子供の足の成長を予測し、適切なタイミングでシューズの買い替え時期を知らせてくれる――。そんなアシックスのサービス「ASICS STEPNOTE」の利用者が想定の1.4倍の伸びを見せる。2022年7月には、親の足のサイズから子供の成長を予測する機能を追加。裏にはどんなアルゴリズムが使用されているのか。

子供の足の成長を予測し、適切な買い替えタイミングを通知するのがアシックスのウェブサービス「ステップノート」だ
子供の足の成長を予測し、適切な買い替えタイミングを通知するのがアシックスのウェブサービス「ASICS STEPNOTE」だ

 子供のシューズはいつ替えたらいいのか、そろそろ大人用を選ぶべきか――。そんな悩みを持つ家庭は多い。子供の足はあっという間に成長する。合わない靴を履いていると、子供の柔らかい足は変形し、歩き方が変わってしまう危険がある。にもかかわらず、シューズがぼろぼろに変形したり、専門店でアドバイスをもらったりするしかタイミングを知る方法がなかった。

 アシックスが2021年12月にリリースした「ASICS STEPNOTE」(以下、ステップノート)は、子供の足の成長を予測するウェブアプリケーションだ。アシックスの会員サービス「OneASICS(ワンアシックス)」に登録すると、無料で使用できる。22年6月末時点で、会員数が1万4000を突破。「21年の東京五輪の影響もあり、想定の約1.4倍を超えるスピードで会員数が伸びている」と、同社キッズプロダクト部の椎名一平部長は明かす。

身長、体重から足の成長を予測

 人気の秘密は、足の成長を予測する機能にある。ステップノートは、子供の「足のサイズ」「身長」「体重」を入力すると、独自のアルゴリズムで16歳までの足の成長を予測。「好きなスポーツ」「好きな色」といった好みのデータも加えることで、最適な靴や買い替えのタイミングを分析、提案する。そこからアシックスのEC(電子商取引)サイトに飛び、そのまま購入できる仕組みだ。

ステップノートをスマホで利用したイメージ。各種データを入力すると、グラフで足の成長予測が確認できる
ステップノートをスマホで利用したイメージ。各種データを入力すると、グラフで足の成長予測が確認できる
アシックスキッズプロダクト部の部長である椎名一平氏
アシックスキッズプロダクト部の椎名一平部長

 実際に利用してみた。アシックスのいう「足のサイズ」とは、かかとから人差し指の中心までの「足長」、親指と小指の付け根の一番太いところを結んだ周囲の長さ「足囲」の2カ所を指す。メジャーで2カ所を計測し、「サッカー」「ブラック」と入力すると、サッカーに向く4290円(税込み)の「LAZERBEAM SG」を“おすすめ”された。

足のサイズや好きなスポーツ、色を入力すると、おすすめの3足が表示される。写真は「LAZERBEAM SG」
足のサイズや好きなスポーツ、色を入力すると、おすすめの3足が表示される。写真中央は「LAZERBEAM SG」

20年以上集めたデータを活用、乗り換えを防ぐ

 予測の基となるのは、アシックススポーツ工学研究所が20年以上前から集めてきた足のデータ。片足を1と数え、左右合わせて計18万足以上あるという。このデータをユーザーに付加価値として提供できないかと考え、20年初頭から企画をスタートした。「各シューズメーカーの開発技術が向上し、20年前と比べて商品での差別化が難しくなった。これまで溜めてきた計測データの利用を考え、『予測する』という発想に至った」(椎名氏)

 ステップノートの狙いは、競合製品への乗り換えを防ぐことだ。「これまで0~3歳、3~7歳、7歳~のように子供の年齢によってカテゴリーを分けていたが、 カテゴリーが変わるとブランドスイッチが起きやすい。成長予測や推奨サービスを利用し、世代を超えて長くアシックスを使用してもらいたい」と明かす。

 そもそも、成長を予測する独自アルゴリズムとはどのようなものか。椎名氏によると「ある年齢の子供の複数データをとった『横断データ』と、1人の子供を0~16歳まで追っていく『縦断データ』を掛け合わせ、精度の高い計算をしている」。横断データだけでおおよその傾向は分かるが、平均的な数値から離れた子供の場合は予測精度が落ちてしまう。縦断データで補うことで、大外れを防いでいるのだ。その成長予測の精度は「90%以上」を誇る。

 22年7月8日には、成長予測とシューズ推奨機能の精度をさらに高めるため、ステップノートにいくつかの新機能も追加した。例えば、「親の足長データを入力することで予測精度を高める」「足の成長が収束した子供に大人用のシューズを推奨する」などの機能だ。親と子のデータを結びつけたり、成長収束を予測したりする取り組みは、どちらも珍しい。

 追加した親の足長データは、子供の最終到達サイズの参考にするために利用する。既存データから、親子の足形状の相関関係に深いつながりがあることが分かっているためだ。「現在のUI(ユーザーインターフェース)では、両親いずれかのデータしか入力できない。両方のデータがあれば予測精度がさらに向上し、将来的には両親どちらが子供の足に影響を与えるのかまで分析できるようになる」(椎名氏)

 親にとっても、子供の成長を実感できるメリットは大きい。「身長であれば家の柱に印を付けて成長を可視化するなど、子育てをするうえで親にとってうれしい瞬間がある。その中の1つとして足の成長を感じてもらいたい」

家族の足型を比較できる機能もあり、一緒に楽しめるUIにしている
家族の足型を比較できる機能もあり、一緒に楽しめるUIにしている

 大人用シューズへの移行を提案する機能は、家族の悩みを減らす施策の1つ。一般的に、22~25センチメートルは子供用と大人用のサイズレンジが重なり、大人用に移行するかどうかの判断が難しい。年齢や足囲率(足囲/足長×100)などから成長が収束しそうと判定できれば、判断基準の目安とすることができる。判定に関する技術は特許出願中で、瞬時にパーソナライズする価値に磨きをかけていくという。

潜在的な会員数は、まだまだ伸びしろあり

 成長予測機能は着々と進化させているが、一方で課題もある。それが使い勝手だ。ステップノートはウェブアプリケーションのため、足の計測日や買い替え日を認識するには、サイトにログインするか配信メールを読むしかない。また、成長期を終え、ステップノートを卒業すると、それまでの計測データの使い道が無くなってしまう。「スマホ専用アプリを開発して通知機能を付けたり、既存のデータと(オンラインストアの)『ワンアシックス』を連係したりといった案などを、開発状況を見ながら検討していく」(椎名氏)

 ステップノートは、22年度中に2万人超の登録者を目指しているが、「伸びしろはまだまだ大きい」と椎名氏は見る。現在の会員構成を調べると、もともとのワンアシックス会員と新規会員が7000人ずつ。想定以上に新規の割合が多かったのだ。「店舗で足のサイズを計測した人に登録を促したり、LINE公式アカウントのトーク画面にサイトへの誘導動線を設けたりしたことが、新規獲得に大きく貢献した。ワンアシックスの国内会員数が約100万いることを考えると、既存会員の利用者がもっと増えるはずだ」

 ステップノート利用者の増加は、EC売り上げにも貢献すると期待もかける。現状、子供用シューズは実店舗で親子一緒に選ぶケースが大半で、国内キッズカテゴリーのEC比率は10%弱。国内全体の15%を大きく下回る。キッズカテゴリーをいかに15%に近づけるのかが課題で、その改善にステップノートが寄与すると見ている。

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 これまで定性的に判断するしかなかった子供シューズの買い替え時期が、ステップノートを利用することで定量的にも判断できるようになるのは、大きな進化だ。現在は、足の分析データを基に、大量生産されたシューズの中から最も適した製品を推奨する形を取るが、さらに開発や予測技術が高まれば、パーソナライズされたプロダクトをどうつくるか、という発想に切り替わっていくだろう。

(写真提供/アシックス)

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