健康志向や環境意識の高まりにより、プラントベース(植物由来)フード市場は近年、急速に拡大している。プラントベースフードをメニュー化する大手コーヒーチェーンもここ1~2年で急増。手軽でカジュアルな食事を求める顧客層に、プラントフードは根付くのか。

スターバックスのプラントベース商品の1つ、抹茶とアーモンドミルクを組み合わせたケーキ「アーモンドミルクの抹茶ムース」は店内476円、テークアウト485円(税込み、以下同)。プラントベースを意識させない濃厚なコクがある
スターバックスのプラントベース商品の1つ、抹茶とアーモンドミルクを組み合わせたケーキ「アーモンドミルクの抹茶ムース」は店内485円、テークアウト476円(税込み、以下同)。プラントベースを意識させない濃厚なコクがある

ドトール、タリーズ、コメダにスタバも

 プラントベースフードをメニュー化する大手コーヒーチェーンが増えている。全国に1071店舗(2022年6月末)を展開するドトール・日レスホールディングスの「ドトールコーヒーショップ」は20年9月に「全粒粉サンド 大豆ミート ~和風トマトのソース~」を発売。同商品が好評だったことから21年9月にリニューアル。同時に、豆乳クリームを使った“まめホイップ”をトッピングした乳由来原料不使用のドリンク4種類も発売(現在は終売)。

ドトールコーヒーショップの「全粒粉サンド 大豆ミート~柚子胡椒(ゆずこしょう)豆乳ソース~」は店内 360円、テークアウト 354円。大豆ミートのハンバーグは香味オイルで肉の味わいをアップさせ、全粒粉入りパンでサンド(大豆ミートハンバーグには、卵や乳成分が含まれているため植物性由来100%ではない)
ドトールコーヒーショップの「全粒粉サンド 大豆ミート~柚子胡椒(ゆずこしょう)豆乳ソース~」は店内 360円、テークアウト 354円。大豆ミートのハンバーグは香味オイルで肉の味わいをアップさせ、全粒粉入りパンでサンド(大豆ミートハンバーグには、卵や乳成分が含まれているため植物性由来100%ではない)

 全国に760店舗(2022年7月現在、以下同)を展開しているタリーズコーヒージャパン(東京・新宿)は、21年3月2日からプラントベースフードメニューの販売を開始。

タリーズコーヒージャパンの「大豆ミートのタコス風ピタサンド」は店内455円(北海道・九州・沖縄除く)。クミンが香るピタパンに、ごろっとした大豆ミートや彩り鮮やかな野菜をはさみ、スパイシーに仕上げている。ほかに「野菜仕立てのラザニアプレート」、「畑の恵みのタコライス」といったプラントベースメニューも展開
タリーズコーヒージャパンの「大豆ミートのタコス風ピタサンド」は店内455円(北海道・九州・沖縄除く)。クミンが香るピタパンに、ごろっとした大豆ミートや彩り鮮やかな野菜をはさみ、スパイシーに仕上げている。ほかに「野菜仕立てのラザニアプレート」、「畑の恵みのタコライス」といったプラントベースメニューも展開

 全国にフルサービス型の喫茶店「コメダ珈琲店」を917店舗(22年6月末時点)展開しているコメダホールディングスは、20年7月15日に全メニューをプラントベースで提供する新業態ブランド「KOMEDA is □(以下、コメダイズ)」を東京・東銀座にオープン。

20年7月15日、東銀座にオープンしたコメダ珈琲の新業態店「KOMEDA is□(コメダイズ)」は全メニューをプラントベースで提供 (撮影/桑原恵美子)
20年7月15日、東銀座にオープンしたコメダ珈琲の新業態店「KOMEDA is□(コメダイズ)」は全メニューをプラントベースで提供 (撮影/桑原恵美子)

 そして全国に1704店舗(22年3月末時点)のスターバックス コーヒー ジャパン(東京・品川、以下スターバックス)も22年6月1日から、プラントベースメニューを拡充。人気商品「シュガードーナツ」をプラントベースにリニューアルしたほか、「スピナッチコーン&ソイパティ イングリッシュマフィン」など4品のプラントベースフード商品の販売を開始した。

スターバックスのプラントベース商品の1つ「スピナッチコーン&ソイパティ イングリッシュマフィン」は店内440円、テークアウト432円。全粒粉入りイングリッシュマフィンに、大豆を使用したソイパティ、スピナッチコーンクリーム、メープルマスタードを挟んでいる。イングリッシュマフィンは乳製品や卵を使っていないのに外はさっくり、中はもっちりふわふわに仕上がっていて驚く
スターバックスのプラントベース商品の1つ「スピナッチコーン&ソイパティ イングリッシュマフィン」は店内440円、テークアウト432円。全粒粉入りイングリッシュマフィンに、大豆を使用したソイパティ、スピナッチコーンクリーム、メープルマスタードを挟んでいる。イングリッシュマフィンは乳製品や卵を使っていないのに外はさっくり、中はもっちりふわふわに仕上がっていて驚く
プラントベース商品「トマト&ソイボール 石窯フィローネ」は店内510円、テークアウト501円。イタリアのパン「フィローネ」にソイボール、ポモドーロソース、プラントベースチーズ(乳不使用)を挟んでいる
プラントベース商品「トマト&ソイボール 石窯フィローネ」は店内510円、テークアウト501円。イタリアのパン「フィローネ」にソイボール、ポモドーロソース、プラントベースチーズ(乳不使用)を挟んでいる

 プラントベースフードへの注目が高まる中、大手コーヒーチェーンも続々とラインアップ強化を進めているわけだが、その戦略はプラントベースフードの広がりと共に徐々に変化を見せている。目立つのが、プラントベースであることを強く押し出しすぎず、大前提として「おいしい」という点を大切にしていること。プラントベースは商品の特長の一つであると考えている。

 例えば、スターバックスは店頭にもメニュー表にもプラントベースフードであるという大々的な告知をしておらず、フードケース内のプライスカードの右上や、商品容器に小さなアイコンと短い説明文がプリントされているだけ。一見すると、プラントベースフード商品であることに気付いてほしくないのかという印象を受けるほどだ。なぜスターバックスは、あえて訴求していないのか。

売り上げ担保の発想がない

 「プラントベースフードであることをあえて告知していないのは、プラントベースという話題性だけで、認知を獲得する、購入につなげるという発想がないから」と語るのは、スターバックス コーヒー ジャパン商品本部フード部の森田一毅部長。

スターバックス コーヒー ジャパン商品本部 フード部の森田一毅部長
スターバックス コーヒー ジャパン商品本部 フード部の森田一毅部長

 理由はいくつかあるが、一つはプラントベースフードの認知や市場規模はまだ小さく、それ自体の価値はこれから育っていくものだと考えているから。

 「お客様の価値観が多様化している中で、プラントベースという側面だけで価値を成立させる商品だと、手に取る人が限られてしまう可能性が高い。プラントベースであることを訴求するよりも、多くの人に深く根差しているニーズ=おいしさを軸にする方針を重視。商品開発においてはおいしさを追求し、試作を繰り返した」(森田氏)

「プラントベース」で壁をつくらない

 全国一律に提供することには大きな意義があるにしても、採算がとれなければビジネスとして成立しないし、ビジネスとして持続可能でなければ、それを必要とする人のもとに届けられない。つまり「プラントベースフードを切実に必要としている層に長く、確実に商品を届けられる態勢をつくる」ことを重視した結果、逆説的だが、「プラントベースフードであることを強く押し出さない」売り方になったということになる。

 「プラントベースフードを選ぶ人とそうじゃない人の間に壁をつくらないコミュニケーションをとりたいと考えている。プラントベースであることに気づかず購入し、食べてみておいしかった商品が、たまたまプラントベースだったというシーンが理想的」(森田氏)という。

定番メニューとして人気の高い「シュガードーナツ」店内255円、テークアウト250円。プラントベースにリニューアルしても人気はそのままだ
定番メニューとして人気の高い「シュガードーナツ」店内255円、テークアウト250円。プラントベースにリニューアルしても人気はそのままだ

商品ストーリーのアングルを多様化

 同社がプラントベースフード商品を販売する最大の理由は、多様化するニーズへの対応であり、来店者の間口を広げること。多様化するニーズに寄り添うにしても、品ぞろえを増やして対応するアプローチには限界がある。そうした場合、これまでのビジネスでは最大公約数のゾーン、一番ビジネス規模が大きいゾーンに絞って商品をそろえるという方法が一般的だった。しかしその方法では、顧客一人ひとりに寄り添うことはできない。それはスターバックスが目指す企業価値に反するのだという。

 「スターバックスは、コーヒーとフードと共に過ごす空間に価値が生まれるようなストーリーをお客様と一緒に紡いでいけることを目指し、それを可能にする商品作りを目指している。それを前提に、多様化するお客様のニーズに応えるためには、『共感できるストーリーの切り口、アングルをどれだけつくれるか』ということが重要。異なる購買層につながる価値を、いかに通常の商品の設計の中に織り込んでいくか、メンバーと共に常に考えている」(森田氏)

商品に違う購買欲につながる価値を

 プラントベース商品に関しては、興味がある人が明確に識別でき、かつ興味がない人が気にならない程度の小さなアイコンと、「スターバックスのプラントベース商品は、主要原材料に動物性食材を使用していません」という必要最小限の説明を表示するにとどめている。

「プラントベース商品である」ことは、注意して見ないと気が付かない程度の必要最小限の表示にとどめている(撮影/桑原恵美⼦)
「プラントベース商品である」ことは、注意して見ないと気が付かない程度の必要最小限の表示にとどめている(撮影/桑原恵美⼦)

 一方で、興味がある人が同社公式サイトの「プラントベース商品について」というページを見ると、厳密かつ専門的な文言で「プラントベース」に対する同社の基準が示されている。

スターバックスが独自に定めた、同社のプラントベース商品の基準
スターバックスが独自に定めた、同社のプラントベース商品の基準

 商品自体ではプラントベースを意識させないようにしているのに対し、サイトでは「スターバックスのプラントベース商品は、主要原材料に動物性食材を使わず、植物性食材を使用しています」と明記したうえで、その主要原材料が商品を構成する食品添加物を含む2次原材料までを指していること、ただし、2次原材料までに含まれる食品添加物のうち、食品表示法上、表示の省略が可能な加工助剤、キャリーオーバーは主要原材料に含んでいないこと、動物性食材が肉、魚介類、卵、乳製品、はちみつを指すことなど、その取り組みの内容や設定している基準をかなり細やかに記している。

 この差は、「そもそも日本にプラントベースの公式の基準はまだ存在しない。だからこそ、プラントベース商品を必要とするお客様に透明性をもって伝えなければいけないと考え、お客様のニーズにちょうどいい深さの伝え方を考えた」結果だと森田氏は説明する。

全商品がプラントベースのコメダイズ

 「利用者に、商品がプラントベースであることを意識させない」――この戦略を、スターバックスとはある意味正反対のアプローチで行っているのが、コメダ珈琲店を展開するコメダホールディングスだ。同社が運営するコメダイズは、まだ全国で東銀座店1店舗のみだが、アルコールを含むドリンク、スイーツ、フード、全メニューがプラントベース。

 これまでにも姉妹店の「おかげ庵」では「おだんご」や「五平餅」などお米を使ったメニューを提供してきているが、コメダ珈琲店ではお米を使ったメニューを取り扱ってこなかった 。しかしコメダイズでは、米と水からできたライスジュレを使って食感を追求した「コメパンケーキ」を提供。夜メニューでは、有機ブドウを使用した赤・白やスパークリングの「ビオワイン」、醸造過程において動物由来の清澄剤を使わない100%プラントベースのビール、プラントベースのフードなども提供している。

コメダイズは全メニューがプラントベース(撮影/桑原恵美子)
コメダイズは全メニューがプラントベース(撮影/桑原恵美子)
コメダイズでは「ビオワイン」や100%プラントベースのビール、プラントベースのフードのセットも提供(撮影/桑原恵美子)
コメダイズでは「ビオワイン」や100%プラントベースのビール、プラントベースのフードのセットも提供(撮影/桑原恵美子)

 ただし、同店の目的はコメダ珈琲店がプラントベースに特化した店舗を始めたことを大々的に打ち出すことではない。むしろ店舗を訪れた客にメニューがプラントベースであるかどうかを意識させず、自然にプラントベースメニューを頼んでもらいたいと考えている。コメダホールディングス コーポレート コミュニケーション部の小野真菜氏は、同店を企画した意図として、「気軽に、くつろぎや食事を楽しむためにコメダイズに来て、何を飲食していただいても社会貢献につながる店にしたいと考えた」と話す。

コメダ珈琲の看板商品ともいえるシロノワールも、豆乳ベースのソフトクリームを使ったプラントベース。既存品と変わらない濃厚さがありつつ、食後のもたれ感が少なかった(撮影/桑原恵美子)
コメダ珈琲の看板商品ともいえるシロノワールも、豆乳ベースのソフトクリームを使ったプラントベース。既存品と変わらない濃厚さがありつつ、食後のもたれ感が少なかった(撮影/桑原恵美子)

 コメダ珈琲店がプラントベースメニューを始めたのは、肉食が環境に及ぼす影響について知ったことがきっかけ。「ただ、環境にいいからといって、毎日プラントベースの食事を摂ることは難しく、現実的ではない。そこで、週に1回、月に1回でも『コメダイズ』で普段と同じようにくつろいでいただくだけで、少しだけ環境に良い取り組みにつながっている、そういうお店を目指している」(小野氏)

 メニューは、おいしさと食べごたえを重視し、約1年かけて開発した。利用者の年代は幅広く、特に20~50代の女性が多い。もちろん乳・卵アレルギーを持つ人、ファミリー層、外国籍の人も多いという。ただ、店舗を実際に訪れた筆者の印象では、タッチパネル式のメニューにも特にプラントベースであることは表示されておらず、全メニュープラントベースであることに気づかず利用している人も多いのではないだろうか。

 コメダイズは当面、多店舗展開の予定はないという。「まだまだプラントベースについて認知が十分ではないので、この東銀座の地でプラントベースについて発信を続けたい。普段プラントベースフードに触れる機会のない方々が、無理なく地球にやさしいことができる、プラントベースについて知るきっかけのお店になれればと考え、おいしいメニューとくつろぐ空間を追求していく」(小野氏)

 食品会社が販売するプラントベース商品は、それを必要とする人が選び、買い求める。しかしコーヒーチェーン店は、幅広い利用者を受け入れなければ成立しないため、プラントベース商品の「色」が付きすぎることが、逆に間口を狭めてしまうことにもなりかねない。プラントベース商品があることを「意識させない」戦略が、逆にプラントベース商品を根付かせる極意なのかもしれない。

(画像提供/スターバックス コーヒー ジャパン、コメダホールディングス、ドトール・日レスホールディングス、タリーズコーヒージャパン)

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