この2年間、新型コロナウイルス禍で常態化していたマスクから解放される兆しが見えてきた。それによりメークのトレンドはどう変わるのか。コスメ、化粧品、美容の総合情報サイト「@cosme(アットコスメ)」の「ベストコスメアワード」から分析されたキーワードは上半期が「リハビリ」、下半期が「リベンジ消費」だ。
安心求めてリニューアル商品支持
コスメ、化粧品、美容の総合情報サイト「@cosme(アットコスメ)」を運営するアイスタイル(東京・港)は、2022年6月9日に「@cosmeベストコスメアワード 2022 上半期新作ベストコスメ」を発表した。総合大賞を獲得したのはファンケル「マイルドクレンジング オイル」だった。
「@cosmeベストコスメアワード」は@cosmeのメンバーから寄せられたクチコミ投稿をベースに、今、生活者が支持している商品を表彰するアワード。中でも上半期新作ベストコスメは、その年の「新人賞」ともいえるもので、今回は21年11月1日~22年4月30日までの半年間に発売された新商品3605アイテムが対象となった。アイテム数は新型コロナウイルス感染症流行の影響を受けつつも例年並みだったという。
総合大賞になったマイルドクレンジングオイルは、1997年にファンケル初のクレンジング剤として誕生し定期的にリニューアルを重ねてきたロングセラー商品だ。今回7代目となったこの商品が選ばれた理由を、アイスタイルの吉松徹郎社長は「社会に様々な不安要素がある中、失敗したくない、安心して買いたいという心理が働いたようだ」と解説。
吉松社長によれば、支持されている商品のリニューアルは、既存ユーザーから「要望に応えていくための企業努力」と捉えられる傾向があるという。実際、今回ベストコスメの1~3位に選ばれたのはすべてリニューアル商品だ。吉松社長は「ユーザーとの関係が強いブランドが選ばれたことは素晴らしい」とし、「@cosmeではブランドとユーザーとの出合いをWeb、オンライン/オフラインともに提供していく」と続けた。
3人に1人はメークが古くないか不安
発表会後に行われた解説会に登壇した@cosmeリサーチプランナーの西原羽衣子氏は「画期的な商品ではなくリニューアル品が選ばれるのは、生活者の不安に思う気持ちが外せないと考えている」とした。
マイルドクレンジングオイルについては、「メークをしていない日でもクレンジングをすることで得られるスキンケア効果についてのクチコミが、リニューアル前の5倍程度出現している」(西原氏)という。
「『毛穴汚れ』は保湿に並ぶ悩みと言ってもいいくらいのホットワードで、ニーズは年々高まっている」(西原氏)。この点、マイルドクレンジング オイルはメークなどの油性の汚れだけでなく、角栓や黒ずみを落とす機能があるとうたわれてはいる。しかしファンケルはリニューアルに際し、この点の訴求を強めたわけではないそうだ。変化があったのはクチコミのほうで、コロナ禍でメークをしない、あるいはナチュラルなメークで済ませる日が増えた生活者が、同商品がこれまで培ってきた「素肌に良い」という評価をバックボーンに、クチコミを広めていったことが考えられるという。
また22年上半期の総評として、クチコミにおいて「コロナ禍」「マスク」というワードが減少していることを挙げ、新型コロナ収束後の生活をイメージしたり、メークをする機会が増えたりといった変化が生じてきていると分析した。
一方で、外に出たい、日光を浴びたいという欲求を高めながらも、「新型コロナ流行以降、2年以上かけてマスク生活に慣れてきた現状において、生活者はスムーズにマスクのない生活に戻ることに不安を抱えている。アンケート(※1)によれば、3人に1人程度は自分のメークが古いもしくは合っていないのではないか不安になると答えている。よって明日からすぐにマスクを取る生活になるかというと、難しいだろう」(西原氏)と予測。急激にコロナ禍前に戻ることはなく、不安な気持ちを少しずつ解消しながら日常に戻っていく、「日常に向けてのリハビリ期」に入るのではないかとした。
「アホ毛」対策商品が高評価
このリハビリ志向を表す商品が「ニュアンサー」だと西原氏。例えばベストチーク1位になったアディクションの「アディクション ザ ブラッシュ ニュアンサー」は2、3回、頬の上に重ねることで色付く程度のチーク。またリップやアイシャドーに関しても、「ちょい足し」商品が出てきている。こうした商品には、徐々に色味を出していきたい、今自分が使っているアイテムを生かし、濃さを調節しながら、マスクなし生活に備えていこうという意図もあるようだ。
その他の気になるキーワードとして、@コスメ リサーチプランナーの原田彩子氏は「アホ毛(髪の表面にピンと立ってしまうような短い毛や、うねりが出ている短い毛など)」を挙げた。「梅雨に限らず1年中投稿されるようになったワード。同様に『前髪』も前年より出現率が10%増えたワード。こうしたことから、髪については毛先から顔周りへと関心が変化しているといえる」(原田氏)。
商品としても、アホ毛やおくれ毛、前髪を簡単にまとめられる&honey(アンドハニー)ブランドの「&honey Melty」や、おでこに前髪を貼り付け、しっかりキープできるウテナ マトメージュの「前髪グルー」といった商品が出てきている。
「コスメのリベンジ消費」を予測
今回のアワードでは、新企画「@cosmeベストコスメアワード 2022 下半期トレンド予測」も発表した。選出基準は「@cosmeに投稿されたクチコミの中で出現率が優位に上昇したワード」、JR原宿駅前の「@cosme STORE/@cosme TOKYO(東京・渋谷)での売り上げなどの分析」「@cosmeユーザーへの意識調査」「世の中の関心ごと」「@cosmeの美容プラットフォーマとしての知見」で、選ばれたトレンド予測のキーワードは下記の5つとなる。
- リハビリから「リベンジ」へ
- アンプルスティック
- サステナ買い
- フリースタイル眉
- だれでもコスメ
「リハビリから『リベンジ』へ」は、リベンジ期だった上半期に対し、下半期はリップやチークなどの売り上げも回復し、本格的にメークを戻していく傾向を示す。また22年6月10日からは訪日外国人受け入れが条件付きながら解禁。@cosmeメンズビューティアドバイザーの村上宏明氏は、化粧品はコロナ禍前からインバウンド需要が高い商品カテゴリーだったため、「コスメのリベンジ消費」が加速するのではないかという。
「アンプルスティック」はビューティートレンドが韓国から輸入される時代ならではの商品で、アンプル=美容液、つまり使いやすい形状(スティックやスプレーなど)のスキンケア化粧品のこと。@cosme編集部の尾崎舞子氏は「アンプルスティックは、ドラッグストアやバラエティーストアでの展開が増えている。今後さらに広がると思っている」という。
「サステナ買い」は言葉の通り、化粧品選びの指標ともいえるもので、例えばリサイクル素材を使用したコンパクトケースや、環境に配慮したパッケージ、あるいはサステナブルなコンセプトを持つ商品を購入すること。西原氏は「@cosmeのメンバーは20代、30代女性がメインだが、コロナ禍で家にいる時間が長くなったことが、SDGs(持続可能な開発目標)のことを勉強する、知識を得るのにいい方向に働いたのではないか」と分析した。今は商品の包装や容器の印象が気に入って「パケ(パッケージ)買い」をしている層も、良い品質の商品が2つ並んでいたら、よりSDGsへの取り組みが明確なメーカーの商品を購入するようになるのではないかという。
眉で「自分らしさ」を表現する
「フリースタイル眉」はマスク生活を経て関心も注目度も高まった眉が、「自分らしさ」を表現するパーツとなることを予測するもの。村上氏によれば「眉は、セオリーはあるけれど自分に合った形やカラーについて、悩んでいる人は多い」。例えば@cosme TOKYOでのアイブロウの22年上半期売り上げは、前年同期比209%と大幅にアップ。以前は形や太さに一定の流行のようなものがあったが、今後はカラーを入れることを含め、自分らしさを表現するパーツとして、「フリースタイル」になっていくことが考えられる。
最後の「だれでもコスメ」は性別も年齢も肌色も問わないコスメという意味で、いうなれば「ジェンダーレス」をさらに進めていく意味合いがありそうだ。今後はジェンダーや年齢という枠を超えて「だれでも似合う」商品が増加し、支持を集めていくのではないかと西原氏は言う。
良い選択をしていることへの満足感
その上で西原氏はジェンダーレスというワードそのものはすでに受け入れるべきものになっているという前提で、「生活者が第一に考えるのは、ジェンダーレスかどうかよりも、使ってきれいになるかどうか」だと説明した。
「@cosmeの女性メンバーに関していえば、自分が使っているものを、周りの人たちがいいと言ってくれることは心地よいことと捉える傾向がある。よって男性でも女性でも、自分のパートナーが共感してくれることが、化粧品への価値以上に、自己肯定感を得ることにつながると考えられる。また、自分だけが楽しんでいた化粧品をパートナーが使用することで、コスパが高くなる。自分がいいと思うものを男性もいいと思っているとなれば、化粧品の価値の底上げにもつながるのではないか」(西原氏)
つまり、「良い選択をしている」ことで得られる満足感が重視され、今後さらにジェンダーレスな商品は出てくるのではないかと考えられる。「さらに言えば、YouTuberやインフルエンサーコスメといった『共感コスメ』の存在も大きくなっている。何を使ったらいいか迷っている人たちが、自分の尊敬する、あるいは気に入っているYouTuberやインフルエンサーがいいと言ったものを使うといったことが起きている」(西原氏)
@cosmeの場合、男性ユーザーは少ないが、それでも男性ユーザーの多くがコスメを選ぶ際の相談相手として、相手の性別は問わないという人が多いことが、同社のアンケートで分かっているという。「男性に聞く、女性に聞くという性別へのこだわりがない方が多くなったと感じている。以前行ったアンケートではケアの“先生”として男性が女性に意見を求めることにも抵抗がないし、逆に女性もニオイケアや皮脂ケアについては男性に相談すると答えている」(西原氏)