ヘルステック企業のリンクアンドコミュニケーション(東京・千代田)は、PHR(パーソナルヘルスレコード)の管理から健康アドバイスまでを一気通貫で提供できるサービスを開始した。AI(人工知能)健康アプリ「カロママ プラス」を刷新したもの。ユーザーが日々記録するライフログを基に、AIコーチである「カロママ」がその人に合ったアドバイスをしてくれる。こうしたアプリを通して、自身のPHRを個人が管理、活用できる社会を目指すという。
少子高齢化が急速に進む日本。2025年には人口の4分の1が75歳以上となり、医療費は約54兆円に達すると予想されている。健康上の制限がなく生活できる「健康寿命」をいかに伸ばすかは、今や国家的な課題だ。そんな中、ヘルステック市場は、近年急速に成長している。その市場規模は、17年に2055億円だったものが、22年は3000億円に達すると見込まれており、この5年で約1.5倍になる計算だ。
成長するこのヘルステック市場において、AI健康アプリ「カロママ プラス」を提供するのがリンクアンドコミュニケーションだ。企業や自治体、スポーツクラブ、小売業などと提携し、ユーザー数を増やしている。「導入企業は、すでに6000社を超え、健康経営銘柄の常連企業も多い。累積利用者数は22年4月の時点でおよそ140万人弱になった」とリンクアンドコミュニケーション社長の渡辺敏成氏は語る。
カロママ プラスはユーザーが、食事や運動、睡眠時間など日々のライフログを記録していくアプリだ。そのデータを基にAIコーチである「カロママ」が、個人に合わせたアドバイスをくれる。アドバイスパターンは2億通り以上あり、不足する栄養素などを指摘し、それを補うためのレシピを提案するなど、きめ細かいアドバイスをくれるのが特徴だ。食事の写真を撮るだけでAIがそのカロリーを自動で判断してくれる機能もあり、入力の手間も軽減できる。1日の最後には、その日の摂取カロリーと消費カロリーが示され、カロママが健康スコアを100点満点で評価する。「週に4日以上利用し、健康スコアが60点以上であれば、2カ月で2~3キロほど体重が減少することが分かっている」と渡辺氏は説明する。
PHRを個人が管理する社会を目指す
「カロママ プラス」が目指すのは、こうしたダイエットアプリとしての役割だけではない。日々のライフログと共に、健康診断結果や薬の情報などの健康情報も一元管理できるようになっているのだ(契約内容や初期のコース設定によって機能は異なる)。こうした一連の健康データは、PHRと呼ばれ、近年、関心が高まってきている。
「ICTの発達によって、1日に何回も簡単にデータが取れるようになったのがその理由だ。こうした日々のデータをいかに医療に活用するかが健康維持の秘訣となるだろう」とPHR普及推進協議会代表理事 京都大学教授の石見拓氏は語る。
最近の医療は高度化してきており、単なる病気の治療から、病気の予防、早期発見、そしてさらには健康増進へとそのテーマが移動しつつある。「これまで病院や行政が保有していた医療情報を、生涯に渡って個人が保有し、自分の意思で管理できる社会を目指すべきだろう。自動体外式除細動器(AED)ももともとは医者しか使えなかったものが市民も使えるようになり、多くの心停止の人を救えるようになった。それと同様にPHRも市民が主役となって管理する意識づけが必要だ」と石見氏は説く。
カロママ プラスは、各自治体が進めるスマートシティーにも続々と導入されている。三井不動産が中心となって進める「柏の葉スマートシティ」には、20年11月に参画した。ここでは事業者間でデータを連係するプラットフォームが構築されており、カロママ プラスのパーソナルデータをNTTデータと連係させ、疾病リスクを予測、それに基づいたアドバイスを提供している。さらに、22年5月には、大阪府吹田市での「Suita サスティナブル・スマートタウン」にも導入された。近隣にある北大阪健康医療都市との連携も予定しているという。
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