ソニーがゲーミングブランド「INZONE」(インゾーン)を立ち上げ、ゲーミング周辺機器市場に参入する。2022年6月29日に第1弾製品としてゲーミングモニター2製品とヘッドセット3製品を発表。ソニーが強みとする映像技術や音響技術を活用したもので、市場の中でもハイエンド向けの製品になる。

ソニーのゲーミングブランド「INZONE」によるモニターとヘッドセット。ソニーの強みである映像技術や音響技術を活用したハイエンド向けの製品だ
ソニーのゲーミングブランド「INZONE」によるモニターとヘッドセット。ソニーの強みである映像技術や音響技術を活用したハイエンド向けの製品だ

 ゲーミングブランド「INZONE」は、PCでシューティングゲームやRPGを楽しむゲーマーが主なターゲットだ。ソニーが目指すのは、ユーザーに「圧倒的な没入感」と「爽快な勝利」を提供することだという。それを支えているのは、ソニーがこれまでテレビやオーディオ機器で培ってきた技術だ。

ブラビアの技術を生かしたゲーミングモニター

 ゲーミングモニターの2製品は、いずれも27型のIPSパネルを使った製品だ。同社の薄型テレビ「BRAVIA」シリーズのノウハウを生かした色域の広さ、10.7億色の色深度、高いコントラストによる高い画質で没入感を高めた。残像感が少ない1msの応答速度、表示の崩れやカクつきを防ぐVRR(可変リフレッシュレート)やNVIDIA G-SYNC Compatible対応などの機能を備える。

ソニーの27型ゲーミングモニター「INZONE M9」。「INZONE M3」もデザインはほぼ共通だ
ソニーの27型ゲーミングモニター「INZONE M9」。「INZONE M3」もデザインはほぼ共通だ

 三脚式のスタンドも特徴で、モニター周囲の自由な位置にキーボードやマウスを配置しやすい。接続ケーブル類は、邪魔にならないように支柱部分に収納できる。また、PCソフト「INZONE Hub」で各種設定を一覧表示して変更でき、アプリごとに画質モードを保存できる。

 「INZONE M9」は4K(3840×2160ドット)の解像度を持つ高解像度モデルで、リフレッシュレートは144Hz。LEDバックライトを液晶パネル下に配置し、映像全体を小さいブロックに分けてコントロールする「直下型LED部分駆動」が特徴で、暗所のつぶれや明るい部分の白飛びを減らした。22年7月8日発売で、実勢価格は15万4000円前後の見込み。

スタンドは三脚式。高さや角度調整が可能で、モニターの下のスペースにキーボードやマウスを配置しやすく、モニター周囲を広く使える
スタンドは三脚式。高さや角度調整が可能で、モニターの下のスペースにキーボードやマウスを配置しやすく、モニター周囲を広く使える

 「INZONE M3」は、リフレッシュレート240Hzの高リフレッシュレートモデルだ。解像度は1920×1080ドットで、バックライトには一般的なエッジ型LEDを採用する。年内発売予定となっている。

 INZONE M9で、実際にシューティングゲームのデモを体験してみた。ダンジョンや洞窟内部の暗所が続くシーンだったが、同じ価格帯の他社製ゲーミングモニターでは暗すぎてほとんど見えない部屋の隅、壁際、洞窟の奥などがINZONE M9でははっきりと視認できた。これなら敵をいち早く発見できるし、落ちているアイテムなどを見逃すことも減りそうだ。また明るい部分の白飛びが抑えられており、グラフィックスの細部まで判別しやすかった。より高い没入感が得られるだろう。

敵の接近が分かるゲーミングヘッドセット

 ゲーミングヘッドセットは「INZONE H9」「INZONE H7」「INZONE H3」の3製品で、ソニーの360立体音響技術を活用した立体音響が特徴だ。

 通常なら2chに圧縮される音声信号をPCソフトでゲーム本来の7.1chに再現する立体音響バーチャライザー、個人の耳に合わせて聞こえ方を補正する技術、爆発音などの臨場感を高めるダクト形状、ハウジング内部の音響構造を左右対称にして音の定位感を高めたことなどにより、例えばFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)において、対戦相手の位置や距離を把握しやすくなっている。

 長時間快適にプレーできるように側面から締め付ける圧力を弱めたり、イヤーパッドの接する面積を増やして圧力を分散させるなど、装着感にもこだわっている。いずれも22年7月8日発売。

ソニーの音響技術を生かしたゲーミングヘッドセット、「INZONE H9」(左)、「INZONE H7」(中)、「INZONE H3」(右)
ソニーの音響技術を生かしたゲーミングヘッドセット、「INZONE H9」(左)、「INZONE H7」(中)、「INZONE H3」(右)

 「INZONE H9」は、ノイズキャンセリング機能を搭載した最上位モデル。プレーに使用するPCのファンやエアコンの音といったノイズを抑えることで、よりゲームの世界に没頭できる。同社の高級ノイズキャンセリングヘッドホンであるWH-1000Xシリーズの技術を生かしたもので、外音取り込みも可能。イヤーパッドの素材はWH-1000Xシリーズ最新モデルと同じソフトフィットレザーを採用し、快適性を高めた。

 Bluetoothと2.4GHz帯の2通りのワイヤレス接続に対応する。例えばゲームをプレーするPCとは2.4GHz帯で、仲間とチャットするスマホとはBluetoothで同時に接続し、ゲームをしながらチャットすることもできる。ハウジングにあるボタンで、ゲーム音とチャットの音量バランスを簡単に調整可能だ。実勢価格は3万6000円前後の見込み。

ノイズキャンセリング機能を搭載し、ワイヤレス接続に対応したゲーミングヘッドセット「INZONE H9」
ノイズキャンセリング機能を搭載し、ワイヤレス接続に対応したゲーミングヘッドセット「INZONE H9」

 「INZONE H7」もBluetoothと2.4GHz帯の2通りのワイヤレス接続に対応したモデル。ノイズキャンセリング機能は搭載していない。イヤーパッドの素材はナイロン。実勢価格は2万9000円前後の見込み。「INZONE H3」は有線接続モデルで、実勢価格は1万2000円前後の見込み。

「INZONE H7」は、ノイズキャンセリング機能とイヤーパッドの素材以外はほぼINZONE H9と同じ機能を備えたモデル
「INZONE H7」は、ノイズキャンセリング機能とイヤーパッドの素材以外はほぼINZONE H9と同じ機能を備えたモデル
有線接続の「INZONE H3」。3製品の中では低価格だが、特徴である立体音響技術に対応している
有線接続の「INZONE H3」。3製品の中では低価格だが、特徴である立体音響技術に対応している

 実際に、INZONE H9でFPSのデモを体験してみた。敵が自分の周囲を周りながら撃ってくる状況で、INZONE H9ではその発砲音がする方向の変化がはっきりと把握できた。同じ価格帯の他社製ゲーミングヘッドセットで同じデモを体験してみると、こちらは左右のどちら側にいるのかといった大まかな把握しかできなかった。音だけで相手の位置を把握できるINZONEのヘッドセットは、FPSなどでプレーを有利にしてくれそうだ。

得意分野を生かしてハイエンド分野に参入

 ソニーがゲーミング周辺機器市場に参入したのは、eスポーツの拡大と新型コロナウイルス禍の影響が大きい。ソニーの調べによると、国内のPCゲーマーは現在500万人。19年以降ゲーミング周辺機器市場は大きく拡大しており、23年にゲーミングモニターの国内市場は19年の約6.5倍に、ゲーミングヘッドセットは約2.5倍になると見込んでいる。また、国内PCゲームの人気ジャンルはRPG、シューティングゲームで、ゲーミング周辺機器購入に際して興味のあるブランドとしてソニーを挙げる人が多いという。

ソニーの調べによる、ゲーミングモニターとゲーミングヘッドセットの市場推移。伸び率のピークは過ぎたが、それでもさらに伸びが期待できるという
ソニーの調べによる、ゲーミングモニターとゲーミングヘッドセットの市場推移。伸び率のピークは過ぎたが、それでもさらに伸びが期待できるという

 こうした市場の拡大予測と、ソニーブランドへの期待感が参入の後押しとなった。ゲーミング周辺機器の中でもゲーミングモニターとゲーミングヘッドセットに参入したのは、自社のノウハウを活用でき、人気ジャンルであるRPGやシューティングゲームのユーザーにアピールしやすいとの考えからだ。

 ゲーミング周辺機器は価格の幅が広い。例えばゲーミングモニターは2万円前後からあり、ゲーミングヘッドセットは1万円を切る製品が多い。INZONEブランドの製品は高価格帯の製品だ。しかしPCゲームのコアユーザー層はゲームを快適にプレーするための投資を惜しまない傾向にあり、そうした層をターゲットとしている。モニターとヘッドセットを体験したが、いずれも同じ価格帯の他社製品と比べて見え方や聞こえ方が明確に違っていた。ゲームを有利に進めるのに役立ちそうな製品であり、より快適なプレーや、対戦相手に勝つための道具を求める層にアピールできそうだ。

 ソニーはINZONEブランド立ち上げとともに「Evolution Championship Series(EVO) 2022/2023」など、3つの世界的なeスポーツリーグのスポンサーになることも発表した。ただ高性能な製品を発売するだけではなく、ゲーミング市場に本格的に関わっていこうというソニーの本気の表れだろう。

(写真提供/ソニー、写真/湯浅英夫)

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