大手シューズメーカーのアシックス商事と、靴業界とは関係ないオアシスライフスタイルグループ(東京・港)が、市場で類を見ない「かかとが踏める革靴」を開発した。テレワークやオフィスカジュアルが浸透する中、履き心地や使い勝手の良い商品で、革靴を敬遠する若年層を中心にアプローチする。

かかとが踏める「ボーダレス本革シューズ」。コンセプトは「革靴を超える革靴」。価格は1万4080円(税込み)
かかとが踏める「ボーダレス本革シューズ」。コンセプトは「革靴を超える革靴」。価格は1万4080円(税込み)

 作業着をベースとしたカジュアルスーツのブランド「WORKWEAR SUIT」(以下、WWS)などを手がけるオアシスライフスタイルグループは、新たに靴ブランド「WORKWEAR SHOES(ワークウェアシューズ)」を立ち上げた。その第1弾として、“かかとが踏める”本革ビジネスシューズ「ボーダレス本革シューズ」を発売。アシックス商事が展開するブランド「texcy luxe(テクシーリュクス)」と共同で開発した。2022年8月3日にMakuakeで先行販売を開始し、8月22日時点で応援購入額は900万円を超えている。

 プロジェクト発起人のオアシスライフスタイルグループの関谷有三社長は、「新型コロナウイルス禍でリモートワークが普及し、スマートカジュアルなスタイルが浸透している。革靴を履くシーンや基準が自由になりつつある中、革靴は『堅苦しい』『窮屈』『時代遅れ』といったイメージがある。そこで今の時代に合った革靴を作れば需要はあると、確信めいたものがあった」と開発経緯を語る。

オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長。「革靴を履いて嫌なのは新幹線と飛行機。窮屈なときに靴ひもをほどいたり、革靴を脱いだ上に足を乗せたりするのが苦痛だった。デスクワークも長時間履いたままだと足も疲れるし、蒸れて臭いの原因にもなる。こういったポイントをかかとが踏めることで解消していきたい」と語る
オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長。「革靴を履いて嫌なのは新幹線と飛行機。窮屈なときに靴ひもをほどいたり、革靴を脱いだ上に足を乗せたりするのが苦痛だった。デスクワークも長時間履いたままだと足も疲れるし、蒸れて臭いの原因にもなる。こういったポイントをかかとが踏めることで解消していきたい」と語る

 コロナ禍でテレワークが普及したとはいえ、何かと革靴を履く機会は多い。大事な会食や会合、冠婚葬祭、ドレスコードが必要な場所など、革靴の着用を求められるシーンは訪れる。しかし普段履いてない革靴を履くと、「靴擦れを起こしやすい」「履きづらい」「蒸れや臭いが気になる」「歩きづらい」などストレスを感じることも。オフィスカジュアルが進み、革靴を履く機会が減ったからこそ、革靴を履いたときにネガティブな印象を持つ人も多いはずだ。

 こうした後ろ向きなイメージを払拭しようと開発されたのがボーダレス本革シューズだ。かかとが踏めて脱ぎやすいことに加え、靴ベラを使わなくても履ける伸縮性や、臭いを抑える独自の消臭繊維などにより、革靴の使い勝手を向上させた。

靴のかかと部分には足を後ろから支えるため「ヒールカウンター」というパーツが入っている。他にも中敷には消臭繊維「モフ(MOFF)」と抗菌繊維を採用した
靴のかかと部分には足を後ろから支えるため「ヒールカウンター」というパーツが入っている。他にも中敷には消臭繊維「モフ(MOFF)」と抗菌繊維を採用した

 斬新なアイデアが目を引くボーダレス本革シューズだが、アシックス商事を口説き落とすまでには苦労したそうだ。関谷氏は「共同開発をお願いしたアシックス商事さんには、『かかとを踏む靴を作るなんて、シューズメーカーとしてご法度だ』と即答でNGを食らいまして、そこから半年以上ダメと言われ続け……。なんとか説得して『かかとが踏める革靴』の商品化が実現しました」と当時の状況を振り返る。

 ではアシックス商事は、なぜ共同開発に踏み切ったのか。大手靴メーカーにとって、かかとを踏んで靴が傷みやすくなるのは避けたいはずだが……。同社 販売創造本部 担当取締役の荒巻真央氏が語る。

 「もちろんシューズメーカーとして、かかとを踏むのは推奨していないが、革靴を履いているときにリラックスを求めるユーザーの声を感じることも多い。ビジネスパーソンをサポートするという意味では、当社とも親和性がある。開発中は若干『仕方ないな』と思いながらも、斬新なアイデアをしっかりと具現化しようと努めた」と荒巻氏。商品のコンセプトとしては、テレワークや車内での移動中など、あくまでも長時間座っているシーンでかかとが踏めることを想定。歩行時には、かかとを踏まずに使用することを推奨する形で折り合いがついた。

 商品化には1年以上の歳月をかけたそうだ。こだわったポイントは、かかとを踏んでも靴にダメージがかかりづらいようにすること。そのため、かかと芯を使用しない作りにして、かかとを踏んでも靴の形状が戻りやすい仕様にした。またかかとを踏んだ状態でも、靴を脱げにくくするため、かかと部分のカットラインの角度を微調整。加えて履き脱ぎがしやすいよう、サイドゴア(ゴムを織り込んだ伸縮性の高い布)を使用した。こうした細かいポイントに何度も試行錯誤を重ねた。

アシックス商事 販売創造本部 担当取締役の荒巻真央氏(画面左)と、オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長(画面右)
アシックス商事 販売創造本部 担当取締役の荒巻真央氏(画面左)と、オアシスライフスタイルグループの関谷有三社長(画面右)
色は黒と茶の2種類、サイズは24.5~27センチまでを用意。“かかとが踏める本革のビジネスシューズ”は、移動中やテレワーク中など座っているときに、革靴の窮屈さから解放されるように設計された
色は黒と茶の2種類、サイズは24.5~27センチまでを用意。“かかとが踏める本革のビジネスシューズ”は、移動中やテレワーク中など座っているときに、革靴の窮屈さから解放されるように設計された

この記事は会員限定(無料)です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
5
この記事をいいね!する