米メタ日本法人のFacebook Japan(東京・港)は2022年7月27日~28日に、インターネットの仮想空間「メタバース」を推進するイベントを日本で初開催した。21年に米フェイスブックが社名をメタに変更するなど、次世代SNSのプラットフォームとしてメタバースの注目が集まっている。イベントに登壇した、Facebook Japanの味澤将宏社長は「日本が一丸となってメタバースをつくること」を強調し、官民が連携する重要性を訴えた。一方で、安全面に関して慎重な見方もあり、ルールづくりについても議論が交わされた。
Facebook Japanが開催したメタバースを推進するビジネスイベント「METAVERSE EXPO JAPAN 2022」では、メタバース事業にいち早く参入した大日本印刷(DNP)やNTTドコモ、ソフトバンクといった約30の企業・団体が参加し、エンタメや教育、医療・福祉などの分野で新しいプロジェクトを公開した。
特に注目されたのがメタの動きだ。同社は21年10月、社名をフェイスブックからメタに変更し、メタバース事業に注力すると発表した。22年7月27日に行われたイベント開会のあいさつでは、メタ日本法人 Facebook Japanの味澤将宏社長が登壇。イベントの趣旨や、メタバース事業の取り組みを紹介した。
メタバース事業を拡大するうえで、メタが掲げるミッションは「コミュニティーづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現すること」だ。投資するサービスがSNSからメタバースへと変わったものの、ミッションは17年の発表から変わらない。味澤氏は、「メタバースは、物理的な距離や属性を超え、人と人が新たな方向でつながり、新しいコミュニティーに参加できる。そのような進化であると捉えている」と説明する。平面的だったSNSのコミュニケーションが、メタバースによって距離などの物理的な制約を超え、より立体的になっていく可能性を示唆している。
現時点のメタバースは、ゲームやエンターテインメント分野のコンテンツが先行し、それを支えるインフラやインターフェースの整備が追い付いていないという。将来的に働き方、教育、医療・福祉といったさまざまな分野で活用され、消費者の生活に根付くには、少なくとも10~15年かかるといわれている。メタのミッションを実現するには1社だけの力では難しかった。
今回のイベントの趣旨に「共創」を掲げているのは、IP(キャラクターなどの知的財産)に強みを持つ日本が一丸となってメタバース市場をつくることを強調するためだ。日本のインフラを支える印刷や情報通信などをけん引する企業に加え、仮想空間の課題を検証する関連省庁も巻き込んだ。
メタバースが発展していくには、「あらゆる人々の権利が保護されるよう、テクノロジーを構築する必要がある」と味澤氏は言う。そのための原則として、以下の4つを挙げる。インターネットのようなオープンプラットフォームである点とプライバシー保護を強調した内容となっている。
- 「経済的機会」 利用者の選択肢を広げ、競争を促すことで、1社が独占するのではなく、オープンなデジタル経済を創る。
- 「プライバシー」 データのプライバシーを保護するテクノロジーを構築し、人々に自身のデータに関する透明性を与え、自ら管理できるようにする。
- 「安全性と公正性」 オンライン上での安全性を確保し、不快なコンテンツに遭遇した際の対策機能などを提供する。
- 「公平性と包括性」 テクノロジーが包括的に、誰でもアクセス可能な方法で設計されていること。
今後、メタは今まで培ってきた研究実績を基に、ソフトウエアやハードウエアを提供していく。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)に加え、ARをさらに進化させた「MR(複合現実)」はメタバースの実現に向けて重要なステップになると味澤氏は見る。「『Presence Platform』というメタバースの開発に役立つSDK(開発キット)をリリースし、これを使用することでバーチャルの世界に現実のオブジェクトを置くことができる。また、手のジェスチャーや声による操作も可能になるだろう」(味澤氏)
味澤氏は、「今は『メタバース元年』と呼ばれ、各社の取り組みが始まったばかり。産官学が集まり、みんなでつくることが非常に大事になる。今回のイベントをそのきっかけにしたい」と語った。
この記事は会員限定(無料)です。