日産自動車は2022年7月20日にミドルサイズのSUV(多目的スポーツ車)「エクストレイル」のフルモデルチェンジを発表し、7月25日に発売した。価格は319万8800円(税込み)からとなる。
日産の中核的存在のSUV
日産が2000年に発売した初代エクストレイルは、「4人が快適で楽しい、200万円の使える四駆」をコンセプトに、身近なSUVとして支持された。現在では日産のエンジン付き乗用SUVとしては国内最上位モデルであり、同社のラインアップの中核的存在となっている。
22年7月25日に発売された最新モデルは4代目。第2世代「e-POWER」と「VCターボ」、そして4WD車には電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」を搭載し、価格は319万8800円(税込み)からとなっている。日産によれば、発売2週間で受注は1万2000台を突破(8月7日時点で1万2213台受注)したという。
新型では、初代と2代目が掲げたテーマ「TOUGH GEAR(タフギア)」を継承しつつ、先進機能を積極的に取り入れた3代目の「Advanced TECH(アドバンスドテック)」に加え、「上質さ」を追究した。つまり歴代モデルの魅力を受け継ぎつつ、より質感の高いSUVを目指したのがこの4代目だ。
「上質さ」に注力した背景には、急成長するSUVカテゴリーの変化がある。トヨタ自動車「ハリアー」や「RAV4」、マツダ「CX-5」、スバル「フォレスター」、三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」などに代表される、幅広い層に支持されるミドルサイズや、トヨタ「ランドクルーザー」や「ランドクルーザープラド」、マツダ「CX-8」といったラージSUVのユーザー層は、約10年で40代以上のユーザーが10%ほど上昇。現在はミドルサイズとラージサイズのSUVオーナー全体の75%を占めるという。さらにSUV市場の拡大や機能向上などで、ミドルサイズおよびラージサイズSUVの価格帯が10年前は200万円台中心だったのに対し、350万円以上のモデルが過半数を占めるようになり、車格の上級化が進んでいる。
全長はやや短くし取り回しを向上
新型エクストレイルの外観は、伝統の力強いスタイルを受け継いだ。フロントマスクは、ブラック化された日産のアイコン「Vモーショングリル」を備え、その両側にシャープな印象の2段式ヘッドライトを装着。フロントバンパーもサイドの膨らみを強調することで、SUVらしい大型タイヤの存在を意識させている。
ボディースタイルも直線的ながら、抑揚のあるフェンダーで筋肉質なデザインを印象付けており、ひと目でSUVと分かるスタイルだ。一方で歴代モデルが受け継いできたタフさばかりが強調されることのないよう、プロテクションパーツやメッキモールなどの装飾を工夫し、質感の高さを演出している。ボディーサイズは、全幅が20ミリメートル広くなり、1840ミリメートルに拡大。全長は30ミリメートル短い4660ミリメートル、最小回転半径は200ミリメートル小さい5400ミリメートルとなり、取り回しを良くした。
インテリアの質感も高められた。2種類の表示モードが選択できるデジタルメーター「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」と、「NissanConnect ナビゲーションシステム」を搭載したセンターディスプレーを備え、どちらも大画面の12.3インチ。ドライバーが視線を落とさずに車両情報が確認できるヘッドアップディスプレーも10.8インチと大型だ。シフトレバーは電気式で先進性を感じさせる。後席の快適性とラゲッジスペースの利便性を高める、可動量約260ミリメートルのロングスライド機構のある2列目の後席や、最大7人の乗車が可能な3列シート付きモデルも継承。新たにアウトドアシーンで便利な1500Wコンセントをラゲッジスペースに装備するなど、SUVとしての使い勝手も追求している。
新e-POWERシステムは初搭載
新型最大の目玉は、パワフルな新e-POWERの標準装備化と新電動4WDのe-4ORCEの採用だ。海外ではエンジン車を発売済みながら日本への市場投入が遅れたのは、日本でSUVに求められる高い環境性能と力強い走りを両立させた新e-POWERシステムを搭載するためである。エクストレイルのe-POWER搭載車は、日本市場が世界初展開となる。その特徴は、第2世代となるe-POWERに新開発の1.5リットルVCターボエンジンを組み合わせたところ。新エンジンは1.5リットル3気筒エンジンで、通常は固定である圧縮比を可変制御することで、ターボエンジンの力強さと高圧縮比エンジンの低燃費を両立させている。燃費(WLTCモード値)は2WDの1リットルあたり19.7キロメートルに対し、4WDのe-4ORCEは18.3キロメートル(どちらも2列シートの場合)という。
新4WDのe-4ORCEは、前後モーターを搭載する電動4WDに、走行中のシャシー制御技術を加えたもの。電気自動車(EV)「アリア」への搭載が発表されていたが、市場投入はエクストレイルが先行することになった。前後モーターと4輪ブレーキを統合制御することで、4輪の駆動力を最適化。雪道や山道の走破性を高めるだけでなく、よりドライバーが運転しやすくなる機能でもあり、日常運転の楽しさが高まり、全ての乗員の快適性も向上するという。もちろん、日産の先進安全機能も充実。駐車支援機能「プロパイロットパーキング」や、高速道路の単一車線での運転支援技術「プロパイロット」なども備えている。
日本ではe-POWERを主役にする
星野朝子執行役副社長は、「上質化を追究することで、年齢層が上がった既存エクストレイルユーザーの気持ちを捉えるだけでなく、e-POWERやe-4ORCEが生む走りの良さと快適性を武器に、若年層を含め、幅広い層に訴求していきたい」と話す。
海外仕様に設定されるエンジン車については、「日産の電動化戦略は、日本から進めていく。今後の商品計画については話すことはできないが、新型エクストレイルではe-POWERを主役とする」(星野副社長)とし、現時点ではエンジン車を導入する可能性が低いことを示唆した。「ノート」に象徴されるように、既にe-POWER搭載車を充実させており、パワートレインのe-POWER集約化=電動化戦略を日本から進めていく方針なのだ。
新型エクストレイルに関してはまず、4WDのe-4OURE車の販売が先行し、前輪駆動車は22年秋からの販売となる。電動化という新たな武器を手に入れたエクストレイルだが、従来型のエントリーモデル価格が約250万円だったことを考えると、大幅な価格上昇となるため、ユーザー層の高齢化が進みそうだ。
新型エクストレイルの発表前日となる7月19日には、日産のコンパクトサイズのSUV「キックス」のマイナーチェンジモデルを発売。キックスもe-POWERを進化させたうえで待望の4WDを追加するなど、性能を向上させている。エクストレイルが取りこぼしそうな顧客は、改良型のキックスでカバーしていくことも検討していると考えられる。改良型キックスは、タイ生産から国内生産に移管され、供給態勢もより強化されている。
とはいえアウトドアを楽しむユーザーを中心に、積載性を重視する人たちも多いはずだ。価格の安い他社のエンジン搭載SUVに顧客が流れることもあり得るだろう。e-POWERはエンジンで発電のみを行い、走行は全て電気モーターで行うため、その走り味はEV同様だ。これまでのe-POWERの課題であった発電エンジンの性能向上も、新VCターボの搭載でクリア。さらにe-4ORCEがいち早く搭載される点も大きな魅力であり、この点を考慮すればコストパフォーマンスはいい。初動が良かっただけに、価格アップに対して市場がどのような反応を見せるのかが注目される。
(撮影/大音安弘)