超短距離の移動手段、いわゆる“ラストワンマイルモビリティー”として注目の電動キックボード。Segway-Ninebot(セグウェイ―ナインボット、中国・北京)が、道路交通法の一部改正案により新たに分類された「特定小型原動機付自転車」に対応した「D-AIR(ディ・エア)」をMakuakeでの先行予約販売後、一般発売する。
電動キックボード市場6兆円規模とも
都市部での距離2~3キロメートル程度の移動手段として注目される電動キックボード。欧米、中国などではすでにシェアリングサービスを中心に普及が始まり、世界市場は2025年までに約400億~500億ドル(約5兆5383億~6兆9197億円)規模に達すると予想されている(「The Promise and Pitfalls of E-Scooter Sharing」Boston Consulting Group 2019)。
しかし普及と同時に歩行者や車との事故も増加し、乗り捨てのシェアリングサービスでは街中での無秩序な駐車が増えるなどの問題も発生。走行場所や制限速度などの規制導入やルールづくりも始まっている(「諸外国の電動キックボード関連規制 シンガポール、米国・カリフォルニア州、ドイツ、フランス、オーストリアの例」日本貿易振興機構2019)。
日本で「特定小型原動機付自転車」に
日本では22年4月に道路交通法の一部改正案が衆議院で可決され(施行日未定)、新たな区分である「特定小型原動機付自転車」の条件を満たす電動キックボードのみが走行できるようになる(現時点では原動機付自転車扱いのため運転免許証、ヘルメットの着用などが必要)。
「特定小型原動機付自転車」と既存の原動機付自転車(いわゆる原付バイクなど含む)と異なる点は以下のとおり。
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(1)免許証は不要(年齢制限は16歳以上)
(2)ヘルメットの着用は努力義務
(3)車道走行が「原則」
(4)最高速度は時速20キロメートル
(5)必要な保安部品が装備されている(保安基準は検討中で最終決定されていない)
こうした中、電動二輪車や自動運転ロボットなどスマートモビリティーを多く手がける中国メーカー、Segway-Ninebot(セグウェイ―ナインボット)が、この道路交通法一部改正案に対応する「D-AIR」を発売する。一般販売予定価格は11万9000円(税込み)。バックミラー・前後ウインカー、電子ベル(警音器)、ブレーキ、フロントライト、ブレーキ制動灯などを装備したのが特徴だ。個人ユーザー向けに年間1万~2万台の販売を目標としている。
22年6月7日から7月末まで応援購入サイトMakuakeで先行予約販売を実施。開始1週間で応援購入金額1300万円を超え、7月28日時点で2700万円を突破するなど一般販売を前に、注目度は高い。
短距離移動、通勤用に便利な装備満載
D-AIRのバッテリーは約5時間でフル充電でき、最長距離約28キロメートルの走行が可能。ハンドル近くには速度やバッテリー残量が分かるディスプレーが付き、専用アプリに接続することで航続可能距離、バッテリー残量、走行ルートなどを把握できる。
前後輪にドラムブレーキ(ドラムと呼ばれる円筒形状の部品にブレーキシューを押し付けることで制動・停車)、後輪にはE-ABS(アンチロック・ブレーキシステム)電子ブレーキを装備。実際に試乗で軽くぬれた路面を走行したが、少し急なブレーキをかけても確実に制動されていることを実感できた。
タイヤサイズは10インチ。今回の試乗では段差を走ることはなかったが、メーカーによると5センチ程度の段差なら楽に越せるという。走り出しは電動機のないキックボードと同じ要領で2~3回片足で蹴り出して前進し、ボードに両足を乗せ右ハンドルの近くにあるアクセルのレバーを回すと加速する。レバーを離すと自然に減速していく仕組みで、カーブ走行ではカーブに入る前に減速し、カーブを出る前にアクセルを使い前進することでスムーズに曲がれるが、この操作に関しては慣れが必要かもしれない。実際に車道を走行する場合、事前に交通量の少ないルートで練習してから使用したほうがよさそうだ。ブレーキは自転車同様のレバーで操作するが、アクセルを離せば電動機のないキックボード同様に減速する。完全に停車するときはブレーキを使ったほうがいいだろう。
本体重量は17.3キログラムで同社の電動キックボード「J-MAX」(22キログラム)に比べ軽量化が進み、折りたたんで片輪を転がすことで室内や駐輪場への移動もしやすい。また、座って走行できるキックスクーターシートや収納付きのシートもオプションで用意されているので、ラストワンマイルモビリティーとしてだけでなく、片道距離10キロメートル程度の通勤用としても活用できるだろう。
現在、シェアリングと個人所有を合わせた日本国内の電動キックボードの流通量は約2万台と推定されている(「令和3年度産業経済研究委託事業[国内外の電動キックボードに関する調査]報告書」社会システム 2022)。セグウェイ―ナインボットのAPACシニア セールススーパーバイザーMonica Gao氏は「日本における電動キックボードの流通量は今後拡大していくだろう。セグウェイ―ナインボットでは日本において個人所有者向けのD-AIRに加え、シェアリングサービス向けの商品も展開していきたいと考えている」と意欲を示した。
国内メーカーを含め、今後の法整備などに合わせて利用できる、電動キックボード・サービス、製品の拡大が期待される。
(撮影/星野知大)