資生堂が日本では18年ぶりとなるメンズブランド「SIDEKICK(サイドキック)」をローンチ。Z世代の男性をターゲットに、スキンケア商品を8品目8品種そろえた。日本での販売は1店舗のみ、2022年7月から中国で本格的に販売する。ユニークな展開だが、そこには資生堂の戦略が隠れていた。
Z世代に刺さるパッケージとは?
SIDEKICKは2022年6月1日から国内限定で先行販売。SHISEIDO MEN以来となる国内で18年ぶりのメンズブランドとしてローンチされた。季節変化やストレス耐性に弱く、肌が揺らぎやすいZ世代の男性をメインターゲットに据えた。
その狙いはパッケージに反映されている。赤や青、緑などビビッドなカラーデザインに、大々的にプリントされたブランドのロゴ、外側は金属チューブやアルミ、ガラスボトルなどの素材を使用。従来のスキンケアブランドに比べて斬新な設計にした。資生堂 SIDEKICKブランドチームの藤田悟氏はデザインのこだわりをこう語る。
「Z世代の男性は、例えば背中全体にロゴがプリントされたTシャツや、大胆な色使いが施されているものなど、自分なりの個性を表現できるアイテムを好む。この傾向をくみ取りSIDEKICKでは、持っているだけで自分自身を主張できるよう、カラフルさとダイナミックさを演出した」
また、SNSに慣れ親しんだZ世代の男性の心をつかめば、デジタルでの波及効果も見込めると期待する。そのため、資生堂はユーザーに商品をより愛用してもらい、自然にSNSへの投稿を誘導するため、パッケージ自体に“アレンジや使用感”が生まれやすい工夫を施した。
「Z世代の男性は世の中で見たものや手にしたものに、自分なりの考えや行動をプラスしている傾向がある。例えば全身スーツの中で足だけスニーカーを履くなど、既存のブランドが提案するオーセンティックなスタイルや演出の仕方に、ひとひねり加えた形でオリジナリティーを出している」(藤田氏)
こうした自分なりのアレンジを好む世代に向けた工夫の一例が「金属チューブ」だ。金属はプラスチックのように握っても戻らないので、使用していくうちにパッケージがクシャッとなり、武骨な感じが出てくる。「革靴を長年使うと味が出てくるように、使用するごとにプロダクトの変化を楽しんでもらい、その過程をSNSを通して発信してもらえたら」(藤田氏)と話す。
国内で1店舗しか販売しない理由
ここまで注力する商品ながら、日本での販売は原宿の「ビューティ・スクエア」で行うのみ。本格的な展開は7月1日から中国で行う。
資生堂によれば、中国のZ世代の人口は日本に比べてはるかに多い。そのうえスキンケアに感度が高い男性は多く、メンズスキンケア市場の成長が著しい。そのわりにブランドの競合が少ないことが参入の決め手となった。
「現在の中国では、数少ないプレステージ(高価格帯)ブランドと、いくつかのマスブランドが存在するものの、その中間層が存在しない。プレステージとマスの間には約4倍の価格差があり、資生堂はその空白の領域に着目した」と藤田氏。中国市場にはない隙間の価格帯を狙うことで、プレステージとマスの両方の愛用者にリーチする。
「プレステージブランドを愛用するユーザーが手頃なものを買いたいと思った時、4分の1の価格の商品を買うことには抵抗がある。一方Z世代の男性には、2種買っても5000円以下という価格帯がちょうど良い高級感を与える」(藤田氏)
とはいえ、なぜ日本では1店舗だけの取り扱いなのか。1店舗のみならわざわざ国内では販売せず、中国だけに販路を絞ったほうが効率も良さそうに思えるが……。
「日本でローンチが認知されると、すぐ中国で大きなニュースになる。例えば別のブランドの『エフェクティム』では、日本の伊勢丹でポップアップストアを開いた際に、いきなり向こう(中国)で大きな話題になった。日本で何がトレンドでホットなのかを発信することで、中国での売り上げに貢献するため、日本で先行発売する意味は大きい。日本での発売は中国に向けての話題づくりの役割が大きい」
つまり国内での展開は、中国でロケットスタートを切るための布石ということだ。話題づくりだけなら何店舗も展開する必要はなく、販売時期が日本のほうが先行しているのも納得だ。
しかも中国での展開に成功すれば他国への影響力も大きい。「当社としても今後はアジア全体への展開を考えている。まずは中国でサクセスシナリオをつくり、日本を含めて規模を拡大していきたい」と藤田氏。日本で話題の種をまき、中国で大々的に販売、その実績をうたってアジア全土へ拡大する――その第1歩として、Z世代の男性にウケそうなパッケージで、SNSでの話題づくりや拡散を促したい考えだ。
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