20年前に比べ、出荷数量や製造場が約半数にまで落ち込んだ日本酒業界。そんな現状を救うべく、醸造酒を製造するベンチャー6社が立ち上がった。日本酒にフルーツやハーブなどの副原料を加えた新ジャンルの醸造酒「クラフトサケ」の製造、販売、認知を進め、日本酒業界の再生を狙う。

日本でもまだなじみの薄い「クラフトサケ」。日本酒にフルーツやハーブなどの副原料を加えたこれまでにない醸造酒として認知拡大を狙う
日本でもまだなじみの薄い「クラフトサケ」。日本酒にフルーツやハーブなどの副原料を加えたこれまでにない醸造酒として認知拡大を狙う

 現在、日本酒業界が衰退の一途をたどっている。国税庁が発表した「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」および「酒のしおり」によれば、2020年の清酒の出荷数量と製造場は、00年の半数近くまで減少。1950年代後半に4000近くあった製造場は、2020年には約1000にまで数を減らしている(清酒とは、酒税法で「米、米こうじ及び水を原料として発酵させてこしたもの」と定義される。日本酒とは、清酒の中でも日本国内で日本産原料で製造されたものと定義される)。

清酒製造場と出荷数量の推移(国税局の資料を基に作成した発表会資料より)
清酒製造場と出荷数量の推移(国税庁の資料を基に作成した発表会資料より)

 日本酒業界が先細る大きな要因には、新規事業者の参入が困難な現状がある。醸造所を併設したレストランを展開するスタートアップ「稲とアガベ」の岡住修兵社長はこう嘆く。

 「日本では法律の関係で、日本酒の新規醸造免許が発行できない。国内向けに販売する日本酒を製造するためには、事業を承継するか、企業買収を行うしかない」

 日本酒を製造したい新規事業者の参入が難しいとなると、業界が縮小していくのは自然な流れだ。こうした業界の現状を打開するため、岡住氏は「クラフトサケ」という新しいジャンルの醸造酒に着目した。

「稲とアガベ」の岡住修兵社長
「稲とアガベ」の岡住修兵社長

日本酒業界の衰退に歯止めを

 クラフトサケとは日本酒に近い製法で、フルーツやハーブなどの副原料を用いて製造する醸造酒のこと。酒税法上では、日本酒ではなく、その他の醸造酒もしくは雑酒などに区分される。そのため、クラフトサケの形をとれば、新規事業者の参入が可能となるわけだ。岡住氏によればクラフトサケという造語も、日本酒と名乗れない代わりに、クラフトジンやクラフトビールといったキャッチーな名前を踏襲して作ったそうだ。自由な酒造りを行う製法からもクラフトという言葉はしっくりくる。

 日本酒は製法に大きく2つのルールがある。1つは原材料に「米・米こうじ・水」を使用し、それ以外の副原料を入れないこと。もう1つは「搾る(お酒と酒かすを分ける)」工程を組んでいることだ。

 一方クラフトサケは、明確なルールをもうけていない。前述のように副原料を加えることも自由で、搾る工程を飛ばしてもよい。厳格に定められた日本酒の定義を超えて、日本酒らしい味わいを残しつつも幅広い味や香りづけを可能にした。

 しかしクラフトサケの認知はまだ低い。そのうえクラフトサケを製造する醸造所はたいてい規模が小さく、資金や発信力にも限界がある。

 そこで岡住氏がイニシアチブをとって、22年6月27日に立ち上げたのが「クラフトサケブリュワリー協会」だ。同協会は国内でクラフトサケを製造している6つの会社を集めた同業者組合のこと。団体として活動の幅を広げ、クラフトサケをより浸透させていく目的で設立された。

同業者組合として結成されたクラフトサケブリュワリー協会。各社が販売するクラフトサケは、副原料に甘夏、イチゴ、ビールの原材料となるホップなどが含まれている
同業者組合として結成されたクラフトサケブリュワリー協会。各社が販売するクラフトサケは、副原料に甘夏、イチゴ、ビールの原材料となるホップなどが含まれている

 「22年8月に予定している協会のイベントでは、国税庁から2000万円の費用を工面して頂いた。ただ仮に、僕が経営する1社だけなら資金の申請は通らなかったはず。イベントの場所を借りる際も6社でお願いしたほうが、広い場所でも申請が通る可能性が高くなる」と岡住氏。

最終的には「日本酒の価格を上げたい」

 クラフトサケブリュワリー協会が発足した同日には、Makuakeで「設立記念酒セット」などが限定発売された。プロジェクトの応援購入総額は開始から約30分で目標金額の100万円を超え、7月19日時点では約800万円まで伸びている。

22年6月27日、プロジェクトの開始直後の様子。その後約30分で応援購入額が目標の100万円を超えた
22年6月27日、プロジェクトの開始直後の様子。その後約30分で応援購入額が目標の100万円を超えた

 協会としても好調なスタートを切った今回のプロジェクトだが、気になったのはその販売価格だ。リターンの一例を挙げると、各社1種類ずつ300ミリリットルの小瓶を持ち寄った「6本飲み比べセット」が1万5000円(税、送料込み)となっている。この価格には協会発足の応援料や、クラフトサケブリュワリー協会限定の会員証も含まれているが、値が張る印象を受ける。岡住氏に価格設定について聞いてみた。

 「日本酒は『4合瓶で1500円』が目安の価格だが、我々クラフトサケは『4合瓶で3000円』に設定した。クラフトサケが高級というよりは、日本酒の値段が安すぎる。現状の1500円という価格では、原材料のお米や、従業員の給料、酒販店さんのマージンも、低く回していかなければならない。会員の皆さんも苦労した経験がある。

 そこで我々がクラフトサケを通して、新しい味や香り、協会発足のストーリー性といった付加価値を(日本酒に)つけることで、単価を上げても売れるという実績を作っていく。そうすれば業界全体が活性化するきっかけになる」

 岡住氏によれば、日本酒の目安価格が「4合瓶で1500円」にとどまっているのは、飲食店の事情が関係している。飲食店では日本酒が約3倍の値段で提供されるケースが多い。つまり、飲食店は4合瓶を1500円、一升瓶を3000円で仕入れ、1合あたり約900円で提供する。この900円は1つの分水嶺で、これを超えると日本酒を頼む客が減るため、飲食店も酒造会社もなかなか値上げに踏み切れないそうだ。

 こうした袋小路な日本酒業界の実情を、クラフトサケブリュワリー協会の活動で変えていきたいと意気込む岡住氏。ターゲット層も日本酒をたしなんでこなかった若年層や女性に据える。

 「日本酒と共存する未来をつくりたいので、ターゲット層は日本酒を好む人とかぶらないようにする。販促も卸や酒販店を通すのではなく、MakuakeやLINEなどを活用し、若い方になじみ深い方法で行う。我々の新しいチャレンジや自由な発想で、あまりお酒を飲まない層にも刺さるよう活動を続けていきたい」と岡住氏。小規模の醸造酒ベンチャー6社が共存しながら、全体の再生も狙う。

■変更履歴
記事公開時に掲載した、国税庁の資料を基にクラフトサケブリュワリー協会が作成したグラフは、出荷数量と日本酒製造業の数値が逆になっていました。グラフ画像を正しいものに差し替え、本文の一部を修正しました。[2022/7/21 14:30]
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