紳士服チェーン大手のはるやま商事(岡山市)とタニタ(東京・板橋)が協業し、新サービスを開発。店舗に設置された体組成計に乗るだけで健康チェックと同時にお薦めのスーツサイズとシルエットを提案するという。2022年4月28日から「はるやま」2店舗で試験提供している。両社の狙いは?

はるやま商事の中村宏明社長と、タニタの谷田千里社長。中央に配置されているのがタニタの新技術「TANITA Body Shape Analyzer」を搭載した体組成計。体組成データから体形を推定する(撮影/桑原恵美子)
はるやま商事の中村宏明社長と、タニタの谷田千里社長。中央に配置されているのがタニタの新技術「TANITA Body Shape Analyzer」を搭載した体組成計。体組成データから体形を推定する(撮影/桑原恵美子)

体組成計に乗るとお薦めサイズ提示

 はるやま商事とタニタが新サービスを共同開発した。同サービスは、体組成データから体形を推定するタニタの新技術「TANITA Body Shape Analyzer」と、はるやま商事の商品情報を組み合わせたもの。はるやま商事の店舗に設置された専用の体組成計に顧客が乗ると生体情報が測定され、それを基に首回り、おなか回り、胸囲、ゆき丈、ヒップ、太もものサイズを推定算出(ただし太もものサイズはパネルに表示されない)。この体組成計がお薦めのスーツサイズとはるやま商事の商品シルエットまで提案する。

 これまで顧客がスーツの適正サイズを把握するためには、店舗スタッフにメジャーで測ってもらう必要があった。新サービスにより、買い物にかかる時間が短縮されるのはもちろん、非接触で計測できることから新型コロナウイルスの感染対策にも役立つ。計測は無料。

 タニタによると、気になる計測値の精度は男性スーツサイズの一致率が96.2%、女性スーツサイズの一致率が95.2%と、どちらも95%を上回っているという。

「よりお客様に寄り添った新サービスを提供をすることで、既存事業モデルに新たな価値を創出したい」と語る、はるやま商事の中村社長
「よりお客様に寄り添った新サービスを提供をすることで、既存事業モデルに新たな価値を創出したい」と語る、はるやま商事の中村社長

 はるやま商事の中村宏明社長は、「このサービスを利用することで、服選びに必要な正しいサイズと同時に、体組成情報も確認できる。ファッションをきっかけにご来店いただくお客様が、自身の健康に対して自然と意識できる環境を提供できる場にしたい」と抱負を語った。

 2022年4月28日から「はるやま吉祥寺店」(東京都武蔵野市)と「はるやま岡山大安寺店」(岡山市)の2店舗で試験提供をスタート。効果検証を経て導入店舗を拡大していく計画だ。現時点では「利用状況を基に、22年下半期には数店舗での導入を検討する」という慎重な姿勢を見せながらも、「“いける”という確信が持てたら、早急に拡大していきたい」(中村社長)と期待も寄せる。

店頭に設置した体組成計のイメージ。はだしになって乗り、両手でグリップを握って30秒ほどで測定終了
店頭に設置した体組成計のイメージ。はだしになって乗り、両手でグリップを握って30秒ほどで測定終了
測定後には健康データ(体重、BMI、体脂肪率、筋肉量、基礎代謝量)とサイズ(首回り、おなか回り、胸囲、ゆき丈、ヒップ)を表示する(写真左)。「おすすめ商品」ボタンからお薦め商品を見ることもできる(撮影/桑原恵美子)
測定後には健康データ(体重、BMI、体脂肪率、筋肉量、基礎代謝量)とサイズ(首回り、おなか回り、胸囲、ゆき丈、ヒップ)を表示する(写真左)。「おすすめ商品」ボタンからお薦め商品を見ることもできる(撮影/桑原恵美子)

はるやまが健康を標榜する理由

 はるやま商事は15年に「スーツで日本を健康にする」という宣言を掲げ、ファッションの分野から健康をサポートする商品やコンテンツなどを提案してきた。タニタとの連携は17年にスタートし、18年には共同開発した歩きたくなるスーツ「i-Suit SUPPORTED BY TANITA」を発売。はるやま店舗内にタニタの業務用体組成計を設置し、来店客が気軽に健康をチェックできる「健康チェックコーナー」を設けるなど、健康サポート施策に積極的に取り組んできた。

 はるやま商事営業本部長の神瀬(こうのせ)桂氏は「ビジネスパーソンが一番長く着ている服の一つであるスーツが、着る人のストレスを軽減し、おしゃれに健康をサポートするものとなればという願いから、健康軸のサービスを強化してきた」と語る。一方で、「なぜ衣類販売のはるやまが健康を標榜するのか」という疑問の声も多く、スーツを求めて来店する利用者に健康チェックコーナーの利用を積極的には勧めにくかったとも言う。「衣服の売り場と健康への取り組みの間に、接客導線の距離感があった」と神瀬氏。そこで、既存の事業と健康をより強く結びつけるための施策を模索して、タニタに相談。解決するツールとして開発したのが、今回の体組成計というわけだ。

4月26日に行われた発表会では、はるやま商事の中村社長とタニタの谷田社長が体組成計の計測とジャケットのフィッティングを実演。写真は中村社長
4月26日に行われた発表会では、はるやま商事の中村社長とタニタの谷田社長が体組成計の計測とジャケットのフィッティングを実演。写真は中村社長

ファッションと健康作りを融合していく

 さらに、タニタ開発部の和智湧斗氏は、「今回開発した体組成計を利用するメリットは、サイズを特定するだけではない」と付け加えた。将来的には、運動が足りていない、代謝が非常に悪いなど、体形だけでは分かりにくい利用者の健康課題も体組成計で分析。その情報を基に、より幅広い商品カテゴリーからお薦めの商品を提案することも可能だという。

 はるやま商事の神瀬氏は「体脂肪率や筋肉量の情報も得られるため、シューズ、筋トレグッズ、サプリメントなどの商品提案もしていきたい。この新サービスが衣服と健康の架け橋になる可能性になれば」と意欲を見せる。タニタの谷田千里社長も、「このサービスは、将来的にはファッションと健康作りを融合した様々なサービスと拡張していけると考えている」と期待を寄せた。

「今回のサービスは、はるやま商事とのコラボレーションにおける一つの到達点」と語るタニタの谷田社長
「今回のサービスは、はるやま商事とのコラボレーションにおける一つの到達点」と語るタニタの谷田社長

 タニタにとっては、スーツの計測を目的とした来店者に自社の製品を体験させると同時に、ファッションを入り口とした健康商品の開発にもつながる可能性がある。はるやま商事にとっては新規顧客の来店のきっかけづくりや、健康情報を基によりパーソナライズした商品の提案ができる。両社にとってWin-Winのサービスを目指す。

 市場拡大が確実な健康産業市場には、様々な異業種が参入している。スーツ販売と体組成計の融合は、この市場への切り込みを図る両社の新たな一手と言えそうだ。

(画像提供/はるやま商事、タニタ)

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