象印マホービンがマイボトルの普及に新たな一手を打ち出した。同社の調査により明らかになった「洗う・入れる飲み物を準備する・持ち運ぶ」という「3大面倒」を解決するサービス「ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)」だ。

2022年4月30日まで2店舗で実証実験中の象印マホービンの「ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)」(イメージ)
2店舗で実証実験中の象印マホービンの「ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)」(イメージ)

マイボトル普及の壁、利用状況改善へ

 象印マホービン(以下、象印)が、店舗で利用者のマイボトルを預かり、洗浄・保管して、注文時に飲料を入れた状態で渡す有料サービス「ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)」の実証実験を行っている。

 利用方法はLINE公式アカウントで注文・決済し、専用ロッカーでピックアップするだけ。使い終わったマイボトルは店舗に預ける。店舗は預かったマイボトルを洗浄し、次回注文時まで保管する。初回は本サービス専用の象印のステンレスボトル(2500円、税込み)を購入する必要があるが、実証実験ではLINE公式アカウント内(ドリンクやフードを購入)で使用できる2000円分のポイントが付与されるので大きな負担にはならない。

 対象店舗は「神戸萩原珈琲 127番地(以下、萩原珈琲)」(神戸市中央区)と、「シアトルズベストコーヒー 淀屋橋住友ビル店(以下、シアトルズ)」(大阪市中央区)の2カ所で、実証実験の開始は萩原珈琲が2月15日から、シアトルズは3月1日から。実証実験の終了時期は未定としている。スタートから2カ月が過ぎた萩原珈琲は「店舗と同じビルに神戸市役所が入所していることもあり、利用者は多い印象」(象印マホービン新事業開発室長の岩本雄平氏)とのこと。

 同社新事業開発室の四方知洋氏は、象印マイボトルクローク実施に至った経緯を「マイボトルの利用状況にある」と話す。同社では06年からマイボトルの普及活動を行っており、例えば06年には「FUNKY MARKET」、11年には「フジロックフェスティバル」、15年には「ロハスフェスタ」など⼤規模イベントで、マイボトル持参者にお茶を提供する無料給茶スポットを⽤意。19年からは⾃治体と連携協定を結び、プラスチックごみ削減を⽬指してきている。

 また様々な新商品を投入し、マイボトル購入率の向上につなげており、特に20年9月に発売した「シームレスせん」採用のステンレスボトルシリーズは、21年11月までに国内累計出荷数150万本を突破しているという。

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洗浄、準備、持ち運びの手間削減

 しかし四方氏は、国内市場約2000万本(全国魔法瓶工業組合出荷数より象印推測)というマイボトルには「利用状況の課題がある」と指摘する。同社が19年8月に20~60代の男女4万3993人を対象に行ったネットアンケートによれば、マイボトルを持っている人は7割を超えていた。一方で19年10月に20~60代男女1000名を対象に行ったネットアンケートによると「週1日以上使用する人は36.1%、週1日未満が12.8%で、使用していない人は51.1%にも上っている」(四方氏)。日常的にマイボトルを利用してもらわないことには、マイボトルのさらなる普及は見込めない。

 「マイボトルを使わない理由」についても調査したところ、「『持ち運び』『洗う』『準備』が面倒という、『3つの面倒』に集約されることが分かった」(四方氏)。このうち「洗うのが面倒」を解決するため開発されたのが、栓とパッキンが1つになった、シームレスせん採用のマイボトルだ。また洗浄・除菌・すすぎ・脱水の4工程を約40秒で完了するマイボトル洗浄機を東大阪の中農製作所と共同開発(試作段階)。この洗浄機は家庭用ではないが、今後、外出先でも簡単にマイボトルを洗える環境を整えることで、「洗うのが面倒」を解決する手立てにしたい考えだ。

 ただ洗浄面を解決しても、持ち運びの重さ、飲み物の準備という面倒の解決にはつながらない。そこで企画されたのが象印マイボトルクロークのサービスというわけだ。同社にとっては「マイボトル=リユース容器」の継続利用を促し、さらに新規ユーザー獲得を促進することで、循環型社会の実現を目指すというCSR(企業の社会的責任)活動の意味合いもあるだろう。

「ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)」のサービス紹介ページ
「ZOJIRUSHI MY BOTTLE CLOAK(象印マイボトルクローク)」のサービス紹介ページ

サービスを機にマイボトル利用者増へ

 実証実験でのサービスは、LINE公式アカウント(支払いはPayPayのみ)を利用する。LINEの公式アカウントの使用理由は、事前にモバイルオーダーし、ロッカーでスムーズに受け取るためだ。専用マイボトルはシームレスせんを採用したステンレスボトル「SM-ZA36」をベースに、利用者を識別できるように蓋(天面)と本体底面にシリアル番号、QRコードを印字している。

「シームレスせん」を採用したステンレスボトル「SM-ZA36」をベースに、蓋(天面)と本体底面にシリアル番号とQRコードを印字した専用マイボトル
「シームレスせん」を採用したステンレスボトル「SM-ZA36」をベースに、蓋(天面)と本体底面にシリアル番号とQRコードを印字した専用マイボトル

 専用マイボトル購入後は、好きなドリンクやフード、受取日時と方法(ロッカーもしくは店頭受け取りが可能)を選んで注文完了。LINEトーク画面にロッカー用QRコードが届く。ロッカーの場合はこのQRコードを読み取り画面にかざして開けるようになっており、非接触で受け取れる。使い終わったマイボトルはロッカーまたは店舗に預ければ、次回利用時まで店舗で保管してくれる。なお注文は最短で30分前まで受け付け可能で、キャンセルは受取時間の20分前までに行う。

注文完了後LINEトーク画面に送られてきたロッカー用QRコードをロッカーにかざすと、非接触で注文品を受け取れる
注文完了後LINEトーク画面に送られてきたロッカー用QRコードをロッカーにかざすと、非接触で注文品を受け取れる

 加盟店が行うのはマイボトルの洗浄と保管、ドリンクおよびフードの販売だ(ロッカーシステムの利用有無はオプション扱い)。ユーザーは専用マイボトルとドリンクやフードの代金を象印に支払い、象印は手数料を引いた代金を加盟店に支払う形になる。象印は店舗管理システムの開発、モバイルオーダーシステムの開発も行っている。

象印マイボトルクロークのサービス概要図
象印マイボトルクロークのサービス概要図
象印マイボトルクロークのサービス体系図。なお価格設定は各店舗に任せている
象印マイボトルクロークのサービス体系図。なお価格設定は各店舗に任せている

 実証実験対象となる2店舗は、新事業開発室がネットワークをつくるなかで、声がけしたという。「選定基準はまず店舗近くに出勤する人が多いこと。オフィス街のコーヒー店であればサービスを利用しやすいと考えた」(岩本氏)。前述の通り、萩原珈琲は神戸市役所が入所するビルに店舗を構えており、シアトルズはいわゆるオフィス街にある。「もともとのターゲットが30~50代のオフィスワーカーだったので、出勤前にボトルを受け取りやすく、持ち運び時間も短くて済む人が多そうな場所」(岩本氏)を選んだ。

 また両店舗とも今回のサービス以前からマイボトル持参者には店舗独自のサービスを提供していたため、一定数のマイボトルユーザーがすでにいる状態だった。そうしたユーザーの何割かが、象印マイボトルクロークを利用すると想定していたという。「もちろん3つの面倒が原因でマイボトルの利用をためらっている人には、このサービスを機に利用し始めてもらい、販売数増加につなげたい」(岩本氏)と新規のマイボトルユーザー獲得にも意欲的だ。

マイバッグの次はマイボトル

 実証実験期間中に「継続して使っていただけるかどうかがポイント」と岩本氏。「初動で、あるいは何かを機に単発的に利用者が増えるよりも、いかに継続的に使ってもらえるかが重要」(岩本氏)という。そのためにも、ユーザー完結型(ユーザーが購入し飲料を用意し持ち運ぶ)からコミュニケーション型への進化を狙う。

 「現状ではLINE公式アプリは注文・支払時に活用してもらっており、新規ユーザーに2000円分のLINEポイントを付与して継続利用のきっかけをつくってきた。今後はLINE公式アプリをコミュニケーション手段とし、PRも行っていきたい」(岩本氏)

ロッカーは1店舗あたり17部屋あるタイプを用意している。注文時間は重ならないよう、LINEでの予約時にアプリから確認できる。利用後はボトルをそのままロッカーに入れるだけなので完全非接触でのやり取りが可能。現状では利用者の8~9割が受取場所にロッカーを指定しているという
ロッカーは1店舗あたり17部屋あるタイプを用意している。注文時間は重ならないよう、LINEでの予約時にアプリから確認できる。利用後はボトルをそのままロッカーに入れるだけなので完全非接触でのやり取りが可能。現状では利用者の8~9割が受取場所にロッカーを指定しているという

 また「できる限り早いタイミングで正式なサービスとして提供したい」と岩本氏。実証実験では利用者の多い時間帯や、同時間帯で店舗受け取りとロッカー受け取りを合わせて受注可能数などを含め、調査している。こうした結果を反映し、店舗にもユーザーにも象印マイボトルクロークのシステムおよび仕組みにメリットを感じてもらえるよう、洗浄オペレーションの簡略化を含め検討するという。

 「マイバッグの次はマイボトルではないかという声も耳にする。利用率向上を含めた市場拡大を目指していければ」(岩本氏)

(画像提供/象印マホービン)

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