この数日、Twitterなどインターネット上を揺るがす騒動になっている「ゆっくり茶番劇」の商標登録問題。2022年5月23日には「ニコニコ動画」を運営するドワンゴが今後の対応などを発表した。一見、企業には無関係にも思えるが、ネットで生まれ、愛されてきたコンテンツを巡る問題として示唆に富んでいる。

記者会見に登壇したドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇氏
記者会見に登壇したドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇氏

 2022年5月23日、ドワンゴ(東京・中央)は、文字商標「ゆっくり茶番劇」に関する今後の対応についての記者会見を行った。これは、YouTuberの柚葉氏が5月15日、Twitterで「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得したことを表明(商標登録6518338)、今後は商標利用者に対して年間で10万円の使用料が発生すると主張したことに起因する。

 記者会見では、多くのクリエイターが安心して創作が続けられる環境をつくるため、ドワンゴが以下の4つのアクションを実施することを発表した。

1.「ゆっくり茶番劇」商標権の放棄交渉
2.「ゆっくり茶番劇」商標登録に対する無効審判請求
3.使用料を請求されてしまった人への相談窓口の設置
4.商標登録による独占の防止を目的とした商標登録出願

柚葉氏に対して商標権の放棄など、4つのアクションを起こすことを発表した
柚葉氏に対する商標権の放棄交渉など、4つのアクションを起こすことを発表した

「ゆっくり茶番劇」とは何か

 そもそも「ゆっくり茶番劇」自体が、何か分からない人も多いだろう。「ゆっくり茶番劇」とは配信動画ジャンル・カテゴリーの一種で、「ゆっくり動画」「ゆっくり解説」「ゆっくり実況」などさまざまな派生動画が存在する。ネット上では、多くのユーザーが頭に「【ゆっくり茶番劇】」などの文字列を付けたタイトルで自作の動画をアップしている。

 いずれも音声合成ソフトを使用し、抑揚のない棒読みの音声が特徴。映像には、同人サークル「上海アリス幻樂団」が制作したゲームなどの著作物「東方Project」に登場する「博麗霊夢(はくれい・れいむ)」と「霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)」をデフォルメしたキャラクター(「ゆっくり」と呼ばれる)が登場し、掛け合いをしながら時事問題などの解説やゲーム実況を行う。

「ゆっくり」は「東方Project」のキャラクターをデフォルメして生まれたイラスト
「ゆっくり」は「東方Project」のキャラクターをデフォルメして生まれたイラスト

 無料のテキスト読み上げソフトを使い、誰にでも簡単に解説動画やゲーム実況動画などを作れることから、多くの動画コンテンツが生まれる土壌となった。

 「ゆっくり」と呼ばれるようになったのは、インターネット掲示板やSNSなどの書き込みにアスキーアートで描かれた2人のキャラクターが、「ゆっくりしていってね!!!」と言うセリフをしゃべっていたことに由来する。ゆっくりを使った動画はニコニコ動画の初期から投稿されており、約10年の歴史と80万本以上の動画作品がある。

栗田氏は「ゆっくり動画はジャンルやカテゴリーである」と説明
栗田氏は「ゆっくり動画はジャンルやカテゴリーである」と説明

 もともとは東方Projectを制作する上海アリス幻樂団、原作者のZUN氏の制作物だが、同氏らは商標権などを取っていない。ガイドラインを設け、それに従う限りは自由にコンテンツを制作できる方針を示してきた。そのことが動画に限らないさまざまな二次創作が生まれる環境をつくり、東方Projectを盛り上げてきたわけだ。

 だが、今回はそれを逆手に取り、東方Projectとは無関係の第三者が文字商標を登録。今後、ゆっくりの動画を制作し、「ゆっくり茶番劇」という文字を表記するユーザーに対して使用権を行使するとしたことから騒動に発展。ネットユーザーの批判を浴びることになった。

 これに対し、「ゆっくり動画」など多くのコンテンツをアーカイブしているニコニコ動画を運営するドワンゴが提示したのが、前述の4つのアクションだ。ドワンゴは、「ゆっくり茶番劇」は配信動画のジャンル・カテゴリーとして広く使われている文字列だとして、特定の企業や個人が独占するものでないという考えを示している。併せて、「ゆっくり茶番劇」という商標権は、ほとんどのゆっくり動画に影響しないという見解も示した。

「ゆっくり茶番劇」という商標権に対し、ほとんどの「ゆっくり動画」は影響がないとみられている
「ゆっくり茶番劇」の商標権によって、ほとんどの「ゆっくり動画」は影響がないとの見解を示した

 柚葉氏は5月16日、使用料は請求しない旨をTwitterで発言したが、同時に商標権はそのまま柚葉氏が保有することも宣言した。これを受け、ドワンゴとしては商標権を柚葉氏が持ち続けている以上、いつ使用料の徴収に切り替えるかは分からない、そのため多くのクリエイターが安心して創作できない状況にあると考え、今回のアクション提示に踏み切った。

 なお、柚葉氏が所属していたライバーコミュニティー「Coyu.Live」は、5月20日に同氏の会員資格を無期限で停止することを発表。ドワンゴの会見翌日に当たる5月24日には、柚葉氏が23日付で「ゆっくり茶番劇」の商標登録を抹消する申請を行ったことを公表した。ただ、現時点で抹消はまだ確定していない。また、その事由として、柚葉氏が「関係者などに対する誹謗中傷および名誉毀損・虚偽・捏造された情報の流布により本来の目的を全うすることが困難となったため」と説明したことも、Twitterなどでは批判の対象となっている。

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