タイガー魔法瓶(大阪府門真市)は2022年7月21日、炊飯器「炊きたて」シリーズのフラッグシップモデル「土鍋圧力IH ジャー炊飯器<炊きたて>土鍋ご泡火(ほうび)炊き」を発売した。炊きたてと保温の両方のおいしさにこだわった新製品、「圧力IHジャー炊飯器<炊きたて>JPV-A100」「同 JPV-A180」も8月21日に発売する。米の消費量が減少傾向にある中、23年に創業100周年を控える同社は、事業の柱である炊飯器本来の機能向上を強化する。

2022年7月21日に発売されたタイガー魔法瓶「炊きたて」シリーズの「土鍋圧力IHジャー炊飯器<炊きたて>土鍋ご泡火(ほうび)炊き JPL-S100」。オープン価格で公式オンラインショップの販売価格は14万800円(税込み)。カラーはスレートブラックとミストホワイトの2色
2022年7月21日に発売されたタイガー魔法瓶「炊きたて」シリーズの「土鍋圧力IHジャー炊飯器<炊きたて>土鍋ご泡火(ほうび)炊き JPL-S100」。オープン価格で公式オンラインショップの販売価格は14万800円(税込み)。カラーはスレートブラックとミストホワイトの2色

100周年記念モデルは最上位機種

 タイガー魔法瓶の炊飯器「炊きたて」シリーズから、100周年記念モデル「土鍋ご泡火炊き JPL-S100」が発売された。同シリーズは1970年の初代モデル発売以来、2022年4月末までの累計生産台数が7200万台を超えている。

 シリーズの中でも炊飯器市場に土鍋ブームを引き起こしたのが、内釜に本物の土鍋を採用した06年発売の「炊きたて JKF-A100」だ。その後19年には「土鍋ご泡火炊き」第1号となる「JPG-S100」を発売。本物の⼟鍋で実現できた⾼い蓄熱性と遠⾚効果によって鍋底外側を約280度の⾼温にし、⽢みとうま味を引き出した。さらに20年には“<炊きたて>史上、最高傑作”として誕生したJPL-A型を発売し、20年度の家電アワードで4冠を達成。21年度も合わせるとJPL型として累計8冠を達成している。今回の新商品、JPL-S100はその進化版といえる最上位機種だ。

本土鍋の内鍋は土鍋、急須の生産で有名な三重県四日市市の伝統工芸品「四日市萬古焼」を使用。強度は一般の市販の土鍋と比べて約2倍以上あるという
本土鍋の内鍋は土鍋、急須の生産で有名な三重県四日市市の伝統工芸品「四日市萬古焼」を使用。強度は一般の市販の土鍋と比べて約2倍以上あるという

 JPL-S100の大きな特徴は、最高温度約280度でごはんの甘みをより深く引き出す「土鍋ご泡火炊き」に新技術「連続ノンストップ加熱」機能を採用したことだ。これまでの技術では、加熱するとかまどのように吹きこぼれが起きてしまうため、大火力での加熱時間を短くする必要があった。

 JPL-S100では内蓋の構造に着目し、炊飯時の蒸らしや保温性能を上げるため、20年モデルの「JPL-A100」から内蓋に搭載している独自開発の「ハリつやポンプ」を進化させた。ハリつやポンプはこれまで外気を取り込み、高温蒸らし時に発生する過剰な蒸気を放出して水分をコントロールしていた。これを進化させ、蓋内部に風を送ることで、泡に息を吹きかける要領で吹きこぼれの制御を可能にした。結果、内鍋の中は約106 度(1.25 気圧)の状態を今までの約1.5倍長く維持できるようになり、甘みは約17%、粘りは約3%アップ。「本物のかまどで炊いたごはん」に一歩近づいた。

 JPL-S100の直販価格は14万800円(税込み、以下同)で、高級炊飯器の中でも最上位機種にカテゴライズされる。同社の高級炊飯器はJKF-A100以降、安定した需要を保ってきており、同社が100周年記念モデルであるJPL-S100に期待を寄せているのがうかがえる。

手入れが必要なのは内鍋と内蓋のみ。「マグネット式着脱内ぶた」は部品の取り外しが簡単で、セットする際は近づけて手を離せばすっと本体に装着できる。食器洗い乾燥機にも対応している
手入れが必要なのは内鍋と内蓋のみ。「マグネット式着脱内ぶた」は部品の取り外しが簡単で、セットする際は近づけて手を離せばすっと本体に装着できる。食器洗い乾燥機にも対応している

JPL型の技術で5万前後のモデルも

 8月21日に発売する新製品「圧力IHジャー炊飯器<炊きたて>JPV-A100」「同JPV-A180」は、フラッグシップモデルの「JPL型」で培った技術を生かし、炊きたてごはんと保温ごはんの両方のおいしさにこだわった炊飯器だ。共働き世帯が増加し、炊飯器でごはんを保温する世帯が増えたことを受け、時間がたってもごはんのおいしさを損なわないよう工夫した。フラッグシップモデルである土鍋圧力IHジャー炊飯器の温度コントロールを参考に、新たな炊飯プログラム「旨み粒立ち炊飯プログラム」を開発。「少量旨火(うまび)炊き」メニューや「冷凍ご飯」メニューなど、毎日の手間が省ける機能も追加した。オープン価格で店頭予想価格はJPV-A100が4万6800円前後、JPV-A180が4万9800円前後。中価格帯モデルの中でも普及モデルの1つとなりそうだ。

保温時にも蒸気センサーを活用し、昇温過程での温度を従来よりも下げることによって、ごはんから出る余分な蒸気を抑える。「旨み粒立ち炊飯プログラム」で炊いた弾力あるごはんの粒の輪郭を保ったまま、ベタつきを抑えてふっくら保温できるようになったという
保温時にも蒸気センサーを活用し、昇温過程での温度を従来よりも下げることによって、ごはんから出る余分な蒸気を抑える。「旨み粒立ち炊飯プログラム」で炊いた弾力あるごはんの粒の輪郭を保ったまま、ベタつきを抑えてふっくら保温できるようになったという
「圧力IHジャー炊飯器<炊きたて>JPV-A100型」の内鍋には、遠赤5層土鍋蓄熱コート釜を採用。新たにヒートカットパウダーをコートしたことで、さらに蓄熱性が向上したという
「圧力IHジャー炊飯器<炊きたて>JPV-A100型」の内鍋には、遠赤5層土鍋蓄熱コート釜を採用。新たにヒートカットパウダーをコートしたことで、さらに蓄熱性が向上したという

炊飯器市場は価格帯の二極化進む

 近年、炊飯器市場の価格帯は、高価格と低価格の二極化が進んでいる。タイガーは発表会で4万円以上の高価格帯と3万円未満の低価格帯の出荷数がそれぞれ比率を伸ばしており、21年には高価格帯の出荷数が全体の半数以上を占めたことを示した。

 経済産業省「生産動態統計」によれば、年間出荷実績と売り上げの平均単価では、国内の炊飯器市場は13年の消費増税や15年のインバウンド特需など社会情勢によって多少数字が上下しているものの、ここ10年の出荷実績は年間550万~600万台前後で安定。20年には新型コロナウイルス感染症緊急経済対策として国から給付された「特別定額給付金」による巣ごもり特需の恩恵を受け堅調に推移していたが、翌21年は約500万台だったという。ただ売り上げの平均単価は過去3年間で21年が最も高く、高機能・高単価の商品に対する消費者ニーズの高まりが推察される。

 こうした背景を受け、JPL-S100は14万円超え、JPV-A100、JPV-A180は5万円を切る価格に設定されたと考えられる。

土鍋ご泡火炊き JPL-S100は木製のおひつが“呼吸”するように空気・水分を上手にコントロールして、おいしく保温をしていることを手本にした「おひつ保温」を採用
土鍋ご泡火炊き JPL-S100は木製のおひつが“呼吸”するように空気・水分を上手にコントロールして、おいしく保温をしていることを手本にした「おひつ保温」を採用

多機能化路線から本来の機能向上へ

 高級炊飯器市場は、ごはんのおいしさにつながる内釜の工夫や炊飯プログラムへのこだわりだけでなく、米の銘柄に応じた炊き分け機能やIoT機能の搭載など多機能化が進んでいる。しかし同社炊飯器ブランドマネージャーの岡本正範氏は、炊飯器の本質的機能が求められるようになってきていると話す。

 「自社調査により、保温性・手入れのしやすさへの需要が急速に高まっていることが分かった。これは夫婦共働きによる家事に費やす時間の減少や、コロナ禍での巣ごもり需要の高まりが大きく影響しているかと思う。これまで、炊飯器開発は多機能化というコンセプトで進んできた側面があるが、消費者ニーズとしては炊飯器、家電としての本質を満たすことが重視されているのではないかと考えている」(岡本氏)

 JPL型では消費者の声を受け、木製のおひつを手本にした「おひつ保温」で保温性能を向上させた。普段の手入れを内釜と内蓋の2点のみにし、内蓋は食洗機対応にすることでお手入れの簡単さにもこだわっている。

タイガー魔法瓶炊飯器ブランドマネージャーの岡本氏
タイガー魔法瓶炊飯器ブランドマネージャーの岡本氏

長年の熱制御技術で逆風をチャンスに

 一方で、炊飯器市場を取り巻く米市場・環境は年々厳しさを増している。1960年と2020年を比べると、米の生産量は1285万トンから814万トンまで減少。1世帯当たりの購入数量も13年に比べて15%近く減少しており(※農林水産省調べ)、自宅での米食文化の縮小がうかがえる。

 そんな逆風の中、タイガーは23年の100周年に先立ち、20年から3カ年計画を打ち立てて「炊きたて」シリーズの強化に注力。フラッグシップモデルからボリュームゾーンまでモデルチェンジを進めており、大幅に出荷業績を伸ばしている。岡本氏は「炊飯器の売り上げが当社の中でも大きな構成を占めている。17年からの3年間は伸び悩みがあったが、3カ年計画により業績は大きく伸長している状況。NEXT100に向けて、さらなる伸長を図っていきたい」と意気込む。

 岡本氏はまた、自社の炊飯器事業について「業界のリーディングカンパニーと自負している。その上で、新型コロナなど急激に環境が変化する中で、食文化、食環境、家族の団らんを守ることを肝に銘じて事業アプローチを行っていきたい」と話す。

 各メーカーが炊飯技術や機能を改良しており、ブランドイメージだけでは消費者にアピールするのが難しい局面を迎えている。魔法瓶事業からスタートし、積み重ねてきた熱制御技術の優位性を強みに、タイガーは競争激しい高級炊飯器市場での勝ち抜けを狙う。

(画像提供/タイガー魔法瓶)

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