日本のeスポーツイベントを牽引してきた国内最⼤級のeスポーツエンターテインメント「RAGE」(レイジ)は2022年に8年目を迎えた。立ち上げ当時はeスポーツ自体を知らない人が多く、実質ゼロからのスタート。それがいまや日本のeスポーツシーンに定着し、22年3月に開催されたタクティカルFPSゲーム『VALORANT』(ヴァロラント)の国内大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」のPlayoffs(優勝決定戦)では、配信動画の同時接続数が24万を超えるなど、結果を残している(YouTube/Twitchの公式チャンネル、ウォッチパーティーの合計)。

 22年5月7、8日には、久々の大型リアルイベント「RAGE VALORANT 2022 Spring」の開催も予定。同イベントは、3500~6500円の有料イベントながら、全てのチケットが24時間を待たずに売り切れるなど、注目度は高い。そこで、RAGEを統括するCyberZ(東京・渋谷)の大友真吾氏にRAGEの現状と今後の展望を聞いた。

「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」のPlayoffs(優勝決定戦)。優勝したZETA DIVISIONが日本代表として国際大会に出場し、世界3位の快挙を成し遂げた
「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」のPlayoffsでは、配信動画の同時接続数が24万を超えた。画像はYouTube配信より

 RAGEが発足したのは2015年。格闘技界の「K-1」や「RIZIN」のようなイベントブランドをeスポーツでも展開することを目指し、CyberZ、エイベックス・エンタテインメント(東京・港)、テレビ朝日が共同で立ち上げた。eスポーツイベントには、ゲーム会社などのIP(知的財産)ホルダーが主催するものも多い中、数少ない独立したイベンターとしてeスポーツイベントを運営している。

 RAGE主催の大会には主に3つの形式があり、それぞれに運営の目的や参加者が異なる。1つめはオープン型の大会。大会参加に条件を設けず、エントリーさえすれば誰でも参加できる大会で、3カ月ごとに開催し、賞金1000万円を付与する「RAGE Shadowverse」が代表例だ。埋もれた実力選手にスポットライトを当て、トップスタープレイヤー候補を発掘することを目的としている。

 2つめはプロリーグ。選抜されたプロチームやプロ選手による大会で、「RAGE Shadowverse Pro League」や格闘ゲーム『ストリートファイターV チャンピオンエディション』のリーグ戦「ストリートファイターリーグ」の前身となる大会などを開催した。

 3つめはフェス型のイベント。タイトル単体の大会やイベントとは異なり、複数タイトルの大会を同時に開催する。その形式もオープン型や著名選手の招待型などさまざまで、来場者は参加、観戦の両面から楽しめるイベントとなっている。18年のイベントでは『League of Legends』(リーグ・オブ・レジェンド)のスタープレーヤー、Faker選手を招待したことでも話題になった。

RAGEでは誰でも参加できるオープン型から、「RAGE Shadowverse Pro League」(写真)のようなプロチームやプロ選手による大会まで幅広くeスポーツイベントを開催してきた
RAGEでは誰でも参加できるオープン型から、「RAGE Shadowverse Pro League」(写真)のようなプロチームやプロ選手による大会まで幅広くeスポーツイベントを開催してきた

 RAGE総合プロデューサーを務めるCyberZの大友真吾氏は、「これまでに累計で約30タイトルのイベントや大会を開催してきた。立ち上げ当初から第1の目的としている国民的スター発掘までは至っていないものの、(各タイトルの)コミュニティーレベルでは多くのファンに支えられるスター選手を送り出して来られたと思う」と現状を評価する。

大会の配信同時接続数が24万を突破

 まだ短いその歴史の中でも、大きな方向修正が必要となったのは、やはり新型コロナウイルス感染症の拡大だ。コロナ禍以前のRAGEは、大型会場を使ったリアルイベントを軸としていたが、感染拡大と共にその開催に制限が掛かり、オンラインイベントにシフトせざるを得なくなった。

 イベントを通じて、幅広いゲームファンにeスポーツの面白さを伝えることを目指していたRAGEにとっては想定外の出来事。「大会スポンサーに向けた活動が限られてしまう面もあり、スポンサー企業が減ったり、スポンサー料が減額になったりもした」と実情を語る。

 その一方で、「良い面もあった」と大友氏。1つが、オンラインへの転換による制作コストの抑制だ。「リアルなイベントは会場設営費用も大きく、現場スタッフもかなりの人数が必要だった。オンラインではそのあたりがざっくりと削減できた」

RAGEではフェス型のイベントも開催していたが、新型コロナウイルス禍でオンラインに切り替えざるを得なくなった
RAGEではフェス型のイベントも開催していたが、新型コロナウイルス禍でオンラインに切り替えざるを得なくなった

 加えて、最も大きかったのは、動画配信の文化が根付いたこと。「コロナ禍で動画配信者(ストリーマー)のインフルエンサーとしての影響力はむしろ高まり、注目度も上がった。動画配信による大会視聴を当たり前と思えるようになったのも大きな変化だ」と説明する。

 コロナ禍の外出自粛で、ゲームユーザーが動画配信を視聴する機会や時間は増えた。配信番組にも、ストリーマーを中心にさまざまなジャンルのインフルエンサーやタレントなどが出演。それらインフルエンサーの拡散力によって集まった視聴者の多くが、動画内で見たプロの技術力の高さに気付き、各タイトルのプロシーンにも興味を持つようになったことで、プロシーン自体の視聴にもつながっているという。

 その成果の1つが、22年3月に開催した『VALORANT』の国内大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」(VCT STAGE1)のPlayoffs(国内予選大会の決勝戦)だ。インフルエンサーが参加した『VALORANT』のイベントで『VALORANT』自体に興味を持った視聴者が、プロの公式大会の配信も視聴するようになり、同大会の同時接続人数は飛躍的に拡大。3月24~27日の4日間の配信同時接続数は24万を突破した。これに続き、同大会で優勝したチーム・ZETA DIVISIONが日本代表として出場した国際大会「2022 VALORANT Champions Tour - Masters1」では、国内からの同時接続数が41万に達したという。

「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」のPlayoffsでは、配信動画の同時接続数が24万を超えた。画像はYouTube配信より
「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」のPlayoffsでは、配信動画の同時接続数が24万を超えた。画像はYouTube配信より
「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」で優勝したZETA DIVISIONが日本代表として出場した国際大会「2022 VALORANT Champions Tour - Masters1」では、国内からの同時接続数が41万に達した(全世界では推定100万以上)。写真は国際大会で優勝したOpTic Gaming(北アメリカ)チーム
「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage1」で優勝したZETA DIVISIONが日本代表として出場した国際大会「2022 VALORANT Champions Tour - Masters1」では、国内からの同時接続数が41万に達した(全世界では推定100万以上)。写真は国際大会で優勝したOpTic Gaming(北アメリカ)チーム

 国内での人気の高まりに乗って、5月7、8日には久々の大型リアルイベント「RAGE VALORANT 2022 Spring」を東京・有明の東京ガーデンシアターで開催する。アリーナ指定席は6500円、バルコニー指定席は4500円、3500円(いずれも税込み)という有料イベントで、1日目は『VALORANT』の人気ストリーマー10人によるエキシビションマッチを、2日目にはVCT STAGE1のPlayoffsに進出した8チームから15人の選手が参加するエキシビションマッチを実施する。

 「1日目はインフルエンサーによるマッチメイクで新しいファンを発掘、2日目は会場にトップチームのブースを作って、ファンミーティングも行う予定。少しでも興味を持ったプロチームやプロ選手を間近に感じてもらうことで、(プロシーンの)ファンとそれに支えられる新しいスターを生み出していきたい」と大友氏は意気込みを語った。

ペイ・パー・ビューも視野

 さらに、有料配信への道も探る。eスポーツではまだペイ・パー・ビューによる有料配信をしているイベントは少ないが、もはや音楽ライブなどでは当たり前。動画配信の世界でも“投げ銭”文化が定着し、動画コンテンツにお金を払うことのハードルは下がりつつある。RAGEでもゆくゆくはペイ・パー・ビューを取り入れたいという。

 「コロナ禍前には、eスポーツを観戦するファンの数はさほど多くなかった。実際、有料のeスポーツイベントで4000~5000人を集客したのは『リーグ・オブ・レジェンド』の国内プロリーグ『League of Legends Japan League(LJL)』のFinals(決勝)くらい」。だが、その流れも変わりつつあると見る。「『RAGE VALORANT 2022 Spring』を開催する東京ガーデンホールは、6000人を収容予定。それを2日間行う。そのチケットが完売するのは、お金を払ってeスポーツを観戦する文化が定着しつつあるということ」

RAGE総合プロデューサーを務めるCyberZの大友真吾氏
RAGE総合プロデューサーを務めるCyberZの大友真吾氏

 もちろん、この背景には、コロナ禍で起こった観戦スタンスの変化だけではなく、RAGE立ち上げ当初から現在に至るまで続いてきた選手の成長や演出面の進化も大きい。選手のパフォーマンスの質は向上しており、動画配信で流れる紹介映像の撮影に協力的。RAGEの運営の中で、チームや選手と運営スタッフの関係性も密になり、それが動画配信や大会運営に良い相乗効果を見せているのだという。

 さらに「スポンサーに対して提供できるメニューも変わってきた」と大友氏。当初は広告などを通じ、スポンサーの認知を高める施策が主だったが、近年は観客の行動を呼び起こすような施策にも踏み込んでいる。例えば、20年1月に幕張メッセで開催したリアルイベント「RAGE Shadowverse 2020 Spring」では、出前館が会場までのフードデリバリーを実施。出前館アプリのインストールなどで会場内限定アイテムが当たるコラボを展開した。21年12月の『VALORANT Champions Tour - Champions:Berlin』に合わせては、U-NEXTが大会の勝敗予想キャンペーンを実施。同社サービスへの無料登録で投票権がもらえる仕組みで、登録を促した。

 スポンサー企業全般の意識も変わってきており、eスポーツイベントへの協賛費用は、RAGE当初の数十万円から数百万円単位に上がってきているという。

 「RAGEを始めた当初は利益よりもeスポーツの認知向上に注力していたが、この1~2年は収益をあげるためにできることをより強く意識している。大金が動く海外のeスポーツイベントでも赤字のケースは多く、収益を出すことは本当に難しい。それでも、今回のRAGE VALORANT 2022 Springで有料チケットが即日完売するなど、手応えも感じている。RAGEが収益を出せるようになれば、参加しているチームや選手にも還元できるエコシステムが構築できるはず。IPホルダーではない、サードパーティーの興行が収益を出せることが何より重要だと考えている」と大友氏は言葉を結んだ。

 eスポーツが、音楽ライブやスポーツなどと肩を並べるライブエンターテイメントとして産業化するには、IPホルダーが開催するプロモーションとしてのeスポーツではなく、サードパーティーによる興行で成功する必要がある。これからのRAGEが正念場となるのは間違いない。その発展に期待したい。

(写真/岡安学、編集/平野亜矢)

2
この記事をいいね!する