eスポーツタイトルの中でも、今、空前の人気を誇るのが米ライアットゲームズの『VALORANT(ヴァロラント)』だ。プレーヤーだけでなく観戦者人口も増やしており、2022年6月の日本代表決定戦「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2」では、2日間で2万6000人超を動員した。人気の理由をライアットゲームズ日本法人の藤本恭史社長/CEO(最高経営責任者)に聞いた。

さいたまスーパーアリーナで2022年6月25~26日に開催された「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2」Playoff Finals。2日間で2万6000人超を動員した
さいたまスーパーアリーナで2022年6月25~26日に開催された「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2」Playoff Finals。2日間で2万6000人超を動員した
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 『VALORANT』は 米ライアットゲームズのタクティカルシューティングゲーム。2020年6月のリリース以来、急速に人気を高めていたが、先の世界大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage1—Masters Reykjavík」で日本のプロeスポーツチーム「ZETA DIVISION」が3位入賞を果たし、ゲームの人気がeスポーツ観戦にも飛び火した。

 2022年6月25~26日にはさいたまスーパーアリーナを会場に、次の世界大会「同Stage2」の日本代表決定戦となる「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2」Playoff Finalsを開催。2000~6000円の有料チケットを販売する有観客オフライン大会としたところ、2日間で2万6000人超を動員した。また、2日間の動画配信も、有観客オフライン大会として最高レベルの同時接続数50万人を記録した。

 18年からライアットゲームズ日本法人でパブリッシング統括ディレクターを務め、22年2月に同社社長/CEOに就任した藤本氏によると、『VALORANT』の人気は日本市場だけの事象ではない。だが、米ライアットゲームズが先行して手掛けていたマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)の経験を踏まえても、日本市場が北米、欧州と肩を並べるほどに盛り上がっているのはこれまでになかったことだという。

動画配信でチーム戦の面白さが広まる

 これまでの日本市場では、バトルロイヤル系のFPS(ファースト・パーソン・シューター)やTPS(サード・パーソン・シューター)といったシューティングゲームの人気が高く、『VALORANT』のようなタクティカルシューティングゲームは、なじみが薄いジャンルだった。そうした土壌で、『VALORANT』が人気を集めたのは、「新しい体験をプレーヤーに提供できたから」だと藤本氏は話す。

 「『VALORANT』には独特の世界観があり、これまでのタクティカルシューティングゲームとはアートスタイルも違います。本格的なタクティカルシューティングゲームでありながら、魔法のようなアビリティ(能力)や効果もあることが、多くの人に支持されるようになった理由の1つではないでしょうか」と分析する。

 加えて動画配信の影響も挙げた。「動画配信者の方々にゲームの面白さを伝えていただけたのは大きいと思います。1人でプレーしているところを配信するのではなく、他の配信者や視聴者などを巻き込んでチーム戦の楽しさを共有していただけました」(藤本氏)

 『VALORANT』のプレーヤー人口が増えるにつれ、eスポーツの競技として同タイトルに興味を持つユーザーも増えていったという。ライアットゲームズでは、eスポーツを単独の事業としてではなく、ゲームの楽しさを増幅する要素と位置付ける。『VALORANT』をプレーするユーザーが目指す先として、最高峰のスキル、最高峰のチーム力、最高峰のシーンを示す役割だ。これだけの観客動員数を確保しても、「eスポーツによる収益よりも、最高峰のプレーを見せるための場所としてeスポーツが存在している」という姿勢を崩さない。

 また、プレーヤーの裾野を広げるため、草の根のコミュニティーがより活発にeスポーツを楽しめるサポートもしている。コミュニティーが開催するトーナメントベースの大会に協力したり、ノベルティーを提供したりすることも。ゲーム大会を開催したい人のための申請窓口も用意しており、誰でも簡単に大会運営が行える体制を築いた。

インフルエンサーと連携し、視聴者を拡大

 さらに近年めざましいのが、観戦者として『VALORANT』を楽しむファンの増加だ。ゲームやeスポーツは近年、動画配信のコンテンツとしても人気が高まっているものの、そのけん引役となっているのはストリーマー(配信者)やインフルエンサー。ストリーマーらのプレー動画など、ゲームタイトルに関連する動画全体の配信視聴者数は伸びても、公式によるeスポーツ大会の動画配信が視聴者数を稼げないケースは少なくない。そんな中、『VALORANT』の大会は、インフルエンサーによる配信を超えるほどの同時接続者数を記録している。

 その要因について、藤本氏は「『VALORANT』をいかにして多くの人に知ってもらうかということで試行錯誤してきた」と話す。インフルエンサーと連携して観戦者の裾野を広げるため、ウォッチパーティー(仲間同士で動画を一緒に楽しむこと)ができるようにミラー配信の許諾を始めたのもその1つだ。「これは『LoL』では、やっていなかったこと」と藤本氏。「eスポーツイベントの配信視聴数を公式のみでカウントするのではなく、ミラー配信などを含めた総数、つまりどこで見たかではなく、どれだけの人に見てもらえたのかで捉えるように切り替えたのは大きい」と語る。その結果、インフルエンサーの動画をきっかけにゲームとしての『VALORANT』の面白さを知ったユーザーを、『VALORANT』のeスポーツ大会観戦にまで誘導できたという。

多くの観客を動員し、ゲーム初のエンターテインメントとしての存在感を示し始めた『VALORANT』の大会
多くの観客を動員し、ゲーム初のエンターテインメントとしての存在感を示し始めた『VALORANT』の大会
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 許諾が必要とはいえ、ミラー配信を公式が認めたことで、インフルエンサーにとっては配信できるコンテンツが増え、それによってチャンネル視聴者数、登録者数が伸ばせる。ライアットゲームズにとっても、『VALORANT』や「VALORANT Champions Tour」などの大会に興味を持ってくれた人を増やせた。まさに、ウィンウィンの関係としてお互いの成長につながったというわけだ。

『LoL』のノウハウを展開

 人気の高まりは喜ばしいことだが、これを一過性に終わらせず、維持、拡大するにはどうするのか。藤本氏に尋ねると、「ゲームとしては、新しいエージェント(キャラクター)やマスク(スキン)を増やし、多様性を持たせていきます。eスポーツについては、大きな会場でのオフラインイベントを継続的に行い、プレーヤーや観客に常に新しいものや驚きを提供していきたいですね」と述べた。

 その点では、ライアットゲームズの看板タイトルである『LoL』で培ったノウハウも生かせそうだ。『LoL』は、『VALORANT』ほどの急激な伸びは見せていないが、リリースから10年以上たった今でも、順調に成長を続けている。ユーザーにプレーや視聴を続けてもらうための施策は、『VALORANT』にも展開していくという。

 また、先に述べたように、ライアットゲームズにとってeスポーツは収益を確保する事業というよりも最高峰のシーンを見せる場という側面が強いため、今後も継続的に大会やイベントを実施していく方針だ。一方で、チームや大会の運営者には「それぞれに経済性を持ち、ビジネスとして確立するように踏み込んでもらいたい」との考えを藤本氏は示した。

 IPホルダーであるライアットゲームズとチーム、大会運営者などが協力しながら行う継続的な大会運営は、ゲームの競技人口の拡大に欠かせない。そして、競技人口の拡大は、競技シーンにおいてより才能を持った選手が登場する土壌となる。既存の選手を超えるような才能を持つ選手が登場すれば、世代交代が起き、競技シーンのクオリティーやポテンシャルも上がっていく。その結果、競技シーンのクオリティーが上がると、プレーヤーとして競技を見る人だけでなく、観戦だけを目的にゲームと接する層も増えてくる。これはサッカーや野球といったスポーツにも共通。この段階になってやっとeスポーツの大会は、ライブエンターテインメントとして、スポーツビジネスとしての完成形に近づくといえる。ライアットゲームズが持続的に大規模なeスポーツ大会を開催していくには、今後そこを目指す必要はあるだろう。

ライアットゲームズ日本法人の藤本恭史CEO
ライアットゲームズ日本法人の藤本恭史CEO
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 最後に、藤本氏にライアットゲームズとして日本独自の施策をどの程度展開できるのかについても聞いてみた。藤本氏は「ライアットゲームズには、本社、支社という考えが薄く、ローカルのマーケットはローカルにしか分からないという考えがあります。日本のことは日本人に任せるべきだとされているので、日本での活動はライアットゲームズ日本法人が主導的に進めていきます。私自身、“ハイパーローカル”はすごく重要なことだと思っていますから、日本のプレーヤーが日本でプレーしてよかったと思えるようにしていきたいです」と話した。引き続き地域性を生かした取り組みをしていく方針だ。

 eスポーツはZ世代へのリーチがしやすいといわれているが、その消費行動やライフスタイルには日本ローカルの事情もある。そうした日本の事情に合わせた活動をすることが、日本でのeスポーツビジネスの発展につながると見込みを立てる。『VALORANT』の好調、それがけん引するeスポーツイベントの潮流は、ゲーム発のエンターテインメントに新たな波が訪れる予兆とも言えるだろう。今後のeスポーツビジネスの動向の1つとして目が離せない。

(写真/岡安学)