三井不動産は2022年5月27日から6月19日まで、デジタルアートの展示会を開催する。東京・日本橋に開設するギャラリーに加えて、同期間にアクセス可能なWebサイト上のバーチャルギャラリーや、AR(拡張現実)体験アプリを展開。リアル、デジタル、ARといった場の魅力をいかに最大化させていけるかを探る。

三井不動産は2022年5月27日から6月19日まで、デジタルアートの展示会を開催する
三井不動産は2022年5月27日から6月19日まで、デジタルアートの展示会を開催する
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 スーツを着て、顔に能面をはめた男性が目の前から歩いてくる。スマートフォンの画面に視線を落とし、こちらに気付く素振りもない。その両隣には、セーラー服の女性や、緑色のジャージー姿の男性もおり、彼らも一様に能面をつけている――。

 これは、三井不動産が手掛けるデジタルアートの展示イベント「クリエイター特区」のAR体験アプリを起動すると、スマートフォンの画面を介して目の前に現れる光景だ。

AR体験
福徳の森エリアではアプリを通じてAR体験ができる
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 同イベントは2022年5月27日から6月19日まで開催され、東京・日本橋に開設した「“UN/BUILT”ギャラリー」とWebサイト上でデジタルアートを鑑賞することができる。イベントに合わせて、日本橋の福徳神社やコレド室町と一体になった福徳の森エリアや、仲通りで前述のような体験ができるARアプリも提供する。

 イベントを手掛ける三井不動産は21年、創立80周年を迎えた。その記念事業の1つとして、「未来特区プロジェクト」を立ち上げた。そこでは、都市の機能を「生存」「コミュニケーション」「文化」という3つのテーマに分けて解釈している。

 文化からのアプローチとして取り組むのが、クリエイター特区だ。リアルの場として日本橋に開設したギャラリー、デジタルの場としてWebサイト上のバーチャルギャラリー、そしてリアルとデジタルの融合の場として、福徳の森で体験できるARアプリを用意。「これらの場でアートの展示をしたらどうなるのかを実験する試み」と、三井不動産ライフサイエンス・イノベーション推進部イノベーション推進グループの朝比奈宏グループ長は説明する。

リアル、デジタル、ARを相互に行き来

 では、それら3つの場ではどのような展示を行うのか。まずリアルの場では、日本橋のビルの1フロアにてデジタルアート作品を展示する。ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズを手掛けた上国料勇(かみこくりょう・いさむ)氏や、コンセプトアーティストの富安健一郎氏ら10人のアーティストの作品が並ぶ。展示作品を紹介するパネルには、2次元コード(QRコード)も用意され、そこからNFT(非代替性トークン)マーケットプレイス「OpenSea」にアクセスして作品を購入することもできる。

 「リアルの場にいてもデジタルの体験もできるようにした」と朝比奈氏。会場には、デジタルアートを展示するのに加えて、NFTの売買方法を説明したパネルやバーチャルギャラリーの体験ができるエリアも設けて、デジタルアートに初めて触れる来場者も楽しめるよう工夫した。もちろん、一般的なギャラリーと同様、アーティストを招いたギャラリートークも用意しており、アーティストと交流する機会もある。

デジタルアート(写真上)。二次元コードから購入もできる(写真下)
デジタルアート(写真上)。2次元コードから購入もできる(写真下)

 会場での展示を「ミライ特区プロジェクト」のWebサイトで鑑賞できるようにしたのが、バーチャルギャラリーだ。東京国際工科専門職大学とNHKアートが開発した。「新型コロナウイルス禍において、オンライン上で人が集まるのも当たり前になりつつある。リアルの場をバーチャルに落とし込むとどのように見えるかを検証する」と朝比奈氏はその狙いを語る。

バーチャルギャラリー
バーチャルギャラリーの様子。会場のギャラリー空間を撮影したデータを基に、デジタル空間上で再現している
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 さらに、リアルとデジタルの融合の場として設けたのが、ARによる体験だ。イベントに合わせてARアプリを用意しており、ユーザーは福徳の森や仲通りでAR体験をすることができる。例えば、アプリを起動し、福徳の森の地面をスマートフォンの画面から読み込むことで、AR映像が現れる。

 冒頭で紹介したのは、その1つである「能ミュージック、能ライフ」という作品。スマートフォンの画面をのぞき込む現代人の顔を能面として捉えて表現した。今回ARの開発を手掛けた、AR開発ユニット「AR三兄弟」の川田十夢氏は、「本来、劇場で鑑賞するはずの能楽が、日本橋の街にARとして現れる。そうした、場所とテクノロジーの接点を作ってみたかった」と語る。そのほかにも、約500案の中から採択されたアイデアとして、日本橋にまつわるクイズができるARも用意している。

 リアル、デジタル、そしてリアルとデジタルの融合の場としてのAR。これら3つの場で同時にイベントを開催するのが、「クリエイター特区」の大きな特徴だ。「リアルの会場に来て、そこからデジタルの場であるWebサイトにアクセスして作品を購入するといった、相互的な体験をすることもできる。街と組み合わせてAR体験もできる」と朝比奈氏は話す。

 「当社としては、これまでも『建物をつくる』といったハード面だけでなく、その場にいる人たちの暮らしをどうやって充実させていくかを考えてきた。今回の取り組みもその延長線上にあり、いかに場の魅力を最大化させられるか検証していく」と朝比奈氏。リアルだけでなく、デジタルやARといった場にも目を向けることで暮らしの幅が広がっていきそうだ。

(写真提供/三井不動産)