ホンダが新型「ステップワゴン」を2022年5月26日に発売する。それに先立ち、同車の世界観を表現した展示イベントをHondaウエルカムプラザ青山(東京・港)で開催した。発売目前に迫った新型ステップワゴン、チーフエンジニアに開発の狙いを聞いた。
6代目ステップワゴン、5月発売
「ステップワゴン」は、ホンダ独自のRV(多目的レジャー車)シリーズである「クリエイティブ・ムーバー(生活創造車)」に属する初代「オデッセイ」、初代「CR-V」に続く、第3弾モデルとして1996年にデビュー。当初は箱型スタイルの5ナンバーミニバンで、家族や友人と移動が楽しめる広々とした車内空間や多彩なシートアレンジなどが評価され、人気車に成長した。
6代目となる新型ステップワゴンは、標準タイプの「AIR(エアー)」とカスタムタイプの「SPADA(スパーダ)」という世界観の異なる2本立てで、ボディーは全車3ナンバーとなった。パワーユニットはハイブリッド「e:HEV」とガソリンエンジンが選択できる。SPADAは2代目ステップワゴンから歴代モデルに設定されてきたスポーティーでクールな内外装を備えるカスタム仕様で、主に男性ユーザーから支持されている。ベースとなる標準車も歴代モデルで設定されていたが、新型ではAIRというサブネームが付いた。
「はずれ席」扱いの3列目を特等席に
新型ステップワゴンの開発を指揮したチーフエンジニアであるホンダの蟻坂篤史氏は、初代も新型も家族のクルマであることに変わりはないとしつつも、「初代は対面式シートに代表されるように家族が同じ場所で一緒に過ごす時代だった。しかし家族の在り方が変化し、今は同じ空間に居ても一人ひとりが自由に過ごすのが普通。そんな付かず離れずの家族にフィットする形を目指した」と言う。
自由に過ごせる一方で、一緒に移動を楽しむ人たちが居心地よく思える空間になるようにした。例えば、車内デザインでは小さな子供が触れても痛くないように各部に丸みを持たせている。それはまるで家具の角にコーナークッションを付けるような細やかな気遣いだ。特にAIRは子供目線でも柔らかみのあるデザインに仕上げており、家族全員が親しみを感じるミニバンに仕上がっていると言えるだろう。
とはいえターゲットは家族層だけではなく、すそ野は広い。ミニバンの強みは7、8人が一緒に移動できる点でもあり、友達同士と出かける機会が多いシングルやカップルのユーザーもいる。そうした様々な人たちのニーズも考慮してこだわったのが、快適な3列目シートだ。
5人以上の移動の際に活用されるミニバンの3列目シートは、「乗り心地が悪いはずれ席」というイメージが強い。その点を改善すべく、新型ステップワゴンでは歴代モデル同様に、荷室を広げるための3列目の収納性を維持しつつ、座り心地が良くなるようシートのクッション厚を増した。さらにシートバックも長くして、自宅のソファで寛ぐ感覚で座れるように工夫している。また移動の楽しさに重要な視界にも気を配り、3列目の着座位置を高くした。その結果、「はずれ席が特等席」に生まれ変わっているという。
AIRは自宅に居るような雰囲気に
「前後2列を基本とし、後方は荷室重視。3列目はエマージェンシーシートという考え方もありだと思うが、誰もが座りたくなる3列目を目指したかった。小型ミニバンの『フリード』も3列目までしっかり作り、6人乗れるようになっている。しかし、その人数でさらに荷物を積み込む必要がある人には、ステップワゴンを選んでもらえるようなすみ分けも考えて、ステップワゴンの3ナンバー化を決断した」と、蟻坂氏は全席での快適性の重視とホンダ内のミニバンにおける役割を語る。
中でもAIRはかなり冒険をしたようだ。蟻坂氏はこう話す。
「今はとがったデザインのミニバンが多く、もちろん魅力的ですごいと感じてはいる。ただ私自身は“クルマ感”が強すぎるとも感じている。だからこそ、とがったミニバンの価値はSPADAに委ね、クルマ感を徹底的になくしたAIRを作った。『まるで自宅に居るよう』と感じてもらえる雰囲気を目指し、シートデザインもSPADAとは変えている。正直、AIRはチャレンジだ。それでもできる限り、お客様の選択の幅を広げたかったし、あえて落ち着いた顔や雰囲気を持つクルマを用意したほうが選んでもらいやすいと考えている。スパーダ路線ですべてを押し切れば、他社のミニバンと同じ土俵で勝負することになってしまう。AIRだから良いという人が多く現れてくれればと願っている」
ミニバンのトップリーダーであるトヨタ「ノア」や「ヴォクシー」は、2022年1月にフルモデルチェンジしたばかりだが、既に販売数も好調だ。いずれもデザインは押し出し感が強めで、内装は見栄え良く、シートやインパネも黒がメーン。発売を目前にした新型ステップワゴンは、押し出しの強いSPADAと、ゆるキャラ的なAIRの2路線を用意したのがある意味で新しい。
AIRに追加された爽やかな色味の外装の新色も、圧倒的な人気の黒ではなく明るい内装の訴求色も、ファミリーミニバンのリボーンを狙うものだ。快適なのはもちろん、運転も楽しさも追求したという点もホンダらしい。22年のミニバン市場は、ホンダVSトヨタとなりそうだ。
(撮影/大音安弘)