issin(東京・港)が展開する体重計「スマートバスマット」が、Makuakeの公式販売ページで、発売から2日間で応援購入総額1000万円を突破した。一般販売価格1万6980円(税込み)の高価格帯、機能もシンプル、体重が非表示の仕様ながら、なぜ好調な滑り出しを見せたのか。

issinが展開する体重計「スマートバスマット」。色はグレー、グリーン、ダークグレーの3種類を用意
issinが展開する体重計「スマートバスマット」。色はグレー、グリーン、ダークグレーの3種類を用意

 ボタンやディスプレーも見当たらない、およそ横60センチ×縦40センチ×厚さ2センチの物体。表面はグレーやグリーンのシックな色でまとめられ、無機質ながらスタイリッシュさを感じさせる。初見では、これを「体重計」と認識する人は少ないはずだ。

 体重計らしからぬ見た目で注目を集めているのは、スタートアップのissinが開発した「スマートバスマット」。商品名の通り、同商品はバスマットと体重計を合体させたような生活家電だ。厚さ2センチほどの本体は、実は2段構造になっており、下の部分は体重を量るハード機器として、上の部分は天然ゴムにけい藻土(吸水作用のある化石化した天然資源)が練り込まれたバスマットとして機能する。お風呂上がりにぬれた足元を乾かしながら体重も量れる、一石二鳥なガジェットだ。

スマートバスマット。3秒間動かずに乗ると、自動で体重が計測され、アプリで計測時の体重が管理できる。一般販売価格は税込み1万6980円(5月31日時点では、Makuake上で15%割引プランなどを展開している)
スマートバスマット。3秒間動かずに乗ると、自動で体重が計測され、アプリで計測時の体重が管理できる。一般販売価格は税込み1万6980円(5月31日時点では、Makuake上で15%割引プランなどを展開している)

 購入型クラウドファンディングMakuakeでは4月7日のローンチ直後から快調な出足を切った。一般販売価格は税込み1万6980円という高価格帯、しかも測定項目も現時点では体重とBMI(肥満度を表す体格指数)のみとシンプルだ。しかしながらローンチ後の2日間で、応援購入総額が1000万円を超え、5月31日時点では2500万円を突破。日々の生活動線の中で自然に体重を量れるというアイデアが話題を呼んだ。Makuakeの目標金額も3000万円とかなり強気だ。

 開発者でissinの代表取締役を務める程涛(てい・とう)氏は、「ただ単にユニークな商品コンセプトだけが、この数字を生み出したわけではない」と語る。

数値を非表示にして女性ユーザー獲得

 前述の通り、スマートバスマットにはディスプレーがない。つまり体重計であるにもかかわらず、乗った瞬間に体重を把握できないのだ。体重計にとって肝心な数字を非表示にしたこの仕様は、一見不可解にも思える。しかし程氏は、この「『体重を表示しない仕掛け』が女性から人気を集めた」と意外な反応を語る。

 「当社のアンケート調査では、女性が体重計の使用を避ける理由として、『数字を見たくない』と答えた方が最も多かった。自身の体重を痛感するストレスから、体重計に乗らないパターンが多いと判明。気楽に使ってもらうためにあえて体重を非表示にした」

issinの代表取締役で、スマートバスマットの開発者の程涛(てい・とう)氏
issinの代表取締役で、スマートバスマットの開発者の程涛(てい・とう)氏

 ユーザーは、スマートバスマット本体ではなく専用のアプリから、量った体重を確認する。スマートバスマット本体とスマートフォンは無線LAN(Wi-Fi)で接続。スマホのアプリに計測した体重の数値や日々の増減、BMIの変化などのデータが蓄積されていく仕組みだ。

 アプリでは体重の増減が大きい際に、プッシュ通知を飛ばす。特に増減がない場合は、プッシュ通知を控える設定もできる。数字自体ではなく体重の変化を知らせることで、具体的な数字を見るストレスを軽減しつつ、体重の計測を習慣化できる。

計測のデータが記録されているアプリ。体重の変化によってプッシュ通知が来る。使い方もシンプル
計測のデータが記録されているアプリ。体重の変化によってプッシュ通知が来る。使い方もシンプル

 「例えば年1回行われる会社の健康診断も、直前だけ頑張って、終わったら結局、生活習慣も元通りになってしまう人は多いはず。瞬間瞬間だけ体重を量っても健康管理にはつながらない。日常的にさりげなく体重を量り続けることで、体重計の存在価値も上がる」

 体重計の数字を見て、減っていればその場で満足した気分になってしまう。増えていればストレスになる――。こうしたユーザーの心理を見抜き、効果的な活用法や、根本的な体重計の存在意義を問いかけたことが、ユーザーからの支持を集めた。

 測定項目を抑えたのも、ユーザーの利用シーンを踏まえたあえての選択だ。「他社の体重計には、内臓脂肪、筋肉量、骨格筋率、基礎代謝、推定骨量、体水分、部位別の測定などさまざまな機能が搭載されているが、全ての項目を使いこなす人は少ないだろう。スペックが充実していても、使われなければ元も子もない。我々は新しい機能を追加するより使い勝手を重視する」と明言する。

 こうした発想を程氏は「引き算」と表現した。既存の生活の中で使用しているバスマットを、いかに有効活用して付加価値を上げていくかを具現化したのが、スマートバスマットなのだ。

バスルームが置き場所として最適

 入浴ついでに自然に体重を量れる仕様にしたことで、体重計の利用を促進するスマートバスマット。画期的なアイデアだが、程氏はどこから着想を得たのだろうか。

 「バスマットと体重計を合体させた経緯は、体重計の置き場所としてバスルームが最適だったから。トイレの便座では座る動作が面倒、ベッドの横は邪魔、玄関は量る時間帯がまちまち、キッチンでは量る頻度が家族でバラけるなど、どこかしらしっくりこないポイントがあった」と程氏。風呂場に置くことで「裸の状態で量れる」「毎日ほぼ同じ時間に計測できる」「家族全員が使えて習慣化できる」といったメリットがある。

 程氏は実際、玄関、トイレ、寝室、キッチン、リビングなど、スマートバスマットをあらゆる場所に設置して家庭内で検証したのだという。ここにも、現実的な使い勝手を優先した程氏の思いが反映されている。

 「企画会議を行うオフィスと、実際に機器を置く家庭は全く別の環境。会議室で好感触でも、室内で検証しないと意味がない。実際に家庭内で置き場所の検証を繰り返しているとき、妻からは『邪魔!』と何度も言われて……」と程氏は苦笑い。しかしこうした妻の率直な意見が、貴重な改善策にもつながった。主婦から見て日常生活をいかに邪魔しないかが重要だと痛感したそうだ。

「妻の意見は貴重なヒント」と苦笑いしながら語る程氏
「妻の意見は貴重なヒント」と苦笑いしながら語る程氏

 ただ、風呂場に置く問題点として、入浴後は手なども当然ぬれているため、スマホを開くのが面倒という懸念もあった。そこでissinが採用したのが、本体とアプリをBluetoothではなくWi-Fiで接続する方法だ。

 「Bluetoothだと、体重計に乗るたびにスマホを開き、接続をオンにしてアプリを起動しないといけない。ユーザーにとっては2段階の作業が必要になる。Wi-Fiならスマホがなくても自動的にデータを保存できる。必要なときだけ、プッシュ通知で知らせることでアプリを頻繁に起動する必要もない」(程氏)

 また前述のアンケート結果では、男性が体重計の使用を避ける理由として「面倒くさい」と答えた人が一番多かった。置き場所や動線の配慮に加えて、使い方をシンプルにすることで、健康に無頓着な人も自然に使用できる。

健康は家族の会話の種に

 家庭内での置き場所にこだわった開発経緯からも見えるように、スマートバスマットはファミリー層を主なターゲットに設定している。その理由は大きく2つある。

 1つ目は、体重の計測が家族の会話のきっかけになってほしいと考えたからだ。「自身の健康を、家族や恋人など親身な人と共有してもらえればうれしい。息子の成長を実感したり、自分が太ったら家族から心配されたりと、スマートバスマットを通じて家庭の温かみを感じてもらえたら」

 また誰かと共有することで、親しい人の健康状態を把握でき、致命的な病気のリスクも事前に防げる可能性が高まる。程氏は以前、父親を亡くした際「事前に体重が減っていた事実に早く気づけば、父親は死を免れたかもしれない」と後悔した過去を吐露した。こうした経験からも、より親身な人とスマートバスマットを使ってほしいと思いを込める。

 2つ目は、家族など近しい人と健康状態を共有することで、健康意識も継続しやすいからだ。「コミュニケーションを通せば、運動や食事の改善のきっかけにもなりやすいし、健康意識も高まりやすい。会社の健康診断でも『みんなで頑張ろう』となれば、やる気も出る」

 スマートバスマットは、1台で8人までデータを共有できる機能もある。別々に住んでいる親族ともコミュニケーションの輪を広げられるわけだ。もちろん体重を見られたくない人のための配慮としてプライベートモードも搭載されている。

「ダイエットモード」「健康維持モード」「チャイルドモード」「プライベートモード」の4種類のモードを搭載した
「ダイエットモード」「健康維持モード」「チャイルドモード」「プライベートモード」の4種類のモードを搭載した

 妻とのエピソード、父親を亡くした後悔、家族全員が使える仕様。こうした商品開発の背景にあるストーリー性や自身の体験談を、Makuakeや自社サイトで伝えたこともヒットを後押しした。

 Makuakeの広報によれば、同社主催によるスマートバスマットの商品説明会では、説明会当日に商品を購入する人が多かったそうだ。「程氏のプレゼンや商品に対する熱量が伝わり、2日で1000万円超えを達成する初速につながった」(Makuakeの担当広報)

 スマートバスマットは6月末までMakuakeで先行販売され、その後は一般向けに展開。量販店などでの販売を予定している。今後はヘルスケア商品など、健康に関連する業界や会社と連携し、それら企業のサービスや商品の割引券を配る企画も検討中だ。フィットネスクラブやジムにも営業を行い、販路の拡大を狙う。

 程氏は「広告を打つよりも、口コミによる浸透を狙う。商品のストーリーが色濃く、日常使いしやすい商品なので、健康に気を使うユーザーからの声を拾っていけたら」と期待する。

(写真提供/issin)

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