アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」などを日本で展開するスポーツアパレルメーカーのゴールドウインが、事業と環境のサステナビリティー実現に向けた新プロジェクト「Goldwin 0」の詳細を発表した。取り組みの一つとして、植物由来の糖類をエネルギーにする微生物から作られる、環境に配慮したタンパク質素材「ブリュード・プロテイン」を使用したフリースとデニムの発売を予定。世界2位の環境汚染産業といわれるアパレル産業で、ゴールドウインが世界に発信する事業のあり方のキーワードは「循環」にある。

2022年3月24日にゴールドウインの事業戦略発表会に登壇した同社渡辺貴生社長(左)とスパイバーの関山和秀代表(右)
2022年3月24日にゴールドウインの事業戦略発表会に登壇した同社渡辺貴生社長(左)とスパイバーの関山和秀代表(右)

ファッションロスゼロへ向けた開発へ

 ゴールドウインは2022年3月24日に事業戦略発表会を開催し、新たな中期5カ年経営計画「PLAY EARTH 2030」に基づく、環境に配慮した新たなプロジェクト「Goldwin 0」の詳細を発表。またコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)「GOLDWIN PLAY EARTH FUND」を設立し、イグニション・ポイントベンチャーパートナーズ(東京・渋谷)と共同で運用していくことも併せて発表した。

 PLAY EARTH 2030では、材料や製品などの廃棄物削減やリペア・リサイクル事業の強化、カスタムオーダー拡大によるファッションロス(衣料品廃棄)ゼロの実現、環境負荷低減素材を使用した製品比率を90%以上に引き上げるグリーンデザインの推進などにより、循環型社会の実現を目指すという。その中でGoldwin 0を実験的なプラットフォームと位置付け、先端技術と環境に配慮された新素材などを掛け合わせた多様なシーンで機能するウエアを、カテゴリーやレーベル、国境の壁を越えて開発していく。

 この日、発表されたGoldwin 0の新製品は、新世代バイオ素材開発を手掛けるスタートアップ企業、Spiber(スパイバー、山形県鶴岡市)が開発する植物由来の人工タンパク質繊維素材「Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)」を使ったデニムやフリースで、22年秋冬シーズンに発売するもの。

 ブリュード・プロテインは、植物由来のバイオマスを主な原料とし、スパイバー独自の微生物発酵(ブリューイング)プロセスにより作られる。主原料を石油に頼ることなく、環境負荷が小さいことが最大の特徴だ。ポリマーや繊維、フィルムなど様々な性質を付与することができるため、アパレル分野以外にも自動車など輸送機器用途などで素材開発が進んでいる。土壌や海洋環境で早く分解されるため、化学繊維がもたらすマイクロプラスチック海洋汚染問題の解決策としても注目されている。

 ゴールドウインは15年にスパイバーへ30億円を出資し、これまでにもブリュード・プロテインを使用したパーカー、Tシャツ、セーターを数量限定で発売しており、今回が第4弾となる。同社の渡辺貴生社長によれば、製品の完成度は「他の取り扱いブランドに引けを取らないレベル」に仕上がっているといい、日本国内の直営店の他、米国、ドイツ、中国など海外の直営店での展開も目指す。

 今回発表した製品の価格帯はザ・ノース・フェイスなどの商品と同等の予定で、例えばアウトドアジャケットの予価は1着約15万円。今後は米国とタイでの量産を視野に入れ、より多くの人が購入できる価格帯に近づける考えだ。

 スパイバーの関山和秀代表は「20~30年後にはタンパク質素材を使った服が、一般的な価格になっていると思っている。米国の工場が稼働すると生産規模は1000トンから数千トンになるが、これでもまだ現在生産される化学繊維の1万分の1の規模。スケールアップで技術が向上すれば、普及商品に対抗できる価格まで抑えていけるだろう」と今後の展望を話した。

スパイバーの関山代表
スパイバーの関山代表

 またカルバンクライン、プラダ、ラルフローレンなど、現代のファッションシーンにおけるラグジュアリーブランドでは、動物の毛皮を使用しない「ファーフリー」を宣言しているブランドが増えてきている。渡辺社長は「世界最大の投資会社もサステナビリティーに配慮しない会社には投資をしないと言っている」ことに言及。20年に米資産運用会社、ブラックロックのラリー・フィンクCEO(最高経営責任者)が「サステナビリティーリスクが高いとされる資産を投資対象から外す」と明言したことなどを受け、ブリュード・プロテインによるファーの開発も進めていると話す。「当社でもこれまで小さな動物の毛皮を使った製品を作ってきたのは事実。だが今はもうそういう時代ではない。ファーはもともとタンパク質であり、われわれの得意分野だ」(渡辺社長)とし、素材の開発により消費者の意識を変えていく考えを示した。

Z、ミレニアル世代へのアプローチ

 サステナブルな企業を目指す姿勢は将来主要顧客となり得るZ世代、ミレニアル世代へのアプローチでもある。渡辺社長は「彼らは自分たちの未来を真剣に考えているし、こうした状況をつくったわれわれ世代に強いメッセージを送っている。彼らと共にどういった未来をつくっていくかが重要なミッションだ」と説明。製品自体の特徴によって顧客の期待に応える従来のあり方でなく、「世の中のプラスになる選択をしているブランド」というスタンスを理解してもらう重要性にも目を向ける。

 今回発表されたCVCもサステナブルな事業開発への取り組みの一つだ。CVCはゴールドウイン、イグニション・ポイントベンチャーパートナーズの両社において初の取り組みであり、「共同での運用は珍しい」とイグニション・ポイントベンチャーパートナーズの田代友樹代表。ゴールドウインの企業理念「PLAY EARTH」を基にしたファンドステートメント「あそびをデザインする」を掲げ、スポーツアパレルメーカーの革新、コミュニティーの創造、人と自然が共生する地球環境実現のためのサービスやテクノロジーを投資領域として、スタートアップへの投資を進めていく方針を明らかにした。

イグニション・ポイントベンチャーパートナーズの田代友樹代表
イグニション・ポイントベンチャーパートナーズの田代友樹代表

人工タンパク質素材としての期待

 渡辺社長はGoldwin 0の狙いについて「スポーツアパレル業界は先進的なテクノロジーに注力してきたが、これからは人間の本質的なテクノロジーに目を向けていく必要がある。化学繊維とは異なる循環性を持つブリュード・プロテインを素材として採用することで、人種や国境の壁を越えて1つの世界としてつなげ、機能やファッションという領域を包含していくコレクションに育てていきたい。世界に貢献できるスタンスをつくり上げ、それに共感できる仲間と共にムーブメントを大きくしていくことがこれからの未来をより良くしていくために必要なアクションだ。PLAY EARTHの言葉が表す、地球と遊ぶようにより良い循環をデザインできる企業を目指していきたい」と説明した。

 新プロジェクト名「0」には「循環」の意味を込め、それを前提にしたビジネスのあり方、製品のあり方を目指しているゴールドウイン。同社の動きとともに、ブリュード・プロテインが石油由来の化学繊維や天然素材に代わる素材として台頭できるかにも期待がかかる。

ゴールドウインの渡辺社長は「これからは人間の本質的なテクノロジーに目を向けていく必要がある」とした
ゴールドウインの渡辺社長は「これからは人間の本質的なテクノロジーに目を向けていく必要がある」とした

(画像提供/ゴールドウイン)

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