ユーザーからは手数料や金利を取らず、オンライン上での分割払いを可能にして事業者には購入率やリピート率向上に貢献する――。三方よしのビジネスモデルで注目を集めるのが、Smartpayの後払いサービスだ。成長中の市場で後発ながら存在感を示すべく、アンバサダーにひろゆき氏を起用した。

Smartpayカントリーマネージャーの大坪直哉氏
Smartpayカントリーマネージャーの大坪直哉氏

 「普通にやったらこのビジネスって失敗すると思うんですよね。この人たちはビジネスがへたで、面白そうだと思いました」

 2022年4月12日、後払い決済サービスを展開するSmartpay(東京・港)が、赤坂プリンスホテルで事業説明会を行った。上記の発言は、Smartpayのブランドアンバサダーに就任した「ひろゆき」こと西村博之氏が、同社の宣伝大使を引き受けた理由について言及したものだ。

Smartpayのブランドアンバサダーに就任したひろゆき氏。宣伝大使らしからぬ率直な発言で会場の笑いを誘った
Smartpayのブランドアンバサダーに就任したひろゆき氏。宣伝大使らしからぬ率直な発言で会場の笑いを誘った

 Smartpayが提供する後払いサービスとは、「今買って後で払う(Buy Now Pay Later)」の頭文字を取って「BNPL」と呼ばれる、ユーザーと事業者間の支払いを仲介するサービス。要するにBNPL事業者は、ユーザーの購入した商品の代金を肩代わりする形で店舗側へ入金する。現時点では主にオンラインショッピングなどで活用されている。

 BNPL全体の市場規模は年々右肩上がりを続けている。マーケティング調査会社の矢野経済研究所によれば、21年のBNPL市場は1兆890億円と初めて1兆円の大台を突破する見込み。25年には1兆9090億円にまで伸長すると推測され、22年2月からはPayPayも後払い機能を導入した。

 ではなぜ、BNPLは市場が拡大しているのか。主な要因は2点ある。

 まず1点目はクレジットカードとは別に与信枠が与えられる点だ。後払いサービスでは、各社が主にECサイトでの購買データや、不払いの履歴の有無を確認して、独自の与信枠をユーザーに与える。クレジットカードよりも柔軟な審査基準を設けることで、審査が通りづらい人や、与信チェックを避けたい人にも購買機会を広げた。またユーザーからしたら、クレジットカードとは別に与信枠が与えられるので、クレカの限度額以上の買い物をしたいユーザーにも訴求できる。

 2点目は、返済時期を自ら決めて支払いができるところだ。即時払いのデビットカードや、翌月の指定日引き落としのクレジットカードとは異なり、BNPL市場には自由に支払日を設定できるサービスもある。これにより給料日の直後に支払日を設定することも可能だ。個々の商品の分割払いなので、リボ払いのように金利が膨らんだりする心配もない。

 こうしたクレジットカードが抱える課題を解消する形で、新たな決済手段として注目を集めるBNPL市場。そうした中Smartpayは、無利息・手数料無料の3回払いを実現した。購入時に1回目の支払いを行い、その後の8週間で残りの2回分の支払いを行う仕組みだ。Smartpayカントリーマネージャーの大坪直哉氏によれば、無利息・手数料無料で3回払いができるのは日本初だという。

 だがここで、冒頭のひろゆき氏の発言を思い出してほしい。

 「(Smartpayのビジネスモデルは)普通にやったらこのビジネスって失敗すると思う」

 とてもブランドアンバサダーとは思えない歯にきぬ着せぬ言い方に、大坪氏も思わず苦笑い。だが、このひろゆき氏の本音から、後発サービスとしてBNPL市場に参入するSmartpay独自の戦略が見えてくる。

金利や支払手数料、延滞金なし

 そもそもひろゆき氏がシビアな発言をした背景には、Smartpayの「良心的すぎる」ビジネスモデルがある。

 日本で先行している大半の後払いサービスは、ユーザーから徴収するコンビニ決済や口座振替時の支払手数料や延滞料、そして加盟店側からの月額費用や決済手数料を収益としている。これらとは異なり、Smartpayはクレジットカード払いに対応しながらも、金利や支払手数料、延滞金なしと、ユーザーからは1円もお金を取らない仕組みを導入している。

発表会内でやりとりするSmartpayカントリーマネージャーの大坪直哉氏(写真左)と、フランスからオンラインで会見に臨んだひろゆき氏(同右)
発表会内でやりとりするSmartpayカントリーマネージャーの大坪直哉氏(写真左)と、フランスからオンラインで会見に臨んだひろゆき氏(同右)

 加盟店から徴収するのは決済手数料として利用金額の2%のみ(クレジットカード会社への手数料を除く)。そのうえ仮にユーザーが代金を支払わなかった場合でも、Smartpayが未納の料金を加盟店に支払ってくれる。加盟店にしてみれば、いわば“保険”のような機能も果たすわけだ。

Smartpayの決済画面。商品を選択してから購入完了まで30秒とスムーズに買い物できるのが特徴的
Smartpayの決済画面。商品を選択してから購入完了まで30秒とスムーズに買い物できるのが特徴的

 つまりSmartpayのやり方だと、既存の後払いサービスに比べて収益がそれほど見込めなくなる。そもそも後払いサービス自体が薄利多売なビジネスモデルなうえ、Smartpayは店舗側からの手数料2%のみの収益で、ユーザーが代金を支払わないリスクまで肩代わりする。国内で先行する同種のサービスも多い中、このような方法で運営は続けられるのか。そんな疑問を大坪氏にぶつけてみた。

 「長期的には利益が出せるようになる。サービスを浸透させる流れとして、まずはユーザーから1円も手数料を取らない利便性の高さで導入を促す。そこからユーザーを獲得していけば、加盟店にとっても当社のサービスを導入せざるを得ない状況になる。まずはユーザーを引きつけ、会員数の多さを武器に加盟店も増やしていく」(大坪氏)

 ある意味、現行のビジネスモデルはSmartpayを浸透させる先行投資と言える。日本よりBNPLが浸透している米国では、大坪氏の語るビジョンのように、最初にユーザーメリットを訴求し、市場規模を拡大していった背景があるそうだ。

 サービス運営の初期段階では資金も必要なため、Smartpayでは21年11月のサービスローンチ時に資金調達を実施。SMBCベンチャーキャピタル、Global Founders Capital、Shizen Capital、投資家の谷家衛氏などを引受先として原資を確保した(金額は非公表)。

 「ユーザーがSmartpayを日常使いしてくれるようになれば、加盟店の購入額やリピート率も自然と上がってくる。海外の事例を見ても、手数料が無料ならば分割払いを選択するユーザーは確実に増えていく。ユーザーの満足度を上げることで、当社のサービスを使用する頻度を上げてもらい規模を拡大していく」と大坪氏は意気込む。

無料のECセミナーで加盟店にアピール

 とはいえ、ユーザーだけ獲得しても加盟店が増えなくては元も子もない。そこでSmartpayは加盟店へのアプローチとして、主に中小の事業者向けにECサイトの購入率の向上を目的としたオンラインセミナー「ECグロースアカデミー」を開催する。

 同セミナーではカートのカゴ落ち率を減らすUX(ユーザー体験)や、SNSの有効な活用法、リピーターを増やすための施策など、業績向上につながるノウハウを伝授する。受講料は無料で、セミナーへ参加するための条件はなし。つまり、受講者が自社のECサイトにSmartpayを採用する“義理”もない。だが、事業者側にSmartpayの存在感が高まるのは間違いなく、こうした手厚い支援によって加盟店の獲得につなげようというわけだ。

ユーザーと加盟店、両方にアプローチして、サービスの拡大を狙う
ユーザーと加盟店、両方にアプローチして、サービスの拡大を狙う

 ユーザーには目先のメリットで、加盟店には手厚い施策で、サービスの拡大を図るSmartpay。22年4月12日時点で約50店舗ある加盟店を、22年内には600を目標に増やしていく予定だ。また現状では、支払い回数が3回のみだが、22年内には選択肢を増やしていく方針だ。

 冒頭でシビアな発言をしたひろゆき氏だが、「ITの会社なのに、性善説を突き詰めてまっとうに人を信じ続けているのは珍しい。他の会社がやらないことを続けるのは価値がある」と今後のSmartpayの可能性について語った。自らも同社の株主として参加していることからも、同社への期待がうかがえる。

 信頼をよりどころに思い切ったビジネスモデルで日本に進出したSmartpayが、どこまでユーザーやEC事業者に受け入れられるのか。それには知名度を上げて先行サービスとの違いを明確に打ち出し、安定した事業基盤をいかに築くかが重要になりそうだ。

(写真:酒井康治)

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