「しいたけ嫌いな人に美味しいと言わせた」とうたい、ドン・キホーテが発売した「しいたけスナック」が想定の4~5倍売り上げるヒット商品となっている。しいたけ独特の食感や香りを創意工夫で隠し、好きな人にも嫌いな人にも選ばれる“両取り”を目指したのが功を奏した。
「しいたけスナック」は、ドン・キホーテ(以下、ドンキ)が2021年11月から販売する商品(税込み646円、以下同)。2~4センチと小ぶりなしいたけを、丸ごと低温でゆっくりと油で揚げ、にんにくを利かせたスパイシーな味に仕上げた。しいたけを揚げたスナックとして有名なのが、会員制量販店コストコの「DJ&A シイタケマッシュルーム クリスプス」。類似性の高い商品がより身近なドンキで購入できるとあって、口コミで一気に広がった。
商品を企画したパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスPB事業戦略本部の渡辺友成氏は「しいたけはカロリーが低いので、揚げた上に濃い味付けにしても罪悪感を覚えにくい。健康を意識して淡泊な味付けにするよりおいしさに振り切ったが、それでも思ったよりもカロリーを抑えることができた」と話す。
売り上げは出足からよく、大成功だった。「ニッチな商品なので、月間400万~500万円の売り上げを想定していたが、ふたを開けてみたら22年1月は1600万円、2月は2000万円と4~5倍ペースで推移。3月も順調に伸びている。月間1000万円を超えると『ヒット』という感覚があるが、これほど初速がいいのは珍しい」と明かす。
もちろん、この売り上げにはどんなものかと試し買いをされた数も含まれる。ただ、それだけではここまで伸びないと渡辺氏は見る。ドンキのオリジナル商品のポテトチップスには、ギョーザやゆずしち味といった珍しいフレーバーのラインアップもあるが、「2回目はなかなか買われない」(渡辺氏)。これだけ伸長したのは、商品に納得したリピーターが存在する証拠と考えているのだ。
ドンキは今回、しいたけスナックを作る上で、あえてターゲットを絞らず、幅広い層にアプローチすることを狙った。このようなニッチな商品を作る場合、大手メーカーは「性別」「年齢」「〇〇が好きな人」といった属性・趣向でターゲットを絞った上で、商品開発を進めるのが一般的だ。しかしドンキは、しいたけの健康面のメリットを生かし、万人受けするスナックにして売り出す戦略を取ったのだ。
その狙いは的中。幅広い層に購入され、化粧品や酒類との買い合わせが多いことも分かっている。渡辺氏は「女性がカロリーを意識して選ぶ、主婦が健康的だろうと子供のおやつとして買い与える、男性が酒のつまみとして購入する、といったケースが多い」と分析する。
しいたけ好きと嫌いの両取りでターゲット層を拡大
ヒットの要因は、しいたけ好きな人と嫌いな人の“両取り”に成功したこと。しいたけ嫌いの多くは、苦手な理由に「食感」と「香り」を挙げる。そこで、カリカリに揚げることでしいたけ独特の食感をなくし、香りは味付けのフレーバーで打ち消した。
食感は品種によって変わるため、品種選びにも時間をかけた。最初は国産で探したものの、どれもしいたけ臭が強く、サイズが大型で一口サイズが望ましいスナック菓子には適さなかった。「全体から小ぶりなサイズだけを選んで使用することも考えたが、数を確保できる見通しが立たず、コストもかさむため、5種類ほど検討したところで諦めた」(渡辺氏)
その後、世界中の有名産地から20~30種類のしいたけを集め、最終的に中国産に当たりをつけた。マッシュルームに近いサイズ感が使いやすく、コストを抑えて、通年で安定供給できるめどが立ったためだ。中国の複数の産地からしいたけを取り寄せ、揚げる時間や味付けを細かく変えては試し、100回を超える試作を経て2年がかりで完成させた。
素揚げした時点でしいたけの匂いはほぼ消えているが、そこに日本人が好むジャンキーな味付けをすることで、一層打ち消している。類似製品であるコストコのDJ&A シイタケマッシュルーム クリスプスはオニオン風味が強い。「他社の商品はどこか“外国の味”が強かったので、当社の商品ではしょうゆパウダーを強めに入れた。さらに新型コロナウイルス禍ににんにくがブームになっていたことから、通常より多めに入れて大手のナショナルブランド(NB)と差別化を図った」
パッケージにも工夫を凝らした。「『しいたけ』嫌いな人に美味しいと言わせた」「しいたけの大逆襲」というセンセーショナルな文字を前面に押し出し、手に取った人が購入する最後の一押しにつなげている。「PBの商品数や取り扱う店舗数が拡大するにつれ、面白みのない商品ばかりになっていた。その反省から21年2月にPBブランドを刷新し、パッケージを“驚きのニュースを提供する紙面”と捉えて制作した」(渡辺氏)
スナック菓子としては高価な646円(125グラム)にしたこともポイントの一つだ。一般的に、コンビニやスーパーのスナック菓子の相場は200円以下。200円を超すと消費者は手を出しにくいといわれるが、素材や製造方法にこだわった「プチぜいたく」感をアピールすることで、これらとは異なる需要を取り込みにいった。
ドンキのスナック菓子として646円はやや高い部類だが、類似商品のコストコの「DJ&A シイタケマッシュルーム クリスプス」は300グラムで998円(店頭価格)、カルディの「俺しいたけ」は36グラムで213円。値ごろ感に大差はないため、ドンキの商品を味の違いや通いやすさで選びやすい。少しぜいたくなスナック菓子を近場で食べたいし、健康も気になる――。そんな人の罪悪感を軽減するのに向く商品と言える。
実際に食べてみると、しいたけ独特の匂いはフレーバーで打ち消され、ほとんど気にはならなかった。かむとカリッと揚がった食感が強く、素材本来の弾力性は感じられない。ただし、かみ続けると口の中の水分でしいたけらしさが少しずつ戻ってきた。しいたけ好きは、あえてゆっくりと味わって素材本来の風味を楽しむ、といった食べ方がお勧めだ。
そもそも開発のきっかけは、コロナ禍の前に海外の食品提示会でしいたけを使った菓子を見つけたこと。「日本にはしいたけを食べる文化はあるのに、素材そのものを生かした菓子はない。製法自体は想像がついたので、日本人に合わせて作った方がよいと思い立った」と渡辺氏。
今後は通年商品として展開し、新たなフレーバーにも挑戦していくという。あえてターゲットを絞らず、ニッチな商品にもPBで挑戦するドンキならではのヒット商品と言えそうだ。