2022年3月1日に発売されたサーモス(東京・港)の「サーモス 保冷炭酸飲料ボトル」が、同社の予想を上回る問い合わせを受けている。タイガー魔法瓶(大阪府門真市)の「真空断熱炭酸ボトル」と合わせて、炭酸飲料ボトル市場を盛り上げていくことになりそうだ。
4年前から本格的に開発開始
サーモスが約20年ぶりに炭酸飲料対応ボトルを復活させた。2022年3月1日の発売から1カ月半がたち、同社担当者によれば「販売店から予想を上回る多くの問い合わせをいただいている」という。4月以降は気温上昇に伴い、SNS上の購入者の声も増加している。
サーモスが初代の炭酸飲料対応ボトル「真空断熱イージーキャップボトル(FDD-500)」を発売したのは00年。初代はペットボトルを参考に企画した商品だったが、「十分な実績には結びつかなかった」と同社マーケティング部商品戦略室企画課マネジャーの樋田望氏は振り返る。04年に終売したが、10年以降、無糖炭酸飲料市場が拡大し始めた。「その後も炭酸飲料の市場自体が好調に推移し、特に無糖の炭酸飲料は種類も販売数も年々増加。当社でも炭酸飲料ボトルを復活させようという機運が高まり、18年ごろから本格的に開発がスタートした」(樋田氏)と言う。
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新商品開発に当たっては、炭酸飲料を入れて持ち歩いても漏れず、また保冷性能を維持したうえで、開栓時の安全性を確保することが必須条件となった。中でも特徴は、スープジャーの製品開発で培ったノウハウを応用したという蓋だ。
樋田氏によれば、現在販売している同社のステンレス製魔法瓶は炭酸飲料を入れることを禁止している。これは炭酸ガスの圧力により、蓋が開かなくなったり、飛んでしまったりするリスクがあるためだ。そこで19年から同社のスープジャーに採用している「クリックオープン構造」を応用し、課題を解決することにした。
「スープジャーは温かいスープや味噌汁などを持ち運ぶ商品だが、内容物の温度変化に伴い圧力も変化するため、蓋が開かなくなることなどのないよう研究し、開発してきた。こうした圧力に対するケアのノウハウが、炭酸の対応につながるのではないかと考えた」(樋田氏)
蓋はひと回し、つまり1回クリックしただけでは少しすき間ができ、栓本体に設けた圧力開放穴から圧力を逃がす構造になっている。「もし圧力開放穴が詰まっているなど機能しない場合には、左右2カ所に用意した溝から圧を逃がす、2重構造にしている」(樋田氏)。なお圧力が異常に高まった場合は、蓋をひと回ししなくても中の圧力が逃げるようになっている。
他社とも合わせて市場を盛り上げたい
同社社長室ブランド戦略課マネジャーの簑島久男氏は、「栓のねじのかかりがしっかりしていないと、蓋が飛んでしまう可能性がある。また長く使って摩耗するとかかりが弱くなってしまうため、樹脂は硬いものを採用している」と言う。「耐久性、摩耗性の面からも安全に配慮している」(簑島氏)とのこと。
洗浄性を高めるため、パーツを分離できるようにしているので、加糖の炭酸飲料を入れた場合もしっかり洗って清潔に保てる。また、飲み口も口当たりのよい金属製のシンプルなものにし、飲みやすさを重視した。
容量とカラー展開は500ミリリットルが3色、750ミリリットルが2色。簑島氏が「ぱっと見は『これで炭酸飲料OKなの?』という仕上がりにしたかった。お客様からは『これが炭酸飲料ボトルとは……』と驚いていただいている」と言うように、構造だけでなくデザインもシンプルだ。デスクに置いても、バッグに入れても邪魔になりにくく、日常的に使いやすい。
「オフィスやジムなど様々なシーンで使うことを想定した」(樋田氏)そうで、炭酸飲料を飲んでリフレッシュしたいと思ったときに、すぐに飲める状態が保てる。なお、同社ではビールやハイボールを入れることに関しては問題はないものの、「コンセプトとしては無糖炭酸飲料を想定している」と樋田氏。
調査会社の富士経済によれば、21年の炭酸飲料市場はコンビニエンスストアや自動販売機での需要は減少しているが、有糖炭酸ではテレワーク時のリラックスやリフレッシュ需要の獲得、果汁系炭酸飲料での高果汁など付加価値商品の好調により活性化しているとのこと。また無糖炭酸は割り材用途やじか飲み需要で好調が続いており、市場自体は伸びているという。その結果、21年の炭酸飲料の市場規模は5530億円、前年比101.4%で、26年には5620億円まで伸びると予測している。
すでにSNSなどではタイガー魔法瓶の「真空断熱炭酸ボトル」と比較検討する人も見られるようになった。今後は「ともに炭酸飲料ボトル市場を盛り上げていきたい」(簑島氏)と言う。