アディダス ジャパン(東京・港)は「ADIZERO ADIOS PRO 3(アディゼロ アディオス プロ 3)」を含む最新作の販売を2022年7月1日から開始した。ADIZERO(アディゼロ)シリーズは「1秒でもタイムを縮める」ことを目指すランナー向けモデル。各スポーツメーカーが続々と速く走れるシューズを展開する中、アディダスはADIZEROを携え、どのように勝負していくのか。そのブランド戦略を、アディダスマーケティング事業本部コンセプト・トゥー・コンシューマー カテゴリープランニング シニアマネージャーの山口智久氏に聞いた。

アディダスマーケティング事業本部コンセプト・トゥー・コンシューマー カテゴリープランニング シニアマネージャーの山口智久氏
アディダスマーケティング事業本部コンセプト・トゥー・コンシューマー カテゴリープランニング シニアマネージャーの山口智久氏

トップランナーの力を最大限に

 今回新しく登場したシューズは、「ADIZERO ADIOS PRO 3」「ADIZERO BOSTON 11(アディゼロ ボストン 11)」「ADIZERO JAPAN 7(アディゼロ ジャパン 7)」の3モデル。そのうちADIZERO ADIOS PRO 3は、レース本番で世界記録更新を目指すプロアスリートに向けたランニングシューズだ。「日本人ランナーを速くする」を開発当初のコンセプトに、フィット性や軽量性を追求しながら、レース終盤の疲れにくさや、反発性・推進性の最大化といったプロのエリートランナーからの声を基に、2年の歳月をかけて改良を重ねた。目指したのは「無駄ゼロ・ストレスゼロ・エネルギーロスゼロ」だ。

左から、「ADIZERO ADIOS PRO 3」2万6400円(直売価格、税込み、以下同)、「ADIZERO BOSTON 11(アディゼロ ボストン 11)」(1万7600円)、「ADIZERO JAPAN 7(アディゼロ ジャパン 7)」(1万5400円)
左から、「ADIZERO ADIOS PRO 3」2万6400円(直売価格、税込み、以下同)、「ADIZERO BOSTON 11(アディゼロ ボストン 11)」(1万7600円)、「ADIZERO JAPAN 7(アディゼロ ジャパン 7)」(1万5400円)

 ちょうど1年前の2021年7月1日に発売した前作「ADIZERO ADIOS PRO 2(アディゼロ アディオス プロ 2)」と異なるのは、ADIZERO ADIOS PROの特徴の1つである、ミッドソールに搭載された「EnergyRods 2.0(エナジーロッド)」だ。EnergyRodsはプレート状ではなく、足の中足骨をヒントに調整された、5本指の骨状の特殊なカーボン製ソールユニット。ヒール着地の衝撃吸収から前脚部による強い蹴り出しまで、足の形状に沿った自然な重心移動を維持するためのソールだが、ADIZERO ADIOS PRO 2はこのソールが足先半分にしかなかった。ADIZERO ADIOS PRO 3のエナジーロッドは、かかとまで足裏全面に敷き詰めたフルレングスへと進化。足全体のしなりを生かしながら、地面からの反発力を最大化し、推進力へとつなげることができるという。

ADIZERO ADIOS PRO 3の分解構造。中間層にある5本指形状の骨状カーボンバーはこれまでバラバラの構造だったが、ADIZERO ADIOS PRO 3は足の裏全体に配置したことで調和のとれた剛性を実現。着地の衝撃を反発力に変えて推進力が生み出せるという
ADIZERO ADIOS PRO 3の分解構造。中間層にある5本指形状の骨状カーボンバーはこれまでバラバラの構造だったが、ADIZERO ADIOS PRO 3は足の裏全体に配置したことで調和のとれた剛性を実現。着地の衝撃を反発力に変えて推進力が生み出せるという

運動慣れしていないとお尻が筋肉痛に

 発売に先立って行われた「adidas Running/アディゼロ新商品発表会 2022」では、プロアスリートが実際に使用した感想を語るセッションが設けられた。富士通陸上競技部所属の浦野雄平選手は、「前作と比べて接地したときに安定感がある。5本指骨状のカーボンバーがかかとまで搭載されていることで、走っていてシューズにしなりを感じ、重心移動がしやすくスピードを出しやすいと感じた」と話す。

 同発表会ではADIZERO ADIOS PRO 3の着用感を体験できるランニング体験も実施。トレーナーと周辺道路を走る体験に、筆者もADIZERO ADIOS PRO 3で参加した。

 履いてみるとかかととつま先が浮いているような感じで、履き始めの直立時には不安定さを感じたが、走り出すと前へ前へと自然と足が出て進む感じがあった。着地した際の衝撃も少なく軽快に走れた。しかし、通常のランニングシューズとは異なり、特殊な形状をしているせいか太ももと腹筋に力が入り、運動不足も相まって3、4日筋肉痛が続いた。ランニング体験で一緒に走ったトレーナーによると、「ADIZERO ADIOS PRO 3は特殊な形状をしているプロ向けの製品のため、運動慣れをしていない人が履くとお尻が筋肉痛になる」と言う。普段使用していない筋肉も最大限に活用し、走る力に変えてくれるのだろう。

左から、塩澤稀夕(きせき)選手(富士通陸上競技部)、浦野雄平選手(富士通陸上競技部)、上杉真穂選手(スターツ陸上競技部)、林奎介選手(GMOインターネットグループ)、モデレーターを務めたアディダスの山口智久氏。薄底時代からボストンシリーズを愛用しているという上杉選手はADIZERO BOSTON 11を着用し、「ジョギングなどトレーニング用のシューズとして履いているが、前作より厚底になってより反発性が高まり、自然とリズムが上がっていく感覚がした。また素材が変わったことで軽さだけでなく、通気性がよくなった。これから夏もこのシューズでガンガン走り込んでいきたい」と話した
左から、塩澤稀夕(きせき)選手(富士通陸上競技部)、浦野雄平選手(富士通陸上競技部)、上杉真穂選手(スターツ陸上競技部)、林奎介選手(GMOインターネットグループ)、モデレーターを務めたアディダスの山口智久氏。薄底時代からボストンシリーズを愛用しているという上杉選手はADIZERO BOSTON 11を着用し、「ジョギングなどトレーニング用のシューズとして履いているが、前作より厚底になってより反発性が高まり、自然とリズムが上がっていく感覚がした。また素材が変わったことで軽さだけでなく、通気性がよくなった。これから夏もこのシューズでガンガン走り込んでいきたい」と話した
「adidas Running/アディゼロ新商品発表会 2022」では、トップアスリート5選手のフルマラソンの平均スピードに分けてのランニング体験や、発表会で登壇した選手やトレーナーと一緒にランニングできる体験が実施され、製品の魅力を伝えた
「adidas Running/アディゼロ新商品発表会 2022」では、トップアスリート5選手のフルマラソンの平均スピードに分けてのランニング体験や、発表会で登壇した選手やトレーナーと一緒にランニングできる体験が実施され、製品の魅力を伝えた

ランナー人口拡大でプロ向けを一般に

 アディダスのランニングシューズには、同社の技術の最高峰を詰め込んだ快適性・汎用性の高い「ULTRABOOST(ウルトラブースト)」、データに基づいて設計された先進的な技術を誇る「4D」、オールラウンドで優れたエネルギーリターンを出す「SOLAR(ソーラー)」、長距離をゆっくり走る人向けのクッション性に優れた「ADISTAR(アディスター)」といった様々な商品がある。その中でADIZEROシリーズは、記録を破るためのシューズという位置付けにある。

 ADIZEROの開発は05年にスタートした。躍進のきっかけは、08年9月のベルリンマラソンでハイレ・ゲブレシラシエ選手がADIZEROを履いて世界記録を樹立したこと。その後、ADIZEROシリーズは続々と世界記録を打ち立て、好記録の樹立に貢献してきた。今回の新作についても、「最新ギアとしての性能を通じて、トップアスリートたちの記録更新に貢献していきたい」(山口氏)と熱意を語る。

 ADIZEROシリーズは「エリートが難しい状況でも力を発揮できるように」と開発された。だが、新型コロナウイルスの感染拡大により、全国各地でレースのキャンセルや延期が相次いだ。その影響で「シューズ、アパレルを含め、市場規模全般ではやや減少傾向にあったのも事実」と山口氏。一方で新型コロナウイルス禍による健康需要の高まりで、ランナー人口自体は増加傾向にある。「肌感覚だが、微増傾向にある市民ランナーも高価格なモデルを履きたいという、トップモデルの需要が増えている」(山口氏)

新たな厚底トレンドにも対応

 また「厚底という新しい市場トレンドがかなり強まっている」と山口氏はみる。

 「コロナ禍という難しい状況でも開催されるレースはある。その際、ランナーがパフォーマンスを発揮できるように、最新のアスリート向け製品を提供する。製品を着用したランナーたちが活躍すれば存在感が高まり、それを見た市民ランナーや、趣味でランニングしている人たちも刺激を受け、自分も頑張ろう、自分のランニングを楽しもうという気持ちにつなげられる。それがアスリートと同様の製品を着用したいというニーズを高め、派生シリーズの購入につながる」(山口氏)

 エリートランナーのトレーニングや、一般ランナーのレースやデイリートレーニングにマッチした厚底マルチランニングシューズのADIZERO BOSTON 11や、あらゆるランナーに向けた汎用性に優れたADIZERO JAPAN 7は、まさにバリエーションとして登場した派生シリーズ。

 「トップランナーが練習で履いているものでも、市民ランナーであればフルマラソンやハーフマラソンで走ってもらえる設計になっている」(山口氏)そうで、レベルやニーズに合わせて対応してもらいたいとした。

厚底マルチランニングシューズのADIZERO BOSTON 11
厚底マルチランニングシューズのADIZERO BOSTON 11
汎用性に優れたADIZERO JAPAN 7
汎用性に優れたADIZERO JAPAN 7

ランニングでスポーツビジネスけん引

 アディダス ジャパンのトーマス・サイラー副社長は、「ランニングは最も裾野の広いスポーツであり、最もアクセスのしやすいスポーツ。スポーツにおけるランニングの地位を重視しなければならない」とランニング市場の重要性を述べた。

アディダス ジャパンのトーマス・サイラー副社長
アディダス ジャパンのトーマス・サイラー副社長

 さらに山口氏は、「ADIZEROシリーズの強みは、最新のアスリートたちの声に基づいて設計されていること。細かい改良ポイントも、なぜそうしたのか、どういう声に基づいて改良がなされたのかを強調し、最新のエリートランナーたちのニーズに応えたものというアピールは、これまで以上にしていきたいと思っている」と語気を強める。

 「アスリートのための」という位置付けは、シリーズで一貫してエリートランナーを広告に起用し続けている点にも表れている。今後、ADIZEROシリーズを手に取る市民ランナーが増えることで、「ランニング人口の微増傾向だけでなく、スポーツビジネスとしての市場もまた回復していくはず。スポーツ業界全体を、一番メジャーなスポーツのランキングカテゴリーがけん引できるような、そういう効果を狙っていきたい」と同氏は締めくくった。新型コロナで思うように大会が開催されない中、リベンジランナーたちの挑戦にどう響くか、注目したい。

(写真提供/アディダス ジャパン)

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