2025年に国内15兆円の市場規模に――。スポーツの「成長産業化」をめざすスポーツ庁が22年3月にまとめた「第3期スポーツ基本計画」。10年前に約5.5兆円だった国内スポーツ産業の市場規模を3倍に拡大する計画だ。コロナ禍で停滞した状況にテコ入れしようと、室伏広治スポーツ庁長官が力を入れているのが「スポーツによる地域創生」だ。その第1弾として6月に北海道北見市を訪れ、カーリングを中心に進むまちづくりを視察。そこで「手応えと発見があった」と話した室伏長官は、何を見たのか。

室伏広治スポーツ庁長官(中央)とロコ・ソラーレの選手ら(北見市のアドヴィックス常呂カーリングホール)
室伏広治スポーツ庁長官(中央)とロコ・ソラーレの選手ら(北見市のアドヴィックス常呂カーリングホール)

カーリングで活用されるスポーツテックの厚みに感心

 2022年6月7日、快晴でも風がまだ冷たい北見市にある「アルゴグラフィックス北見カーリングホール」を、スポーツ庁の室伏長官が訪れた。北海道の中でも特に「寒い街」といわれる北見市は、冬季五輪で人気となったカーリングを基軸にしたまちづくりを進めている。22年の北京冬季五輪で銀メダルを獲得した女子カーリングチーム「ロコ・ソラーレ」の本拠地も、ここ北見市にある。

アルゴグラフィックス北見カーリングホール(北見市)
アルゴグラフィックス北見カーリングホール(北見市)

 ホールの中には幅5メートル、奥行き約46メートルのカーリング用シート(氷を張ったゲームエリア)が3面並ぶ。そのうち1面には様々なセンサーやレーザー計測装置が設置されており、天井や周囲には20台以上の高精度カメラが据え付けられている。

 これらを使ってカーリングでの競技力を強化する研究を進めているのが、地元の北見工業大学にある「冬季スポーツ科学研究推進センター」だ。選手が投げ入れるストーンの位置を捉えるほか、モーションキャプチャー機能で選手の動きを把握し、足圧分布測定で投げ入れるときの選手の重心のかかり方などを計測する。ストーンの滑りを調整するため氷の表面をこするスイーピングでブラシの動きを上下、左右、ねじれ方向の3軸で測定する装置もある。

 足圧測定の装置に関心を示しながら、室伏長官は「ストーンを投げ入れる動作を続けていると、体の左右で筋肉のつき方に偏りが出ませんか」「そんなときは、どんなトレーニングで修正するんですか」などの質問を繰り出す。北見工大・冬季スポーツ科学研究推進センター長の桝井文人教授は「アスリートならではの視点で鋭い質問が出てくるのは、さすがですね」と受け答えていた。

北見工大の桝井文人教授(中央)からカーリングのシミュレーション技術について説明を受ける室伏長官
北見工大の桝井文人教授(中央)からカーリングのシミュレーション技術について説明を受ける室伏長官

 長官が感銘を受けていたのが、カーリングの試合情報を記録・分析するデジタルスコアブック「iCE」と、その活用法だ。iCEは、試合ごとにチームや個人のショット率を解析・演算し、過去の試合のデータに基づいて試合局面に応じた次の作戦を提案できる。

 こうしたデータを基にAI(人工知能)で作戦を考える「デジタルカーリング」の研究・開発も進んでいる。デジタルカーリングには北海道大学と電気通信大学が参画し、ゲーム理論を応用しているという。氷の表面は、状態が時間の経過とともに変化する。さらに投げ方や方向、体重のかけ方もストーンの動きに影響を及ぼす。そうした“不確定要素”を、AI同士で対戦させるシミュレーションによって学習データとして蓄積し、戦術面で「どのような手を打つのが最善か」を人間が判断できるようにしている。

 「従来なら経験的にしか判断できなかったが、AI技術や画像解析を活用しながら新たな戦略や戦術を発見できるのは、確実に競技力の強化・向上につながりますね」。室伏長官も感心しきりだった。

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