東京ディズニーリゾートに2022年4月5日にオープンした「トイ・ストーリーホテル」が、一瞬で予約が埋まるほどの人気となっている。ディズニーホテルとしては比較的安く、「特別な日に泊まりたい」という層から支持を獲得した。パークチケット確約のメリットも大きく、この勢いはしばらく続きそうだ。
ディズニーホテル初、特定IPがモチーフ
高さ約4メートルのキャラクター像を見上げたり、天井一面に広がる巨大なゲームボードを目で追ったり――。まるでディズニー&ピクサーのアニメーション映画「トイ・ストーリー」シリーズに登場するおもちゃのキャラクターになって、物語の世界に迷い込んだような気分を味わえるのが、東京ディズニーリゾート(TDR)に2022年4月5日に開業した「東京ディズニーリゾート・トイ・ストーリーホテル(以下、トイ・ストーリーホテル)」(千葉県浦安市)だ。
トイ・ストーリーホテルは、TDRが直営するディズニーホテルの一つ。子供から大人まで幅広いファンがいるトイ・ストーリーシリーズをテーマとし、16年に開業した「東京ディズニーセレブレーションホテル」に次ぐ国内5番目のディズニーホテルとして誕生した。TDRには「東京ディズニーランドホテル」や「東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ」などがあるが、特定のIP(知的財産)をモチーフにしたホテルの開業は初だ。
オープン直後から大人気で、予約が取りにくい状態が続いている。TDRの公式サイトで予約可能な2カ月先までの空室状況を確認すると、22年5月9日 午前10時の時点では、すべての日程が満室。他のディズニーホテルは、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタが1日だけ満室だった以外、どの日程にも空きがあった。
ホテルを運営するオリエンタルランドの子会社ミリアルリゾートホテルズ(千葉県浦安市)の広報担当・三嶌仁奈氏は「ディズニーホテルの中でも人気が集中しており、この勢いは夏休み明けまで続きそう」と予測する。
客室はシリーズ第1作に登場する少年アンディの部屋をイメージした。原作を再現し、壁紙には青空と雲が描かれ、おもちゃを思わせる備品もそろう。バスルームの壁にはペンギン人形のウィージーが描かれ、おもちゃの世界を一層感じることができる。一部のスタンダードルームは、国内のディズニーホテルで初めてプルダウンベッドを採用し、1部屋4人まで宿泊可能だ。
以下の表は、各ホテルの延べ床面積と部屋数の関係を示している。ディズニーアンバサダーホテルや東京ディズニーシー・ホテルミラコスタより延べ床面積が狭く部屋数が多いことから、客室を比較的コンパクトに設計したことが分かる。
TDRが5番目のディズニーホテルを開業したのは、今後のホテル需要を見越してのことだ。東京ディズニーランドは20年9月、「美女と野獣」「ベイマックス」をテーマにしたアトラクションを中心とする大規模開発エリアを開業した。しかし、現在も新型コロナウイルス対策で入場者数の制限を行っているため、いまだ体験できていない人が多いのが現状だ。
また、23年度には東京ディズニーシーに、ディズニー映画「アナと雪の女王」や「塔の上のラプンツェル」「ピーター・パン」をテーマにした新エリア「ファンタジースプリングス」の開業を予定している。アフターコロナを見据え、「宿泊して2つのパークを訪れたい意向が強まる」(三嶌氏)と考えている。
コスパの良さが人気の秘密
トイ・ストーリーホテルが人気の理由には、作品の人気に加え、ディズニーホテルとしては比較的安価でコストパフォーマンスが高いことがある。例えば、定員4人のスタンダードルームが2万8500円(税込み、以下同)からで手が出しやすい。
これまでのディズニーホテルは価格帯によって2つのカテゴリーに分かれていた。高価格帯の「デラックスタイプ」は、東京ディズニーランドホテル・定員4人4万5000円から、ディズニーアンバサダーホテル・定員3人3万7500円から、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ・定員3人5万1500円からの3つ。比較的手ごろな「バリュータイプ」は、東京ディズニーセレブレーションホテル・定員4人1万9500円からがあった。この2つのカテゴリーの中間に「モデレートタイプ」を新設し、その第1号が今回のトイ・ストーリーホテルとなる。
宿泊コストを抑えたい利用者にとって、これまではバリュータイプの東京ディズニーセレブレーションホテルが唯一の選択肢だったが、同ホテルはTDRの敷地外にあり、2つのパークからバスで約20分かかる。パークとホテルをシームレスな体験にし、滞在中は“夢の世界”から出たくないと願う人にとっては悩みどころだった。
その点、トイ・ストーリーホテルはTDR内にあり、価格はデラックスタイプより1万~2万円ほど安い。このため、誕生日や友人との集まりといった特別な日に宿泊するハードルが下がった。三嶌氏は「今までディズニーホテルを利用したことがあるゲストに加え、日帰りで来園していたゲスト層にも宿泊してもらいたい」と話す。
ディズニーホテルならではの宿泊者特典の存在も大きい。最大の魅力は、なんといってもパークチケットを購入できる権利が確実に得られることだろう。チケットを入手したい場合、一般的には約2カ月先までの日付指定券をインターネットで購入する。日付によってはサイトに接続できないほど激戦になり、行きたい日のチケットが確実に取れる保証はない。一方、入園保証付きのホテルであればチケット単独よりも予約しやすく、先々のチケットを取る“裏技”としてディズニーファンの間で話題になっている。
また22年3月1日から5月31日まで(5月初旬現在)は、パーク開園の1時間前から東京ディズニーランドの一部エリアに入園できる「アーリーエントリーチケット」(3000円、3歳以下は無料)を購入できる権利も付く。例えば、20年9月の運用開始以来、大人気のアトラクション「美女と野獣“魔法のものがたり”」は、22年のゴールデンウイークに最大で3時間超の待ち時間を記録した。アーリーエントリーチケットを使用して列に並べば待機時間を減らせる可能性が高く、確実に乗りたい人にとっては価格以上の価値になる。
さらにアーリーエントリーチケットの価値を高めるのが、TDRで22年5月19日から導入予定の「ディズニー・プレミアアクセス」。パーク入園後に、公式アプリから乗りたいアトラクションを時間指定で予約し、短い待ち時間で体験可能になる有料サービスだ。対象アトラクションには「美女と野獣“魔法のものがたり”」も含まれ、価格は1人1回2000円。“入園後”から予約できるためアーリーエントリーの重要性が増し、ディズニーホテルの宿泊希望者が増加すると思われる。
上海での成功事例も後押し
作品の人気と値ごろ感が相まって人気のトイ・ストーリーホテルだが、開業にあたっては、中国での成功例などを参考にしたという。中国では16年に上海のディズニーリゾートにトイ・ストーリーをテーマとしたホテルを開業している。三嶌氏は「上海での人気を集めている状況から、ホテル建設に至った」と言う。
また、パークとの位置関係など立地上の戦略も練った。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーにはそれぞれ、「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」(04年開業)、「トイ・ストーリー・マニア!」(12年開業)というトイ・ストーリーを題材にしたアトラクションがあり、いずれも人気だ。今回のホテルは両パークのほぼ中間点に位置し、どちらの来園者でも泊まりやすい。まさに来園者の“両取り”を狙える場所にある。
トイ・ストーリーホテルは、特別な日にディズニーホテルに泊まりたいけれど、従来のデラックスタイプでは高すぎる、だからといってバリュータイプではTDRの世界観を満喫できないと考えている人に向く。トイ・ストーリーという作品自体が幅広い層に支持されており間口が広く、入園保証やアーリーエントリーチケットで“安心”も買える。「チケットが購入できない」「お目当てのアトラクションに乗れない」といった失敗も起きにくいため、今の人気は当面続きそうだ。
試しに、記者が公式サイトからトイ・ストーリーホテルの予約を試みた。予約はパークと同様に、2カ月先の宿泊日の午前11時に専用サイトで受け付けが開始される。例えば、6月20日分の予約が取りたければ、4月20日午前11時に開始といった具合だ。休日を避け、平日を狙って予約を試みたが、開始直後からサイトが重くなり、ほんの数分で完売した部屋もあった。他のディズニーホテルも試したが、こちらは少し時間を置いても予約ができそうだった。
三嶌氏はディズニーホテルを単なる宿泊先ではなく、「TDRへの来園を促すきっかけにしたい」と考えている。パークとの連携を強化し、入園保証やアーリーエントリーチケットといった付加価値をさらに充実させることで、コロナ禍で落ち込んだTDRの集客力回復にもつながりそうだ。