プロントコーポレーション(以下プロント)が新業態のスパゲッティ専門店「エビノスパゲッティ」を2022年6月30日にオープンした。目玉は調理ロボットの導入だ。人口減少に伴い就業人口が減少し、すでに人手不足が深刻化している飲食業界の中での注目度も高い。

調理ロボットを導入したプロントの新業態「エビノスパゲッティ」。所在地は東京都千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディングB1F
調理ロボットを導入したプロントの新業態「エビノスパゲッティ」。所在地は東京都千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディングB1F

注文後、最短45秒で調理

 エビノスパゲッティで稼働しているのは、パスタ自動調理ロボット「P-Robo」の1号機。P-Roboは、飲食店の厨房作業を丸ごと請け負う調理ロボットや、食品工場の効率化を助ける業務ロボットを開発するTechMagic(テックマジック、東京・江東)が、2018年から取り組んできた。パスタ調理ロボットとしては「世界初」という。

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 プロントによれば、利用者がパスタを注文してから提供されるまでの時間は、既存店で約3分だったのに対し、エビノスパゲッティでは最速45秒。1時間当たり最大90食の調理が可能だという。

カウンター奥に、P-Roboが自動調理している様子が見える。ロボットの無機質なイメージをやわらげるため、空間は木材のカウンターやしっくいの壁などで温かい雰囲気を演出している
カウンター奥に、P-Roboが自動調理している様子が見える。ロボットの無機質なイメージをやわらげるため、空間は木材のカウンターやしっくいの壁などで温かい雰囲気を演出している
TechMagicが開発したパスタ自動調理ロボット「P-Robo」
TechMagicが開発したパスタ自動調理ロボット「P-Robo」

 P-Roboはパスタを調理する一連の工程を自動化している。ロボットがキッチン内を移動しながらパスタ、具材、ソースをフライパンに集め、最後は超高速でフライパンを回転させつつIHの高出力で加熱して仕上げる。調理後は、フライパンの洗浄まで行う。

 1食目は約75秒で全調理工程を完了するが(盛り付けはスタッフが担当)、2食目以降は約45秒間隔でスパゲッティを自動調理できる。麺を含む具材をフライパンで加熱するのは、メニューにもよるが約30秒という短時間。高出力・高回転でむらなく均等に加熱することで、ソースが煮詰まることなく、麺にしっかりなじむという。ロボットは4つのフライパンを同時に動かしながら、AI(人工知能)による画像認識技術でパスタや具材などの状態を把握し、状況に合わせてハンドリング。スタッフは盛り付け場所で待機し、皿に盛り付け、仕上げのトッピングをするだけだ。

ゆで時間を含めて最速約45秒で完成する
ゆで時間を含めて最速約45秒で完成する
冷蔵庫から具材とソースを取り出しフライパンに入れると、ロボットが店の奥にある麺ゆで機の方に移動し、ゆで上がった麺を受け取る
冷蔵庫から具材とソースを取り出しフライパンに入れると、ロボットが店の奥にある麺ゆで機の方に移動し、ゆで上がった麺を受け取る
パスタ、具材、ソースが集まったフライパンがIHにセットされ、自動で約30秒間、高速でかくはんしつつ加熱。4つのフライパンが同時進行で作業をしているので、約45秒間隔で4皿の料理が同時に完成する
パスタ、具材、ソースが集まったフライパンがIHにセットされ、自動で約30秒間、高速でかくはんしつつ加熱。4つのフライパンが同時進行で作業をしているので、約45秒間隔で4皿の料理が同時に完成する

 同店の業態コンセプトは「ローテク×ハイテク」。何もかもロボットに任せるのではなく、ロボットでしかできない高速調理と、人間にしかできない美しい盛り付けを融合させたという。

盛り付け台でスタッフがフライパンを受け取って盛り付ける
盛り付け台でスタッフがフライパンを受け取って盛り付ける
パスタメニューは、858円(税込み、以下同)の「和風おろし」から990円の「ペペロンチーノ」までの8種類で、平均客単価は約1000円を見込んでいる(撮影/桑原恵美子)
パスタメニューは、858円(税込み、以下同)の「和風おろし」から990円の「ペペロンチーノ」までの8種類で、平均客単価は約1000円を見込んでいる(撮影/桑原恵美子)
蒸し鶏、水菜、大葉、みょうがでさっぱり仕上げた「ジャパニーズハーブ」(880円)。蒸し鶏はジューシーで麺にもほどよく味が染みていて、プロの調理人レベルの完成度(撮影/桑原恵美子)
蒸し鶏、水菜、大葉、みょうがでさっぱり仕上げた「ジャパニーズハーブ」(880円)。蒸し鶏はジューシーで麺にもほどよく味が染みていて、プロの調理人レベルの完成度(撮影/桑原恵美子)

5年で50店舗に導入予定

 プロントの杉山和弘常務は、18年のTechMagic創立当初に同社の白木裕士社長と出会い、食における社会課題解決で意気投合。「当社の人手不足という課題を解決しつつ、世の中の役にも立てる」と、自動調理ロボットの共同開発を開始した。

 社内には高額な開発費を懸念し反対する声もあったが、それでも杉山氏が踏み切ったのは、他の外食産業同様、プロントも深刻な人手不足が続いていたため。人材派遣業のグループ会社「プロントサービス」(東京・港)に依頼しても、希望する人数の半数も集まらない状態が続いていた。「2050年には日本の人口が1億人を割るともいわれており、外食産業の人手不足は今後、もっと深刻になると予想される。今は競合するよりも一致団結してアフターコロナに向けて外食産業を盛り上げることが重要。このロボットがその役に立つことを期待している」(杉山常務)

「人とテクノロジーが融合して、未来の飲食のビジネスモデルができると確信している」と語るプロントの常務取締役 杉山和弘氏
「人とテクノロジーが融合して、未来の飲食のビジネスモデルができると確信している」と語るプロントの常務取締役 杉山和弘氏

調理ロボットでなら日本は世界一へ

 TechMagicの白木社長は、「スマートフォンからワンクリックでおいしい料理を作ってくれるロボットを造りたい」と18年に同社を創業。外食産業の人手不足問題を解消できると考えたが、周囲からは「アイデアが未来過ぎる」「成功事例がまだない」と危惧する声が多かったという。現在でこそ日清食品、味の素、キユーピーなど大手食品メーカーとの協業や共同開発を進めているが、プロントは案件第1号。「創業当時、面白いと可能性を感じてくださったのはプロントさんだけだった」と振り返る。

 開発当初から「調理から洗浄までの工程を自動化すること」がテーマだったが、「味」の問題は大きかった。「利用者はロボットが作る料理という珍しさではなく、おいしさを求めて来店する」「今、プロントで提供している熟練シェフの味を提供できなければ、お客様に納得してもらえない」というプロントの要望に応えるため、メニューにひもづいた具材を1グラム単位で調整し、試作を繰り返した。

 21年の北京冬季五輪のメインメディアセンターでは、中国製の調理ロボットが登場した。フランス人記者は「こんな調理人は見たことがない」と驚きながらも、「味は普通」「ロボットに繊細さを求めてはいけない」とコメントした。杉山常務はこの話を前置きし、「物珍しさだけでは通ってもらえないことを、我々は30年にわたる外食産業の運営で知っている。だから、構想から今日まで4年かけて、味を追求した」と語る。

 「Web2.0の世界、自動運転の世界では米国、中国がリードし、日本は周回遅れといわれているが、調理ロボットの領域では、日本のものづくり力と食文化を組み合わせることで、世界ナンバーワンを目指せると確信している」(白木社長)

「省人化によって確保したリソースを商品開発やサービスへ生かすことで、飲食店の更なる付加価値の創出を実現したい」と語るTechMagicの白木裕士社長
「省人化によって確保したリソースを商品開発やサービスへ生かすことで、飲食店の更なる付加価値の創出を実現したい」と語るTechMagicの白木裕士社長

「エビノ」の意味は「~とワイン」

 店名の「エビノ」は、イタリア語で「~とワイン(e vino)」という意味を含んでいる。コンセプトは「お食事だけでも、お酒だけでも楽しめるスパゲッティ屋」。パスタメニュー8種類のほかに、「セロリの浅漬け」(275円)をはじめ7種類のおつまみ、2種類のデザートがあり、ワインはシチリア島のワインをボトルで12種類(3168円~)、グラスワインも528円からと手ごろな価格で用意している。

おつまみメニューの一部。左は「クリームチーズ醤油(しょうゆ)漬け」(418円)、右は「炙り(あぶり)厚揚げ トリュフ風味」(440円)(撮影/桑原恵美子)
おつまみメニューの一部。左は「クリームチーズ醤油(しょうゆ)漬け」(418円)、右は「炙り(あぶり)厚揚げ トリュフ風味」(440円)(撮影/桑原恵美子)

 プロントでは、系列店の和カフェ「Tsumugi(ツムギ)」で、21年から配膳ロボットを導入しているが、懸念していたクレームは一切なく、「かわいい」という好意的な声が9割以上。特に子供に大人気で、杉山常務は「ロボットネーティブ世代には、ロボットと人が共存する世界は、もう当たり前なのかもしれない」と語る。

 プロントは今後、5年間で50店舗のP-Robo導入を目指しており、導入店では1~2人の省人化を想定している。人手不足解消だけでなく、withコロナでの厨房の密回避にも期待を寄せている。

(画像提供/プロントコーポレーション)

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