ドライビングシミュレーターを製造・販売するアイロック(名古屋市)が2022年1月に発表した「DRiVe-X Code_F」が好調だ。コンパクトでスタイリッシュなデザインが特徴で、GINZA SIXでの試乗・販売も好評だという。開発者でプロレーサーの古賀琢麻社長に人気の理由を聞いた。

 アイロック(名古屋市)は、VR(仮想現実)技術などを活用し、自動車の加減速、コーナー走行時の車体の傾き、体に伝わる路面の感触など、実車さながらの挙動や走行感が得られるドライビングシミュレーター「T3R」で知られる会社。T3Rは現在、自動車の開発や警察署などで行われる安全運転教習でも活用されている。

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ドライビングシミュレーターを製造・販売するアイロックが2022年1月に発表した「DRiVe-X Code_F」
ドライビングシミュレーターを製造・販売するアイロックが2022年1月に発表した「DRiVe-X Code_F」

 T3Rが主に業務用で使われているのに対し、同社が2022年1月に発表した「DRiVe-X Code_F」は、一般販売を想定したモデルだ。自宅に設置しやすいコンパクトでスタイリッシュなデザイン、ステアリングなどのパーツやカラーリングを自分好みに変更できるカスタマイズ性、198万円(税別)からというシミュレーターとしては手ごろな価格で話題を呼んでいる。22年5月にはGINZA SIXに期間限定ショップをオープンし、製品の試乗や販売を行った。その後もフロアを移しながら展示を続け、8月からは同施設内のショップ「ランバン コレクション」内にスペースを設けている。販売はハイペースで好調だという。

 開発者の古賀琢麻社長は、米国で人気のモータースポーツ、NASCAR (ナスカー)にフル参戦しているプロレーサーとして知られており、開発にはそのドライビング経験を生かした。開発の狙い、人気の理由、リアルなドライビングシミュレーターの目指すところについて聞いた。

米国で人気のモータースポーツNASCARのレーシングドライバー(JERRY PITTS /CKB TOYOTA RACING所属)である、アイロックの古賀琢麻社長
米国で人気のモータースポーツNASCARのレーシングドライバー(JERRY PITTS /CKB TOYOTA RACING所属)である、アイロックの古賀琢麻社長

スタートは「かっこいい」シミュレーターを自分が欲しかったから

──ドライビングシミュレーターとしてはすでに「T3R」があり、自動車メーカーの開発現場や、交通安全教育などの現場で活用されていますが、今回、ラインアップを追加する形で「DRiVe-X Code_F」を開発した理由は。

コンパクトでスタイリッシュなデザイン。ディスプレーかVRゴーグルでグラフィックスを見ながら運転する
コンパクトでスタイリッシュなデザイン。ディスプレーかVRゴーグルでグラフィックスを見ながら運転する

古賀琢麻氏(以下、古賀) T3Rは、もともと自分がレースに向けたトレーニングをするために実車に近いものとして作りました。ただ、シミュレーターなので、車体は普通車も選べる。走行感がリアルということもあり、そこから自動車開発や安全運転の啓発など、実車でできないことをシミュレートするものに発展しています。

 活用範囲は現在もどんどん広がっています。例えば自動運転技術の開発、事故の検証、さらには自動運転が普及したときの道路や信号をどうするかといった社会インフラの検証にもシミュレーターが必要です。ただ、そうなっていくとレースをすることから次第にずれていってしまう。

 新型コロナウイルス禍で家から出られないとき、トレーニング用に自宅にもシミュレーターを置きたいと思いました。ところが妻は「置きたくない」と言う(笑)。じゃあ、自宅に置きやすい、コンパクトでスタイリッシュなものを作ろうと。

 ただ、これは自分で使うだけでなく、販売する上でも重要な要素だと考えていました。車好き、運転好きならこのシミュレーターを欲しいという人はいるはず。シミュレーターは使っていない時間の方が圧倒的に長いでしょう? その使っていないときに、車好きが眺めてかっこいいと思えるものを作りたいと考えたんです。

ペダルなどのパーツや色はカスタマイズできる
ペダルなどのパーツや色はカスタマイズできる

 ファッションに例えると分かりやすいかもしれません。ハイブランドの衣服より、ユニクロの方が着やすいということはあると思います。しかし、ブランドものは所有して着ることに満足感がある。これまでのドライビングシミュレーションには足りなかった、所有することの喜びが欲しかった。

 それに、どんな家でもそうでしょうが、自宅に置くものは絶対的に家族の了解が得られないと駄目でしょう。畳1畳分のスペースに設置でき、家の内装とマッチするものが必要です。なるべくシンプルにして、シミュレーターの下を掃除しやすいように下部フレームにも気を配っています。

下部フレームはXの形で、ネーミングの由来になっている。掃除もしやすい
下部フレームはXの形で、ネーミングの由来になっている。掃除もしやすい

GINZA SIXの客層とマッチ

──T3Rではなく、DRiVe-Xという新しいブランドにした理由は。

古賀 DRiVe-Xはよりドライビングを楽しめるように作った趣味性の高いものなので、T3Rとブランドを分けました。T3Rはもともとここまでのビジネスになると思っていなくて、車にステッカーを貼りやすいとか、アルファベットの間に数字を挟むと中国で特許を取りやすいだろうとか、そういった理由で付けた名前で、大した意味はなかった。

 それに対して、DRiVe-Xはドライブをする、ドライブを楽しむためのもので、一般の人にも名前が分かりやすい方がいい。Xはシミュレーターの下のフレームがXの形をしていることにもちなんでいます。今回、GINZA SIXなどで販売したCode-Fはその最初のモデルで、もっとコンパクトなものなど、今後はモデルも増やしていく予定です。いずれは段ボール箱に入れて送って、ぱっと開いたらすぐ使えるようにしたい。例えばCode-Fも、フレームやカウルを短くすればもっとコンパクトにできる。将来的にはそうした派生モデルの展開ができるようにしたいですね。

──大きくて高価なドライビングシミュレーターをau PAYマーケットやコストコオンラインで販売したこと、GINZA SIXに出店したことは意外に感じました。

古賀 自分の米国での経験から言うと、コストコならこれを置いても大きいと思われにくいんです。それにコストコに来る人は、アメリカンカルチャーが好きだったりします。GINZA SIXは、以前、とある百貨店の貴賓会に呼ばれてT3Rを出品したところ、反応がとても良かった。その流れで、GINZA SIXから声をかけてもらいました。

22年5月に期間限定で出店した、GINZA SIXの店舗。予約して試乗できる。8月からは同施設内のショップ「ランバン コレクション」内にスペースを設けている
22年5月に期間限定で出店した、GINZA SIXの店舗。予約して試乗できる。22年7月からはフロアを移して営業している

 198万円からという価格は一般には高く思えるかもしれませんが、5年ローンなら月々5万円ぐらいの支払いになります。例えば実車でサーキット走行の練習をしようと思ったら、現地での宿泊代、サーキットに支払うお金などで1日5万円ではとても足りません。それでいて走行中にスピンして車を壊せば終わりだし、雨が降って満足に走れないかもしれない。ドライビングが好きな人からすると、さほど高くない。

 加えて、GINZA SIXは客層に富裕層が多いのでしょう。試乗に来たお客さんに「5万円じゃあ、銀座では1杯しか飲めないよ」なんて言われたこともあります(笑)。

──GINZA SIXの顧客層とマッチングが良かったということですね。どれぐらい売れていますか。

古賀 GINZA SIXの店舗は22年7月5日までの期間限定だったんですが、好評なのでフロアを(4階から5階へ)移して10月2日まで延長することになりました。年間で最低でも150台は販売したいと考えていましたが、かなりのハイペースで売れています。日本だけでなく、これから米国をはじめ世界中で販売しようとしています。とにかくグローバルにいきたい。

──売れそうな国や地域は?

古賀 米国と中国ですね。車が好きな人の割合が、ほかに比べて圧倒的に高いんです。

設置に必要なスペースは1畳ほど
設置に必要なスペースは1畳ほど

実車の代わりに運転を楽しむものになる

──購買層について教えてください。

古賀 やはり車好きです。40代、50代が多いけれど、20代もいます。意外なのが、法人も多いこと。法人のリースが組めるので、車のディーラーのほか、一般企業が福利厚生目的で導入するケースもあります。会社の休憩室にビリヤード台や卓球台を置く企業がありますが、同じような感じでドライビングシミュレーターを置いて、社員に楽しんでもらっているようです。

──eスポーツへの展開はあり得ますか。

古賀 僕としてはeスポーツはあまり見ていません。そもそも高額な賞金が出るといった大きなeスポーツマーケットがあるのは米国ぐらいで、日本はマーケットが違う。

 僕たちがやっていることは、最近の言葉でいえばメタバースに近い。メタバースでは、その空間で会話するといったアナログなコミュニケーションが大事です。CO2の排出規制で、自動車メーカーでもテストコースでの実車走行が制限されてしまう時代です。自動運転時代が来ると、車における運転の要素は小さくなっていくでしょう。そうしたときに、これまでの“車を操る楽しさ”はどうなっていくのだろうと思います。そのときバーチャル空間が選択肢の1つになる可能性はあります。純粋に自動車の運転を楽しみたい人がいるなら、バーチャルでも運転を楽しめるアナログ感を出したい。そこが我々の得意とするところです。

運転する古賀社長。動作音は静か
運転する古賀社長。動作音は静か

──シミュレーターなら、税金はかからないし、保険も要らないし、排ガスも出ません。これまで楽しみで運転していた人も、DRiVe-Xのようなドライビングシミュレーターに興味を持つかもしれませんね。

古賀 車の楽しみ方が変わってきています。銀座に出店して分かったことですが、例えば、「(年齢的にも)もう車を飛ばせないから、代わりにバーチャルで飛ばしている」という60代の人がいました。そうした人たちはもともと車の運転が好きで、その延長線上でドライビングシミュレーターでの運転を楽しんでいる。もう、これだけリアルなら実車でなくていいじゃないかと、ゲームを経ずにシミュレーターの世界にいきなり入ってくる人もいるんです。

──車を操る楽しさがDRiVe-Xで、バーチャルで味わえると。

古賀 車に乗ること、運転することがストレス解消になる人もいます。目的地がなくても車を運転する、運転することが目的の人もいるでしょう。まさにドライブです。今の車の進化は、自動運転やモビリティーをシェアするといった方向に行っている。それなら、運転する楽しみはシミュレーターで、バーチャルでできれば面白いんじゃないかと考えているんです。

 とはいえ、こういうことは作ってから見えてきたことで、社会課題がどうかとかは実のところ、1ミリも考えていません。単純にかっこいいものが欲しくて作りました。最初にT3Rを作った頃は、バーチャルの運転をリアルにしていくことが大事でした。今はもう、リアルなのは当たり前だと思っています。だからかっこよさを大事にして作ったんです。そこは我々にとって、ちょっとした進化ですね。

(写真提供/古賀琢麻、写真/湯浅英夫)

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