、milaはエントリー層と副次層の間の、20~30代の女性をメインターゲットにしているという。この層は香水を買ったことはあるけれど自分で2個目を選べないために香水を日常的に使っていない、あるいは専門店で接客されることに苦手意識があり、ネット上で手軽に香りを見つけたいと考えているとしている。
香水には昔から専門店の調香師に好みの香りや香りのイメージなどを事細かに伝えて調香してもらうオーダーメードの手法がある。しかし、オーダーメードは対人でのやりとりがあるうえに高価になりやすく、ハードルが高いと感じる人も多い。また、1度香水を作ってしまえばそこで取引が完結してしまうため、顧客と長い関係性を保つのが難しいという面もある。その点milaは、商品ではなくサービスである点に強みがある。カウンセリングのような質問項目への月次回答で、オーダーメードのようにパーソナライズされるので、回数を重ねれば顧客に寄り添う香りの提供が可能になる。つまり継続的な関係が築きやすい。
今後は香水以外もパーソナライズ
love passport milaが目指すのは、動いたときや去り際にさりげなく残る程度に香るフレグランスを、顧客の使用シーンに合わせて提案していくことだ。企画・運営に携わったSpartyの西田将之氏は「まずはブランド認知を上げていきたい。そしてゆくゆくは、ディフューザーやクリームなど、ラインアップを増やしていきたい」と展望を語った。
深山氏は今後の目標について、「Spartyの会社全体としては、パーソナライズを世の中に広めていきたいという思いがある」と語る。世の中には数多くの商品があふれているため自分だけの力で自分に合った商品を探すのは無謀だ。これに対し、「今回の香水をテストケースに、その人にパーソナライズされた商品を、様々な企業と協業して、数多く生み出したい」と意気込んでいる。