ドイツ・ラミーの万年筆「サファリ」から、漢字を書くのに適した「ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」が限定発売された。愛好家らが敏感に反応し、急きょ約1000本の増産が決定。通常のモデルとの違いはどこにあるか、書き味を検証した。

漢字筆記に特化した「ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」がヒット。ペン先には「漢」の文字が刻印される
漢字筆記に特化した「ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」がヒット。ペン先には「漢」の文字が刻印される

 ドイツの筆記具ブランド・ラミーの万年筆「サファリ」は、1980年に発売されて以来、手軽さと従来の万年筆のイメージを打ち破るデザイン性の高さで、世界的なベストセラーとなった。現在も毎年、限定色を発売し、当初のターゲットだった学生層だけではなく、世代を超えてユーザーを集めている。

 そのサファリの新製品が、6600円(税込み)の「ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」(以下、漢字ニブ)だ。漢字を書くのに適した特別モデルで、数量限定で発売。2022年5月に行われた先行販売では、約5日で400本を完売する人気となった。全国発売は22年8月を予定しているが、想像を超える好評ぶりに急きょ約1000本の増産を決定した。

ラミーの「ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」
ラミーの「ラミー サファリ ホワイトレッドクリップ万年筆 漢字ニブ」

 漢字ニブを購入しているのは、普段からラミーを愛用しているファン。支持される理由を「欧米ブランドが東洋の文字である漢字を取り上げるという物珍しさに加え、万年筆でより美しい文字を書きたい、従来品より美しく日本語を書けるのでは、という“美文字”への探求心をくすぐったのではないか」と、ラミーの日本でのマーケティングを担当するDKSHマーケットエクスパンションサービスジャパンの松田好未氏は見る。

 日本で発売するのは、「ラミー本社にとって、漢字圏はドイツ語圏に次ぐマーケットとして重要視されているため」(松田氏)。もともと、ラミーはドイツ本国やその近隣のオーストリアやスイスで人気を博すが、それに次ぐのが日本や中国の漢字圏だった。そこに新たな市場の拡大を狙った。

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ペン先とその構造に漢字の書きやすさの秘密が

 漢字ニブの最大の特徴は、漢字の書きやすさに特化した新しいニブ(ペン先)を採用したことだ。ニブは素材や形状によって書き心地に大きな影響を与えるといわれており、万年筆の重要なパーツの一つ。漢字ニブは、従来のニブと比べてペン先が細長くえぐられていて柔軟性が高い。筆圧に応じてペン先が変化しやすいため、漢字のはねやはらいが表現しやすい構造になっている。

 球形のペンポイント(ニブの先端に付いている小さな球)も、まったくの別物だ。漢字ニブのペンポイントは職人がV字状に研磨しており、ペンを持つ角度によって紙と先端の当たり方が変化する。これにより、筆記方向によって線の太さが変わるようになっている。

従来の「ラミー サファリ」のニブと並べてみた。従来のもの(左)に比べ、漢字ニブ(右)は先端に向けてえぐられたような形になっている。このえぐれが、ペン先に柔軟性を与えると同時に、筆記部分を見やすくしている
従来の「ラミー サファリ」のニブと並べてみた。従来のもの(左)に比べ、漢字ニブ(右)は先端に向けてえぐられたような形になっている。このえぐれが、ペン先に柔軟性を与えると同時に、筆記部分を見やすくしている
従来のサファリ「F(細字)」のニブのペンポイントの拡大写真。ペンポイントはほぼ球形になっている(左)。右は、漢字ニブのペンポイントの拡大写真。この形の違いが、筆記方向によって字幅を変化させている
従来のサファリ「F(細字)」のニブのペンポイントの拡大写真。ペンポイントはほぼ球形になっている(左)。右は、漢字ニブのペンポイントの拡大写真。この形の違いが、筆記方向によって字幅を変化させている

 ペンの軸は、これまで3度ほど限定で出している白軸に赤のクリップ(毎回細部は微妙に違う)。日本を思わせるカラーとして人気のデザインだ。素材のスチールにPVDコーティングを施し、黒く光る漢字ニブが映えるようにしてある。ニブには、いま中国ではあまり使われない繁体字の「漢」という文字が刻印されている。これは、長い歴史を持つ手書き文化に敬意を表し、昔から使われている伝統的な字体を使ったのだという。

漢字ニブには「漢」の文字が刻印されている。白の軸とのコントラストも美しい
漢字ニブには「漢」の文字が刻印されている。白の軸とのコントラストも美しい

実際、漢字の書き心地はどうだったのか

 本体のパーツは従来のサファリ同様なので、書き味の違いは漢字ニブから来るものといえる。実際に試すと、初心者でもすぐに分かるほど文字が書きやすい。はねやはらいなどの右から左、下から上への動きでもペン先が引っ掛からないため、次の線への移動がとてもスムーズなのだ。筆圧に応じて線幅も変わるので(ただし、筆圧の掛け過ぎには注意)、同じ漢字でもさまざまな表現が可能だろう。

プロダクトデザイナーの秋田道夫氏に試し書きをしてもらったところ「これは欲しくなる。字がキレイになった気がする」とコメント
プロダクトデザイナーの秋田道夫氏に試し書きをしてもらったところ「これは欲しくなる。字がキレイになった気がする」とコメント

 漢字ニブを使った製品は、21年に中国の代理店が発案し、ドイツ本社で製品化。その後、台湾、香港、日本のほか、漢字圏ではないタイ、米国などに広がっている。漢字ニブのグローバル市場での呼び方は「Cursive nib」。つまり「筆記体ニブ」で、この書きやすさと、独特なデザインのペン先は、幅広い文字に対応するものなのだ。

 「SNS(交流サイト)での反響や問い合わせも多く、少し驚いている。今後も、漢字ニブを使った別の製品を検討したい」と松田氏。国産メーカーとはまた違った形での「日本語が書きやすい万年筆」の選択肢が増えたこと、それがとても優秀だったことが何よりうれしい。

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