アルペンが東京・新宿大ガード東交差点前に新たな旗艦店をオープンした。場所は、3面構成の巨大スクリーン「ユニカビジョン」を掲げるユニカビル。全10フロアに初心者から上級者まで対応する幅広い商品を取りそろえ、大型スポーツ店の空白地・新宿で攻勢をかける。これに合わせ、VRストアも開設した。
全10フロア、3業態の旗艦店を1カ所に集結
ユニカビルといえば、以前はヤマダデンキの「LABI新宿東口館」があったことで知られる場所。同店の閉店以来、“空きテナント”の状態が続いていたが、22年4月1日にアルペンの旗艦店「Alpen TOKYO」が開店した。
1972年に名古屋市で店舗面積15坪のスキーショップとして開業したアルペンは、22年で創業50周年を迎える。現在では総合スポーツショップの「Alpen」「SPORTS DEPO」、ゴルフ専門店の「GOLF5」、アウトドア用品や登山用品の専門店「Alpen Outdoors」「Alpen Mountains」といった複数の業態をグループで展開している。
今回オープンしたAlpen TOKYOは、総床面積3700坪以上のスペースで、GOLF5、Alpen Outdoors、SPORTS DEPOの3業態における総合的な旗艦店という位置付けになる。地下2階、地上8階という全10フロアの構成で、アウトレット商品の販売や催事場として使う予定の8階を除くと、常設の売り場は9フロアに及ぶ。
地下2階から2階までの4フロアはSPORTS DEPO、4、5階はAlpen Outdoors、6、7階がGOLF5。3階はフィットネスやアウトドア用のアパレルをまとめ、Alpen OutdoorsとSPORTS DEPOが分け合う形だ。
アルペンは19年にも千葉県柏市に「Alpen Outdoors Flagship Store 柏店」をオープン。こちらも売り場面積は2300坪、商品点数は約10万点という大型店だが、Alpen TOKYOは、野球やゴルフ、テニスなどのスポーツ用品から、アウトドア、登山までカバーする総合的なスポーツ用品店となっているところに意味があると言えるだろう。
▼関連記事 「デカトロンにも冷静 世界最大級の店舗で見せたアルペンの覚悟」体験を重視した店舗づくり
最近はEC(電子商取引)が隆盛の一方、実店舗は苦境に立たされることも多い。特に都心部の店舗は陳列スペースが限られることもあり、「スポーツ用品は都心部で取り扱うのが難しいといわれてきた」(アルペンの水野敦之社長)。
だが、水野社長は「ECだけではお客様との偶然の出合いを作り出し、スポーツの魅力を伝える力が足りないと感じる」と続ける。「スポーツの魅力を広め、スポーツが好きな人に寄り添い、スポーツの力で世界をもっとわくわくさせていくことが私たちの役割」として、「これだけの人が集まる東京の都心部にこそ、初心者でも気軽に来店してスポーツやアウトドアの世界観を感じられる店舗が絶対に必要」と、言葉に力を込めた。
前述のAlpen Outdoors Flagship Storeは、販売するテントを試し張りしたり、バックパックにダミーのウエートを入れて背負ったりと、“体験”を重視していた。Alpen TOKYOもこれは踏襲している。ゴルフクラブやテニスラケット、ウエアなどを来店客が試打、試用、試着できる。
さらに、店舗自体もそれを前提に設計されている。例えば、サッカーのスパイク売り場には欧州の有名なサッカー場でベンチに使われているドイツ・レカロ社のシートを設置。その周囲には人工芝を敷設した。同様に、ランニングシューズ売り場の床には新国立競技場にも採用されたイタリア・モンド社のトラック素材を使用。テニスシューズ売り場の床には有明テニスの森のテニスコートと同様の表面処理を施している。来店客は、靴を履いたときの感触を確認できるだけでなく、そのシューズを履いて競技するシーンをより明確にイメージできるようになっているのだ。
エントリー層だけでなく、上級者層もフォロー
Alpen TOKYOのもう1つの特徴が、初心者から上級者までをフォローする商品ラインアップとサービスを用意していることだ。「Alpen TOKYOはスポーツのエントリー層だけでなく、上級者層にも満足していただけるお店だという認知が広がっていけばいいと思っているし、そこに注力もしている」(水野社長)
例えば、テニス用品売り場には、ラケットにストリングを張るための機械を10台導入。ラケットを置くだけで重量や重心を自動測定する機器も設置した。野球用品の売り場では、道具の修理やカスタマイズを受け付ける専用カウンターもある。
さらに、販売スタッフはフロアごとに各競技の経験者を配置。取材時に話を聞くと、元レッスンプロや学生時代に全国大会出場経験を持つ元選手など、「たしなんでいた」というレベルを超える人ばかりがそろっていたのが印象的だ。極めつきは1993年に千葉ロッテマリーンズにドラフト1位で入団した元プロ野球選手、武藤潤一郎氏も販売スタッフとして名を連ねている。水野社長によれば、「既存店からエース級のスタッフを集めた」とのこと。初心者から上級者まで「スポーツ好きな人に寄り添う」という同店のポリシーが表れていると感じた。
開店から約1カ月。アルペンは「想像以上に多くのお客様にご来店いただいている。売り上げは来店客数に比べるとまだまだだが、今後、(来店客のニーズなどに合わせて)品ぞろえなどを変化させることで、購入につなげていけると期待している」という。
Alpen TOKYOを再現したVRストアもオープン
Alpen TOKYOオープンの1週間後に当たる22年4月8日には、VR(仮想現実)ストア「Alpen TOKYO VR STORE」も開設した。これは360度カメラでAlpen TOKYOの売り場をくまなく撮影して構成した3D空間を、パソコンやスマートフォンのブラウザー、VRヘッドセットの「Oculus Quest2」を使って歩き回れるというもの。アルペンによれば「業界最大級のVR店舗」とのことだ。
アルペンでは、ららぽーと立川立飛内にある直営店「TIGORA by SPORTS DEPO(ティゴラ バイ スポーツ デポ)」を再現したバーチャルストアを20年10月2日に公開していたが、Alpen TOKYO VR STOREではそれをより推し進めた。
VR空間上でデジタルサイネージをクリックしてプロモーションやキャンペーンの動画などを視聴したり、各売り場にある青いアイコンをクリックして、同社のオンラインストアへ移動し、該当する商品を購入したりすることが可能だ。
実際に体験してみると、店舗の画像はかなり解像度が高く、メーカー、ブランド、商品名がはっきりと読み取れる。手に取ることさえできそうだが、さすがに画面に映る一つ一つの商品の詳細な情報は参照できない。なまじリアルに再現されているからこそのもどかしさを感じてしまった。
いまだ新型コロナウイルス禍が収束しない世情を考えれば、VRストアは新しいショッピングの形として有効な提案になる。実店舗と同様に、バーチャルな店舗でも商品を手に取り、詳細な情報を確認、購入までシームレスにできようになれば……そんな未来に期待を感じるものになっていた。
Alpen TOKYO VR STOREのオープンから約1カ月。アルペンによると、「TIGORA by SPORTS DEPOのバーチャルストアと比べても、既に比較にならないほどの来場者数で、手応えを感じている」とのこと。今後、さらにコンテンツは追加されていく予定だという。
Alpen TOKYOには創業50年の経験が結実
アルペンでは、実店舗、EC、VRストアと3つの販売チャネルを持つことになるが、水野社長は「各チャネルですみ分けをするというよりも、顧客がそのときの状況に応じて、使いやすいものを選んでくれればいい」と語った。
その言葉通り、実店舗には商品の実物を手に取って体験し、深い知識を持った店員と対話しながら自分に最適の商品に出合う楽しさが、ECには欲しい商品をいつでもどこでも手軽に購入できる手軽さがある。VRストアはまだまだ発展途上だが、店舗に近い商品との出合いの体験と、ECの手軽さを併せ持つものを目指すことになるだろう。
水野社長は「今までECしか利用していなかったお客様には実店舗の魅力に、実店舗しか知らないお客様にはECの便利さに気づいていただけたら。さらに、VRストアでは一人ひとりのお客様の購買体験を広げられる可能性があると思う」と話す。
「アルペンは創業50年。今までやってきたことの中にはうまくいったものもあれば、うまくいかなかったものもある。TIGORA by SPORTS DEPOから始めたVRストアにしても、当時は小さな一歩だったかもしれないが、『やっておいてよかった』と今まさに実感している。それらすべての経験が糧となり、このAlpen TOKYOには生きている」。水野社長はそう語り、Alpen TOKYOに強い自信を示した。
(写真/稲垣宗彦)