米アップルは米国時間の2021年6月6日、毎年恒例の開発者会議「WWDC22」を開催した。基調講演では22年秋リリースのiPhone向けOS「iOS 16」を中心に、アップルウオッチやMacの新機能を紹介した。仕事から日々の生活まで、同社の機器とサービスを網羅的に広げ、利便性を高める姿勢を改めて示した。
WWDCはiPhoneアプリなどソフトウエアの開発者に向けたイベント。iPhoneの「iOS 16」やApple Watchの「watchOS 9」、Mac用の「macOS Ventura」といった22年秋に登場する基本ソフトの新機能を2時間にわたり紹介していった。まずはiOS 16の紹介からだった。モバイル機器が備えるセンサーを活用し、多彩なサービスやアプリを生み出すという動きは目新しいものではないが、まだ発展の余地が広がっていることを改めて示した。注目の新機能を紹介していこう。
小売りのビジネスに関する機能では決済サービス「Apple Pay」関連の説明があった。「Tap to Pay」は、小売店が電子決済端末としてiPhoneを利用できる機能。追加のハードウエアを必要とせず、小売店側のiPhoneに、顧客がタッチ対応のクレジットカードやウオレットアプリを入れたスマホをかざすことで決済ができる。既に一部で利用可能となっており、今後は全米の小売店で利用を拡大していくという。新機能の「Apple Pay Later」も紹介した。Apple Payのウオレットアプリを通して分割払いができるようにするというもので、ShopifyをはじめとするECプラットフォームで利用できるようになる。
家庭内のデータ連係もユーザーの生活を便利にするために必要となる。家電とスマホをつなぐスマートホームの実現に向けては「Matter」という新規格の準備を進めている。スマホを使って外出先から玄関の鍵をかけ直す、帰宅時にちょうどよい温度になるようにエアコンの温度を調節するといったものだ。そうした使い勝手を実現できる機器や家電はこれまでにも登場しているが、メーカーが異なると互換性がないことも多かった。Matter対応機器であれば、プラットフォームの壁を超えて家電を操作できるようになるとする。
生活関連では、処方薬やサプリメントの情報を管理する「メディケーション」アプリの開発にも取り組んでいる。iPhoneのカメラを使って薬のラベルをスキャン、定期的に薬を飲んだかをリマインドする、副作用に関する情報やアラートを表示するといった機能がある。プライバシーを守るため、健康データはデバイス上で暗号化され、ユーザーの許可なしに共有されることはないとする。
幅広の車載ディスプレーに情報表示
移動も人々の生活に欠かせない要素。最近の車は通信機能やタッチ操作画面を備え、スマートフォンと同様の情報端末として進化している。もちろんアップルもその分野で機能を強化しており、iPhoneやiPadの感覚で車の各種操作ができる車載用パネル「CarPlay」の次世代版を見せた。ハンドル前から助手席まで伸びる長い画面に対応しており、運転スピードや回転数、ナビの案内、天気やオーディオ関連など多彩な情報を表示できるようにしている。
ハードウエア関連ではアップル製チップの最新版「M2」を発表した。電力効率を高めており、従来版のM1と比べて同じ電量消費量で18%高い性能が出る。他社のノートパソコン用チップと比較すると、CPUとM2は同じ消費電力で約2倍高速なパフォーマンスを発揮できるとする。このM2チップを搭載した「MacBook Air」「MacBook Pro」を22年7月から出荷開始すると発表した。
新しいmacOS「Ventura」については、複数の仕事を進めているときに、関連する複数のウインドウをまとめて集約し、それらのウインドウ群を切り替えながら効率的に作業できるようにする「Stage Manager」という機能を紹介した。
アップルのイベント前には、何か驚きの製品が登場するのではないかと多くの噂が流れる。今回もiPhoneの次期モデルや、VR(仮想現実)かAR(拡張現実)のゴーグルが発表になるという臆測もあった。蓋を開ければ、同社のファンやウオッチャーの予想を超えるハードウエアが登場したわけではなかった。
講演内容を見ると、日々の生活から仕事に関するものまで、アップルの機器を通してユーザーのあらゆるデータを網羅的にサービスに取り入れようとしていることが分かる。その点では米グーグルの「あらゆるデータを集約して便利に活用できるようにする」という方針にも重なる。今回は話題性というよりも、本来の趣旨に沿ってiOSやMac OSを着実に進化させ、新たなサービスやビジネスを生み出す土壌となる技術を説明したという格好だ。
21年10月に米デトロイトでiOSの開発者アカデミーを開設するなどの取り組みで「私たちの開発者コミュニティーは3400万人を超える規模に成長した」とティム・クックCEO(最高経営責任者)。今後も開発者の支援を続け、アプリ市場を活性化させる意向を示した。
(写真提供/米アップル)