アウディ ジャパン(東京・品川)が2022年1月に日本導入を発表したSUV(多目的スポーツ車)タイプの電気自動車(EV)「アウディQ4 e-tron」。22年秋の発売を前に、同社は一般向けの展示会を行うなどPR活動に力を入れている。エントリーは価格が600万円を切り国内での競争力も上がりそうだ。

2022年1月に日本導入を発表したSUV(多目的スポーツ車)タイプの電気自動車(EV)「アウディQ4 e-tron」。価格は599万円(税込み)から
2022年1月に日本導入を発表したSUV(多目的スポーツ車)タイプの電気自動車(EV)「アウディQ4 e-tron」。価格は599万円(税込み)から

アウディEVの重要モデルとしてPR

 2022年6月27日から7月3日まで、東京・表参道交差点近くにある屋外広告「OMOSANシンクロ」のリニューアル第1弾として、ドイツ・アウディの電気自動車(EV)第3弾となるプレミアムコンパクトSUV(多目的スポーツ車)「Audi Q4 e-tron」の“裸眼3D”クリエーティブ映像作品が放映され、作品終盤に「アウディ初の コンパクト電動SUV いよいよ日本へ」という文言が示された。Q4 e-tronは22年秋に日本発売予定ということもあり、PRも活発になってきている。

「アウディ Q4 e-tron」の“裸眼3D”広告映像を、リニューアルした東京・表参道交差点近くの大型広告ビジョン「OMOSANシンクロ」にて2022年6月27日~7月3日、1社独占で放映した(画像はイメージ
「アウディ Q4 e-tron」の“裸眼3D”広告映像を、リニューアルした東京・表参道交差点近くの大型広告ビジョン「OMOSANシンクロ」にて2022年6月27日~7月3日、1社独占で放映した(画像はイメージ

 現在、アウディは積極的にEVを展開しており、中でもQ4 e-tronは中核的な役割を担う重要モデル。「プレミアムカーの品質」を保ちながら「使い勝手の良いコンパクト」なサイズ感であることを押し出している。

 使い勝手の良さを示すポイントの一つは、エントリー価格を税込み599万円からに設定したこと。これまで1000万円クラスが中心だったミッドサイズSUV「e-tron」シリーズと、ミッドサイズの4ドアクーペ「e-tron GT」よりも大幅に下げた。

 コンパクトなボディーサイズというのは、全長4588×全幅1865×全高1632ミリメートル(欧州値)で、日産「エクストレイル」やトヨタ「RAV4」など国産の中堅SUVと同等クラスであることを指す。国産車で近い大きさは、マツダ「CX-5」(全長4575×全幅1845×全高1690ミリメートル)で、そのサイズ感のクルマと思えばいいだろう。

ボディーサイズは全長4588×全幅1865×全高1632ミリメートル(欧州値) 。ほぼ同等サイズで、クーペスタイルの「アウディQ4 e-tronスポーツバック」も用意する
ボディーサイズは全長4588×全幅1865×全高1632ミリメートル(欧州値) 。ほぼ同等サイズで、クーペスタイルの「アウディQ4 e-tronスポーツバック」も用意する

 EVでSUVとなると、1回充電当たりの走行距離が気になるところ。Q4 e-tronの516キロメートル(欧州値)という数字は、アウディ車でいえば上位モデルのe-tronのSUV「e-tron 50クワトロ」を200キロメートルほど上回る。さらに航続距離がセールスポイントでもあるe-tron GTの534キロメートル(世界統一試験サイクル:WLTC値)に迫るレベルだ。コンパクトなボディーサイズもこれに貢献しているが、上位モデルが2モーターの4WDなのに対し、1モーターの後輪駆動車にした駆動方式も大きい。

 日本仕様車については、グレード構成と装備内容、そして価格が公表済み。標準的なスタイルのSUVであるQ4 e-tronが599万円から689万円。クーペスタイルのSUV「Q4 e-tronスポーツバック」が、688万円から716万円となる。グレードによりデザインや装備は異なるが、モーター性能や電池容量など基本性能は全て共通している。

 現在、アウディジャパンはメディア向けに欧州仕様車の試乗会を開催し、さらに全国の販売店で展示イベントを実施するなど、日本市場での販売に意欲的だ。アウディジャパンによれば展示会来場者の反応はポジティブで、予約受注も順調に推移し、Q4 e-tronとQ4 e-tron スポーツバックの比率はほぼ半々とのこと。既存のアウディオーナーだけでなく、国産車からの乗り換えや、高級車ユーザーの中にはセカンドカーとして検討するケースもあるそうだ。

Q4 e-tronの一充電走行距離は516キロメートル(欧州値)だという
Q4 e-tronの一充電走行距離は516キロメートル(欧州値)だという

車内の広さ、加速の良さ、充電は十分

 試乗したところ、外観はオクタゴン形状のフロントグリルなど、アウディの最新SUVと同じ特徴を持っており、これまでのアウディ車と大きく変わらない。プラットフォームはドイツ・フォルクスワーゲンのEV専用モデル群「ID」シリーズと同じ「MEB」を採用。車室が1クラス上のミッドサイズSUV「アウディQ5」並みに広くなった。特に後席は大人3人がゆったりと座れ、足元もフラットで席の移動が楽にできる。

後席は足元がフラットでゆったりしている。床下には駆動用バッテリーが搭載されるため、床面と座面の高さに影響を及ぼすこともあるが、その影響も最小限に抑えられているようだ
後席は足元がフラットでゆったりしている。床下には駆動用バッテリーが搭載されるため、床面と座面の高さに影響を及ぼすこともあるが、その影響も最小限に抑えられているようだ

 モーターの性能は、最高出力150kW(約204ps)、最大トルク310Nmで、サイズの近いコンパクトSUV「アウディQ3」の2.0Lディーゼルターボエンジン車「35TDI」110kW(150ps)、340Nmに迫る。ディーゼルエンジンは低回転から高いトルクを発揮できるのが特徴だが、モーターは発進時から最大トルクが得られるのでより力強く感じられ、加速も良い。電池は82kWhの大容量リチウムイオンバッテリーを搭載。125kWまでの急速充電に対応し、急速充電器を使用すれば理論値ながら38分で残量5%からに80%まで充電できる。

 試乗車は欧州仕様のため左ハンドル車だったが、コンパクトで街中でも運転しやすい。発進から加速までの動きも違和感はなくスムーズだ。EVは一般的にアクセルとモーターが直結したようなリニアな加速が得られる半面、段差を乗り越えて発進する場合などはアクセル操作が難しかったり、加速が俊敏であるが故の違和感があったりする。しかし、Q4 e-tronは繊細なアクセル操作に的確に反応し、狙った加減速がやりやすかった。もちろん、アクセルを強く踏み込むとEVらしい加速もしっかりと味わえる。

 意外だったのが乗り心地の良さだ。試乗車は21インチホイールを装着していたが、最大20インチとなる日本仕様車の乗り心地も期待できるだろう。

日本仕様車のホイールは最大20インチ(画像は欧州仕様車)なので、試乗車よりも乗り心地よくなるだろう
日本仕様車のホイールは最大20インチ(画像は欧州仕様車)なので、試乗車よりも乗り心地よくなるだろう

輸入EVの概念を打ち破る存在

 日本では当面の間、Q4 e-tronをアウディのEV普及モデルと位置付けているようだ。しかし、600万円台をメインとする価格帯は一般的には安くはない。ただ、SUVのEVという視点で見ると、トヨタ「bZ4X」の前輪駆動車「Z」は600万円(※リース販売のみ)、スバル「ソルテラ」の前輪駆動車のエントリーグレード「ET-SS」は594万円と大差はない。唯一、駆動用電池の容量が66kWhの日産「アリア」の前輪駆動車「B6」が539万円と500万円台前半に収まっている。

 500万円超えの車の購入を検討する人にとって、国産EVと輸入EVの100万円を切る価格差がどの程度影響するかは微妙だ。しかし、アウディと一目で分かるデザインと高級車の持つ質感、さらに最先端のEVに乗っているという3つの満足感が得られる魅力は大きいだろう。

 アウディは急速充電インフラも充実させている。日本全国にあるフォルクスワーゲングループ傘下のブランドの店舗に配置する、急速充電器を共用する計画の第1弾である「プレミアムチャージングアライアンス」を、22年4月に発表した。アウディとポルシェの販売店などに設置された150kW出力の急速充電器を、両ブランドのオーナーが使えるようにする。22年秋以降からのサービス開始を目指している。

 アウディ自体、全国に110店舗のEV取扱店舗「e-tronディーラー」を展開しており、90kW以下の急速充電器を設置している。今後120拠点まで拡大し、新規店舗には150kW出力の急速充電器を設置する予定だ。24年までには、既存の急速充電器を150kW出力のものに交換していくという。Q4 e-tronは、価格もポジショニングもこれまでの輸入EVの概念を打ち破る存在で、国産車を含め他社のEV戦略にも影響を与えそうだ。

外観はアウディの最新SUV同様の特徴を持つ。ただEVなのでフロントグリルには空気導入口は設けられていない
外観はアウディの最新SUV同様の特徴を持つ。ただEVなのでフロントグリルには空気導入口は設けられていない

(画像提供/アウディジャパン)

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